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【第三次架空大戦】這い寄る闇

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【第三次架空大戦】這い寄る闇

リアクション

 そして、戦場に嗚咽が充満した。
 だが、嘆いている暇はない。
 魔龍と機械魔が、波状攻撃をしてくる。
「全艦ミサイル斉射! 勇者たちを守れ!!」
 勇者たちは、その気力が戦力に大きく影響する。そういう仮説もあったがそれはあながち間違いではないのかもしれない。
 意気消沈した勇者たちは、敵の攻撃を受け続けていた。
「ちょっと! みんな、しっかりして! ここで私達がやられたら、先生の敵は誰がとるのよ!」
 リリーが叫ぶ。
「くっ! この! この! 退けええええええええええええええええ!!!」
 ミサイルを発射して他の勇者たちを守りつつ、ビームサーベルで近づいた敵を切り払っていく。
「ねえ! このままじゃ!!」
「ふん! リリーの言うとおりじゃな。忍、何をぼさっとしておるか! 立て! 立って戦え! 武器をとれ! 敵を倒せ! それが我らの役割ぞ!」
 誰よりも立ち直りが早かったのは、信長だった。
「……そうだ、な。負けてたまるか! 第六天魔砲スタンバイ」
 忍が力を込めて言う。
「良かろう! エネルギーは溜まっておる。撃てえええええええええええええええ!」
 忍が銃爪を引くと、衝撃波が魔龍と機械魔を襲う。
「続いていくぞ、忍!」
 捕食形態に変形した天魔砲が、魔龍や機械竜を喰らう。
 だが……
「ふぁっふぁっふぁっふぁ」
 戦場に笑い声が響く。
 全員が視線を動かしたその先には、黄金色の巨大な招き猫がいた。ゴールデン・キャッツである。
「我は、ヘルガイア情報統制総司令官マネキ・ング(まねき・んぐ)である」
「ハーイ! 僕マイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)。マイキーって呼んでね♪」
メビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)です〜」
 登場とともに自己紹介をやってくださった敵の司令官に、国軍からは溜息が漏れる。
「ふざけおって。突っ込むぞ忍!」
「おうともよ!」
 第六天魔王が突進するが、招き猫の腕部が切り離され、浮遊砲台として第六天魔王を牽制する。
「これは、やりづらいな……」
 忍が冷や汗を流しつつそう言うと、信長もそれに同意する。
「ものども、何をぼさっとしておるか。とっとと戦線に復帰せぬか!」
 信長の檄が飛ぶ。
「でも……」
 フレイや
「先生……」
 美羽
「なんで……」
 勇平たちは立ち直れないでいた。
「しっかりしなさい! ここで私達がやられたら!」
 朋美も叱咤するが、それでもイーリャの開けた穴は大きかった。
 魔龍のブレスが勇者たちを襲う。
「これは、そろそろ出るしかないようですね」
 湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)が通信でそう言うと
「そうだな。覇王マクベス……今こそこれを出す時だろう。旧オリュンポスの技術が詰まった未完成機をここまでレストアできたか。だが、その代償は少し大きすぎる。まさか流星機たちが敵となるとはな。ネオオリュンポス計画、それで一体、どれほどの人材はやられた?」」
 その通信を受け相沢 洋(あいざわ・ひろし)が頷いたあとに部下に尋ねる。
「現在の状況ですが、教導隊隊員の死亡は1名、同時に反乱を起こした一般部隊はほぼ壊滅状態。旧オリュンポス残党は機体もろとも全員、正規軍に投降。
 計画通りに勇者を分解して構造解析すらしたがっていた技術研究局の連中も勇者と対等に戦える機体の素体、それをくれてやるのには成功しました。
 もっとも当初予定していた残党軍管理による新人教育計画は破綻しましたが。洋様もひどいお人ですね。反乱を起こしてオリュンポス系技術を掌握、それを技研局に提供すると共に軍内部のガス抜きをしつつ、新人の敵になるという道化を演じるのですから……しかし、計画は半分破綻した以上、軍に復帰すべきです」」
 乃木坂 みと(のぎさか・みと)の警告に洋が頷く。
「そうだな。マクベスの準備を。機体の状況は?」
 軍剣を取り、マントを羽織り、軍帽をかぶりながら洋は尋ねる。
「了解。機体についてだが、イェーガーは完全大破。教導隊用の同型機の残骸を回収してニコイチ修理するもメーカー修理確定のは損レベルですので数は確保出来なかった。そこで、この旧オリュンポスの秘密基地の1つに隠匿されていたマクベス、こいつを無理やり武装と操縦系を改造している。というのがこのマクベスの来歴だ。そのかわりこれは勇者とも互角に渡り合えるようにできてる」
「了解している。隊員への保証の件は?」
 相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)の説明を聞きつつ、一緒に反乱を起こした隊員たちの処遇について尋ねる。
「計画発動前に約束してもらった通りに政治的に根回しをして、死亡した隊員全員には二階級特進の上、遺族年金が出るようにしてもらったし、オレッチたちの立場は今までどおり正規軍扱いですよ。その代償にオレッチは一般兵卒に鞍替えだ。なんでも正規軍の技術官僚が反乱軍技術将校じゃあ、体面が悪いそうだ。まあ、いいけどね」
「ふむ……それでは、でるか」
「はい。マクベスの火器管制はお任せ下さい。それよりも、この地下の秘密基地の技術を先に持って行ってください。戦闘はこちらで引き受けますから」
 エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)がそう言って技術資料を手渡す。
「よろしい。では、覇王・マクベス出るぞ!」
 コクピットにみととともに乗り込み、各種スイッチを操作する。
 コクピット内部に駆動音が響き、明かりが灯る。
「各種システムオールグリーン。いつでも行けます」
 みとがシステムをチェックして報告する。
「よし! ハッチ開け!!」
「ご武運を!」
 エリスが敬礼をしてからパネルを操作して、ハッチを開放する。
 そして一方、学校の地下でも動いている人がいた。
「土佐の発進準備終了しました。いつでも行けます! 艦長、そろそろ降りてきてください」
 高嶋 梓(たかしま・あずさ)が亮一に連絡を入れる。
「了解。今行く」
 亮一は運動場脇の用具倉庫のロッカーを開けると、その中に滑りこむ。そして、ロッカーに偽装されたエレベーターで地下の秘密ドッグに移動する。
 そして、そのまま戦艦土佐の艦長席に着席する。
「運動場にいる全生徒に避難命令! これより戦艦土佐が発進します。運動場にいる生徒は直ちに校舎に避難してください。繰り返します。運動場にいる生徒は直ちに校舎に避難してください」
 梓の避難指示に従って、生徒たちが校舎に入っていく。
 100メートル走のための直線のトラックが浮き上がり回転する。トラック内側の地面が左右に開き、内部のドッグが存在をあらわにする。
 トラックが半分に折れ、都合4本の50メートルの直線が束になってドッグから斜めに生えるような形状になる。
「土佐発進!学園上空に出たら荷電粒子砲発射だ!」
「土佐、発進!」
 ドッグからレールでトラック部分まで運ばれた土佐は、カタパルトとなったトラック部分が帯電を始めるとすこしずつ浮き上がる。そして、帯電が頂点を極めるとリニアレールキャノンの要領で射出され、空中に飛び出た時点でエンジンに点火する。
「目標、勇者に群がっている魔龍の群れ! 荷電粒子砲、うてええええええええええ!!」
 亮一が腕を振り下ろした瞬間、艦首にある荷電粒子砲が火を噴く。
 分厚いエネルギーの帯が魔龍の群れに雷神の槌のように突き刺ささって大きな穴を穿つ。
「旧オリュンポス系技術と教導団系技術の融合体、これぞ覇王マクベスなり! 対空、対地攻撃開始! わざわざ反乱の真似事までして奪ったオリュンポス系技術の力、技術研究局の奴らに成果を見せつけてやるのだ!」
 洋が叫ぶ。そして、2門のレーザーバルカンとミサイルを撃ちながら、その偉容は威風堂々と進撃を続ける。そして、敵と、勇者たちの間に割り込み、その身を持って勇者たちの盾となる。
「この、馬鹿餓鬼共が! 勇者がそれくらいで! 意気消沈するなら! 何のために我らが反乱の真似事までしたのか! こんなことなら貴様ら全員おとなしく分解させておくべきだったぞ!!」
 通信回線と外部スピーカーを通して、洋の声が響く。
「え? 教官が反乱を越したのは……?」
 ベアトリーチェが疑問を投げかけると、ルースがそれに答えた。
「あー、わりいな嬢ちゃん。一部の勇者を分解しようと主張する技術者をおとなしくさせるために、上層部の方で一芝居打ったんだわ。ついでにオリュンポスの技術を入手するって目的もあったがね……」
 ルースはそう言って頭を掻いたあとスマンね、と言った。
「まあ、我が部隊の隊員も何人か死んだが、それこそ国軍は神名を賭して国を守っているんだ。元国軍のエースだったイーリャにしても、いつも死を覚悟していただろうな。だから、お前たちがイーリャの死を嘆いて戦いを放棄するならば、それこそイーリャの死を無にし、その意志を侮辱する最低の行為だ。もしお前たちがイーリャに報いたいと考えるならば、戦え。戦ってて気を打ち砕け!」
「そうじゃ! 戦士の魂に報いるには、戦うのが一番じゃ!」
 洋の言葉に、信長が続く。
「マスター、そして勇者の皆さん。私も彼の言うことが正しいと思います。ですからお願いします。戦ってください」
 そう言ったのは、勇平の勇者バルムングの生体制御ユニットであるセイファーであった。彼女は、主を想い、主の友を想い、必死に言葉を絞り出す。
「……わかった。そうだな。そのとおりだ。セイファー、エンジンフルドライブ。オーバーロードだ。おまえには負担をかけるが、一気に戦局を変えるぞ!」
「マスター!!」
 覚悟を決めた勇平の言葉に、セイファーは喜びの表情を浮かべる。
「了解。動力炉臨界点まであと、5……4……3……2……1……臨界点に達しました。予測機体稼動時間はおよそ3分です。確実に仕留めてください」
「いくぞおおおおおおおおおおおお!」
「滑空砲発射。敵の牽制はお任せください」
 そして、バルムングは飛翔して黄金の招き猫へと接近する。
「勇者よ、奴の攻撃は私が引き受けよう」
 ハーティオンがバルムングと並行して飛び、ゴールデンキャッツのビット攻撃やその他の攻撃を剣で、あるいは展開したエネルギーシールドで防ぎ、バルムングに攻撃を寄せ付けない。
 とは言え、ゴールデンキャッツのビーム攻撃は一撃一撃が非常に重い。ハーティオンには徐々にダメージが蓄積していく。
「ビーーーーーーーーーーーーム・愛!!」
 ことにマイキーの操る変則的な攻撃は予想がしにくく防ぐことが難しい一方で
「座標を 35の52に変更してください。今です!」
 メビウスの正確無比極まりない攻撃がそれに追い打ちをかける。
「ハーティオン、すでに下半身が使い物にならなくなってる。それ以上ダメージを受けると!!」
 高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)の警告を受け取りつつも、ハーティオンはここで粘らねば、すべてが無駄になると言い放ち、そのままバルムングの護衛を続ける。
 と、唐突にハーティオンの胸にあるハート・クリスタルが輝きだし、圧倒的な量の記憶がハーティオンの鋼鉄の頭脳に流れ込んできた。
「な、なんだこの記憶は! これは……かつての戦い……! そして……これは!なんと言う事だ……そうか、これがヘルガイアの正体……! いかん! このまま戦っても私たちに勝ち目は無い! ……しかし皆に伝えるにはあまりにも時間が無い……! そしてこの敵の怒涛の攻撃……このままでは!」
「ハーティオン! 何を言っているの!?」
 ハーティオンの突然のひとりごとに驚いた鈿女が呼びかける。だが、ハーティオンのひとりごとは止まらない。それどころか、通信回線を通じて全軍に呼びかけ始めた。
「皆! 今のままの私達ではヘルガイアを倒す事は出来ない! 『ティル・ナ・ノーグ』の地を目指せ! そこに、かつての戦いの記憶が……ヘルガイアの真実と勇者達の真の力が眠っている! ……奴らはここで、食い止めてみせる!」
 ハート・クリスタルの輝きが増す。そして、その瞬間、すべての敵の攻撃が停止した。
(願わくば……我が友カリバーンよ……記憶を取り戻し彼らを導いてくれ……! 国軍の皆……勇者の兄弟達……そして勇気ある少年少女達よ……! ……さらばだ……人々を……平和と希望を、君達に託……!)
「ハーティオン! 馬鹿なことはやめなさ……こんな時に情報転送……? 何、この情報……!? これ……あの時見たデータ……『ティル・ナ・ノーグ』の位置情報……! 待ちなさい、まだ話は終わって……!」
「ああ!! ハ、ハーティオンさーん!! そんな……そんなーっ!!」
 ハーティオンに保護された少女夢宮 未来(ゆめみや・みらい)が、その場面を目撃して、声にならない叫びを上げた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「マスター、活動限界残り5秒です!」
「問題ない! 一・刀・両・断!」
 暴走させたエネルギーが全て剣に注ぎ込まれる。そしてその剣は、金色の招き猫を捉えた。
「あっ、師匠〜そろそろ時間なので帰りますね〜」
 メビウスは、そんななか一人荷物をまとめて脱出ポッドに飛び乗った。
「ふにゃ!? どこへ行くのだ!?」
「へーい、敵の攻撃が命中するよ〜」
 マネキとマイキーのマヌケな声が響く中、バルムングの剣はゴールデンキャッツを縦一文字に切り裂き、数秒遅れて爆発を始める。
 そして、開かれたままになっていたヘルガイアのゲートに、脱出ポッドが消えていった。