校長室
学生たちの休日10
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★ ★ ★ 「んー、人多いね。迷子にならないように気をつけないと」 「ほんとうねー」 西村鈴に言われて、はぐれないようにと、奥山沙夢が雲入弥狐の腕をつかみました。空京神社の参道は、思った以上の人出です。 「予想はしていたが、やはり結構な人出だなあ」 空京神社の参道の人混みをかき分けながら、源鉄心が言いました。 坂道となっている参道は、行き交う人が列を成して歩いています。 「そういえば、あそこの神社はどうなったんだ?」 好奇心から、源鉄心が参道から横道に逸れました。 細い、道とも言えない小径に、朽ちた鳥居が見えます。誰が備えたのか、小さな御神酒とゆるストラップが供えられていました。 以前、この先にゆる族の神社跡があったのですが……。 「こっちへ行くのですか?」 ちょっと不安そうに、ティー・ティーが言いました。ちょっと、あまりいい思い出がありません。 「でも、途中で行き止まりになってますわ」 イコナ・ユア・クックブックが言いました。 道の途中で、左右に立てられた二本の杭の間に注連縄が渡されていて、通行禁止になっています。 その先は、大きな崖崩れがあって立ち入り禁止になっていました。崖自体は、補強工事が成されてそれ以上崩れないようになっていますが、以前神社があった場所は跡形もなくなっていました。 ゆる族の墓場として発掘された着ぐるみの埋まっていた穴は、今も発掘調査が行われていますが、新たな発見は今のところ何もないようでした。 「うーん、何もないか。じゃあ、みんなで空京神社の本殿に行こう」 「はーいうさ」 「はーいですわ」 「はい……」 パートナーたちに声をかけると、源鉄心は本殿の方へとむかいました。 ★ ★ ★ 「まずは、鳥居の前で一礼するんだ」 緋桜ケイが、悠久ノカナタからいろいろと教えてもらったメモを見ながら言いました。 まずは、神様に挨拶です。 参道は、本殿の前を横切らないように端を歩きます。 「真ん中はダメなのか?」 「横切れるのは宮司さんだけ」 ちょっと不満そうな雪国ベアに、緋桜ケイが答えました。 慶大に辿り着くと、まずは手水舎で手と口をすすぎます。 「左手、そして右手、手に水をすくって口をすすいで、最後にこう柄杓を立てて柄を洗うんだ」 「はい」 緋桜ケイが丁寧にやって見せて、ソア・ウェンボリスがそれに倣います。 「面倒だなあ。と言うより、ゆる族もする必要があるのか?」 雪国ベアが言いますが、さもありなんです。 「ふう、やっと賽銭箱に辿り着いた」 ソア・ウェンボリスたちと一緒の緋桜ケイが、空京神社のお賽銭箱の前でほっと安堵の息をつきました。 「ゆっくりしている間はないぜ、早くお参りしないと」 後ろにならぶ人たちを見て、雪国ベアが急かします。 賽銭箱に小銭を入れると、鈴をならしてから二拍一礼します。 『今年もみんなが平穏無事に過ごせますように……と』 「二人は何をお願いしたんだい?」 「内緒です」 「内緒だぜ」 緋桜ケイに聞かれて、ソア・ウェンボリスと雪国ベアが顔を見合わせて答えました。 ソア・ウェンボリスたちが賽銭箱の前を離れると、順番を待っていた水原ゆかりとマリエッタ・シュヴァールが賽銭箱の前に立ちました。 チャリンとお賽銭を投げ入れると、マリエッタ・シュヴァールが両手を合わせてお願いをします。 『今年こそ、メイガスになれますように。胸がもう少しだけ大きくなりますように。それからそれから……』 小銭一枚で、思いっきりお願いを連発するマリエッタ・シュヴァールでした。 カーリーはどうしているかと、チラリとマリエッタ・シュヴァールが水原ゆかりの方をチラリと盗み見しました。 『どうか地球もパラミタも平和でありますように……』 水原ゆかりの方は、静かに、そして真剣に祈っていました。その姿を見て、マリエッタ・シュヴァールが、さすがにちょっと恥ずかしくなります。どう見ても、自分のような欲望全開というふうには見えません。 「さあ、もういいですか?」 「ええ」 お祈りの終わった水原ゆかりに聞かれて、マリエッタ・シュヴァールはそう答えました。 「さあ、私たちの番よ」 入れ替わりに、今度は奥山沙夢たちが賽銭箱の前に立ちました。 御縁がありますようにと、五円玉をお賽銭として投げ入れます。 『運命の人と出会えますように、と。そして弥狐と鈴が元気に過ごせますように』 二拍一礼して、奥山沙夢が祈ります。 それを見よう見まねして、雲入弥狐も祈りました。 『沙夢が健康でいられますように。後、甘いものが食べたいなー』 「私はこの方式かな」 二礼二拍一礼すると、西村鈴が祈りました。 『猫に好かれたい、猫に好かれたい、猫に好かれたい……』 一心不乱に、それだけを祈ります。 「もう、そのくらいにしたら」 いつまでも祈り続けようとする西村鈴を、さすがに奥山沙夢が引きずって行きました。 「翔くん、空いたよ」 やっと順番が回ってきて、晴れ着を着た桐生 理知(きりゅう・りち)が辻永 翔(つじなが・しょう)と共に賽銭箱の前に立ちました。 「やれやれ、ここに来るまでが一苦労だったぜ」 そう言うと、辻永翔がバンバンと手を合わせます。 『今年も、翔くんと一緒でいられますように』 その横顔をチラチラと見ながら、少し頬染めて桐生理知もお祈りしました。 「さてと、後はおみくじかな」 そう言うと、辻永翔が、桐生理知の手をとって札所へとむかいました。 ★ ★ ★ 「やあ、やってるね」 札所にやって来た緋桜ケイが、悠久ノカナタを見つけて声をかけました。 「こんにちはー」 「よう」 一緒にやって来た、ソア・ウェンボリスと雪国ベアも挨拶をします。 「おお、やっと来たか。さあ、おみくじを引いていけ……じゃなかった、どうぞお引きください」 知り合いの顔を見て気楽に声をかけた悠久ノカナタが、今はバイト中だということを思い出して、あわてて言いなおしました。 「どれどれ……」 言われるままに、緋桜ケイたちが順番におみくじを引きました。 「ええと、――末吉。まだまだ波瀾万丈。知りたかったことを知るでしょう……。うーん、いったい、どのことなんだ?」 知りたいことはたくさんあって、いまひとつピンとこない緋桜ケイでした。 「私は……。――中吉。南西が吉方です。――これって、空京から見て? イルミンスールから見て?」 ソア・ウェンボリスが小首をかしげました。空京からであればゴアドー島ですし、イルミンスールからでしたらツァンダか葦原島です。 「まったく、曖昧だぜ」 いいかげんだなあと、雪国ベアが少し呆れます。 「ふふ。おみくじとは、古来、そういうものだ」 きっぱりと、言い切る悠久ノカナタでした。 「あっ、それと絵馬もください」 ソア・ウェンボリスが言いました。 「はい、ありがとうございます」 すっかり売り子モードになった悠久ノカナタが、営業スマイルを浮かべて絵馬を渡しました。