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悪戯双子のお年玉?

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悪戯双子のお年玉?
悪戯双子のお年玉? 悪戯双子のお年玉?

リアクション

「フレリア、最近、夢見が悪いと言っていただろ。あの賑やかな双子から夢札を貰って来た」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は以前、分身事件で見知った双子から貰った三枚の夢札をヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)フレリア・アルカトル(ふれりあ・あるかとる)に見せながら言った。
「必ず夢を見せる夢札ですか〜。フレリアお姉ちゃん、使ってみたどうですか。きっと素敵な夢が見られますよ〜」
 ヴェルリアは真司から夢札を二枚取り、一枚をフレリアに渡しながら楽しそうに言った。
「……必ず夢を見せる夢札ねぇ。もし好きな夢が見られると言うなら夢でもいいからあの人にもう一度会いたいわ。会って何かをするわけではないけど」
 フレリアは夢札の裏書きを確認しながら一番会いたい唯一の人を思い浮かべていた。
 三人は夢札を使う事にした。

 気持ちの良い青い空に青々と茂った草原。平和そのものの風景。

「……ここがフレリアお姉ちゃんの夢。フレリアお姉ちゃん?」
 フレリアの夢にお邪魔したヴェルリアはきょろりと辺りを見回す。どこにもフレリアがいない。少しばかり不安が心に生まれる。
 その時、聞き知った声がヴェルリアの耳に入る。
「……ヴェルリア」
 ヴェルリアと同じようにフレリアの夢に入った真司だった。
「真司! フレリアお姉ちゃんが見つからないです」
「少し歩いてみようか。きっといるはずだ」
 ヴェルリアの言葉に面倒見の良い真司は優しく答え、一緒にフレリアの元へ行く事にした。

「ここが私の夢。あの人はいるかしら」
 夢の中のフレリアは周囲を見回す。
 そんなフレリアの背中から
「ヴェルリア」
 自分の昔の名前を呼ぶ女性の声が降って来た。
「……!!」
 フレリアは勢いよく振り返った。いつの間にか洋風のどこかの庭園にある茶会場に風景が変化していた。
「ほら、どうですか? ケーキを作ってみました。味見をしてくれませんか」
 美味しそうなホールケーキを手にした淡緑のロングウェーブの温和な女性がいた。フレリアにとって大切な人。
 フレリア・アルカルト、認識番号だけだった自分にヴェルリアという名前を与え、今の名前フレリアを貰った相手。温和でのほほんとした自分の世話係の研究員。辛い実験をさせられている時、同じように心を痛め、どんな時も優しく姉や母親のような人。今はいない。自分が引き起こした実験中の暴走事故で亡くなってしまったのだ。真の原因は反対派の妨害であってフレリアではないけれど。
「……あ」
 フレリアはぼんやりとケーキと亡くなった時と変わらない姿の研究員フレリアを見比べていた。本当に会えるとは思っていなかったから。会いたいとは願っていたのだが。
「……ケーキよりクッキーの方が好きでしたか?」
 研究員フレリアはぼんやりしているフレリアを見てケーキが気に入らないと勘違い。
「……いいえ、貴女が作った物なら何でもいいわ」
 フレリアは急いで頭を振って答えた。
「ありがとうございます。ほら、座って下さい。お茶を淹れますね」
 緑色の瞳を嬉しそうに細めた研究員フレリアは紅茶を淹れようとティーポットを手に持った。
「……私が淹れるから貴女は座っていて」
 フレリアは研究員フレリアを止めた。自分は彼女にして貰ってばかりだったから何かしたかった。
「そうですか? それじゃ」
 研究員フレリアはティーポットをフレリアに預け、近くの椅子に座って楽しそうにフレリアを見ていた。
「……どうぞ」
 フレリアはティーカップを研究員フレリアの前に置いた。
「……楽しいですね。姉妹というのはこんな感じでしょうか」
 研究員フレリアはカップを手に笑顔。
「……フレリア。私、貴女に話したい事が一杯あるの」
 フレリアはせっかく淹れた紅茶も飲まずに胸に詰まる言葉を吐き出した。
「……ずっと世話をしてくれてありがとう。それからごめんなさい。貴女の命を奪って」
 フレリアは以前、墓参りの時に言った言葉を口にした。自分の夢の住人だけど今なら答えが返って来るだけでなく研究員フレリアの顔を見ると言わずにはいられなかったのだ。
「お礼を言うのは私もです。あなたと過ごす時間はとても楽しかったです。あの事故はあなたのせいではありませんし、謝らなければならないのは私の方です。実験の研究員の一人で何より世話係なのにあなたを守れませんでした」
 研究員フレリアはほのかな笑顔から思い詰めた表情に変わった。可愛がっていたフレリアに心を痛めていたのに言葉をかけ頭を撫でる事ぐらいしか出来なかった。もしかしたらあの暴走事故が起きる前に本当にフレリアを救う何かが出来ていたのではないかと。
「……そんな事は……あなたは違う。私に名前をくれて優しくしてくれて」
 フレリアは頭を振り、研究員フレリアの言葉を否定する。世話係でしかない研究員フレリア一人では自分を救うなど無理な事、あの時、身体は救われなかったが心は研究員フレリアに随分救われていた。

「……ヴェルリア、今は幸せですか?」
 唐突に研究員フレリアは何を思ったのか訊ねる。柔和な表情で。
「……それは……前よりはずっと幸せだけれど」
 フレリアは緑色の瞳を見つめながらゆっくりと答える。今は真司もいる、姉と慕ってくれるヴェルリアもいる、昔よりはずっと幸せのはず。
「それならいいです。私にとってそれが一番です。それよりケーキの味はどうですか?」
 研究員フレリアはフレリアの言葉に満足そうに笑顔を浮かべ、話題を変えた。彼女にとってフレリアが幸せならそれで十分なのだ。
「……美味しいわ」
 フレリアは答え、ケーキを食べ終えた。
「それならもう一つどうですか?」
「……少し大きくないかしら……でも夢だからいいわね」
 研究員フレリアが切り分けたケーキをフレリアの皿に乗せようとするも少々、大きな事に軽く文句を言うフレリア。結局は夢だからと食べてしまう。

 フレリアが研究員フレリアと会ってからしばらく後。
「真司、フレリアお姉ちゃん見つけましたよ! 知らない女の人と楽しそうに話してますよ。あんなに楽しそうなに話しているのは初めて見ます」
「……そうだね。行こうか」
 ヴェルリアは真司に言いながらフレリア達がいる方向を指さした。

「フレリアお姉ちゃん!」
 ヴェルリアはフレリアの名前を呼びながら駆けた。真司はゆっくりと歩いている。
「ヴェルリアに真司」
 フレリアは振り向き、ヴェルリアと真司を迎えた。
「?」
 研究員フレリアは珍しげにヴェルリアと真司に視線を向けた。
「この子はヴェルリア……」
 フレリアはヴェルリアを紹介し、ヴェルリアが後天的に生まれた自分の模擬人格で紛らわしいからと研究員フレリアに貰った大切な名前をあげた事を話し、ヴェルリアにも研究員フレリアを紹介した。
「そして、私は今フレリアとあなたの名前を貰ったの」
 フレリアは研究員フレリアに今の名前を話した。
「そうですか。素敵ですけど少しだけくすぐったいです、ヴェル……フレリア」
 研究員フレリアは嬉しそうにするも少し照れくさそうにしてフレリアの名前も言い間違えそうになる。

「初めまして、ヴェルリア」
「よろしくです」
 研究員フレリアとヴェルリアは互いに挨拶を交わした。この後、真司とも挨拶を交わした。

「ヴェルリアも真司もお茶とケーキをどうぞ」
 紹介を終えた研究員フレリアは楽しそうに新たな客人のためにいそいそと準備をする。
「うわ、美味しそうです」
 ヴェルリアは嬉しそうに用意されたケーキを頬張った。
 賑やかな時間が過ぎていく。

「……ドーナツもどうぞ」
 研究員フレリアは皿が空っぽになっているヴェルリアに新たなお菓子を勧める。すっかりヴェルリアと研究員フレリアは仲良しになっていた。
「美味しそうです。フレリアお姉ちゃんも」
 ヴェルリアは嬉しそうに自分とフレリアの分を取って、フレリアの皿に載せようとする。
「……ヴェルリア、まだケーキを全部食べていないのだけど」
 フレリアはまだ残っているケーキをフォークで突きながら軽く文句を言いながらも断る事はせずドーナツを受け取る。

 その様子を見ていた研究員フレリアは
「……ふふ」
 微笑ましそうに笑っている。
「何? フレリア」
「楽しくて、フレリアがお姉ちゃんをしているのを見るのが」
 訊ねるフレリアに研究員フレリアがからかいを含んだ優しい笑みを浮かべながら言った。
「……フレリア」
 フレリアは研究員フレリアの言葉にため息をつくも反論出来ない。ヴェルリアを鬱陶しいと思いながらも研究員フレリアの言葉通り““お姉ちゃん””をしているので。
「フレリアお姉ちゃん、素敵な夢が見られましたね〜」
 ヴェルリアはドーナツを食べながらにっこりと笑った。
「そうね」
 フレリアはヴェルリアと研究員フレリアの顔を見回しながらほのかに笑った。
「……良かった」
 真司は紅茶を飲みながらフレリアとヴェルリアの様子を見守っていた。
 この後も、賑やかなお茶会は目覚めが訪れるまで続いた。