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平安屋敷の青い目

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平安屋敷の青い目

リアクション



17時33分:ドラックストア

「――と言う事は、あれの親玉は、誰かの身体を乗っ取ってるってことね?」
 念を押す沙夢の言葉に、周囲に居た人々が恐れ騒ぎ始める。
「皆さん……動揺し過ぎ……です……
 大した事……ないです……よ?
 ……でも、どうにか……しないと……いけません……」
 みのりが一つ一つの言葉を紡ぐ様に話して行く。
「(美緒が)……話した……通り……彼らに……意思はない……です……
 問題は……鬼人…………」
 そこまで話して小さく息を吐いた彼女に、パートナーの二人が気遣っている。
「みのり、大丈夫?
 無理、してない?」
「霊なんてそんなもん、居ないと同じだろ。
 いちいち怖がる必要なんてどこにある?」
 アルマー・ジェフェリア(あるまー・じぇふぇりあ)がみのりの肩に手を置くと、グレン・フォルカニアス(ぐれん・ふぉるかにあす)も軽口を叩いた。
「このお店に居られる方は皆様大丈夫だと思いますわ。
 以前のっとられたわたくしだからこそ、というのはおかしいかもしれませんが……
 だからこそ何となく分かるんですの」
「説得力あるわよね、信じられるわ。
 ……ところで、あっちの方はどうかしら?」
 沙夢に言われて、真が首を振って戻ってくる。
 ”あっち”というのは、少し前にここへ合流した小鳥遊 美羽の事だった。


「どう? 美羽」
「まだ駄目だよー……」
 今、小鳥遊 美羽とパートナーのコハク・ソーロッド、そしてこちらも合流できたフレンディス・ティラらは小さな籠を囲んで難しい顔で固まっている。

 不思議な籠

 という名前を持つこの不思議な籠は、探し物を書いた紙を折り畳んで中に入れると、いつの間にかヒントが書き足されている事があるという
占いめいたアイテムだ。
 美羽はこの籠に、鬼の弱点。と書いたメモを突っ込んでいた。
 ところでこの籠、時間が経てばたつ程効果の程が上がるため、時計とにらめっこしながら時が経つのを今か今かと待っているところだったのだ。
「まだー?」
「まだ駄目」
「もう良いんではないでしょうか?」
「うーん、もうちょっと」
「いい加減いいんじゃない?」
「あと一声!」
「美〜羽〜〜」
 合唱が耳に入った瞬間、美羽は「今だ!!」と籠の中に手を突っ込んだ。


「…………」
「なんて書いてあるの?」
 メモを広げたまま固まる美羽に、三人は絵を覗き込む。
「何コレ、トイレットペーパー?」
「あ! 恵方巻きでしょうか?」
「長い、筒状の……なんだろうね」
「あああんもうだからあとちょっと待てば良かったのに皆が急かすからあああ」
 もうだめだー。と後ろに倒れた四人の上から、美緒達とドラックストアへ戻って来た壮太がメモをとりあげる。
「……これ、絵巻じゃねぇの?
 前の事件の時に鬼が絵巻から飛び出て来たってきいたぜ?」
 暫しの沈黙と時をもって
「絵巻!!!」
 勢い良く起き上がる四人。
「そーよ、そうにちがいないわ」
「そうだと思っていたんです」
「ああ、僕も気づいてたよ」
「知ってたもんね! あはあはははは」


「で。これ何処にあるんだよ」

「………………何処、でしょう………」
 壮太の声に四人は顔を付き合わせて、そしてまた再びコントのごとく後ろに倒れた。




17時40分:大通り

「あ。やだ。こないで。こないでよおおおお」
 哀願も虚しく、開いた口に伸びた爪を突き立てられる。


 今朝はいい天気だった。
 買い物に行こうと言うと、白鐘 伽耶(しらかね・かや)も、フユ・スコリア(ふゆ・すこりあ)も上機嫌で賛同してくれた。
 昼ご飯をゆっくり食べた後、空京の街へ行った。
 大通りに出て、少し散歩してから、お目当ての店に入ろうとした時だった。
 突然暗くなった空に、嫌な予感がした。
 見た事があると、反射的に思った。
 あれは一年前の事だった。
 否、”一年も前”のことだった。

 自分はあの頃未熟だった。
 あの時の様にはならない。
 あんな風にはならないと力を行使した。
 魔法を使った。
 覚えたての頃と違って、ある程度熟練してきたのだ。
 炎も、雷も、威力を増していた。
 それに氷が効く事も分かった。

「僕だって強くなったんですから!」
 伽耶は言っていた。
 怖いのが苦手なのに、あわあわしてるくせに、頑張っていた。

「魅入られた人達は任せろー!
 ペトリファイで調教しちゃうんだからね!」
 フユはそう言って怨霊の群れに身を投じた。

 氷と、石と、色んな魔法が入り乱れて、それでも誰もめげなかった。
 やがて夜に成ろうとしている時間になっても、三人は強かった。

 生きられると思った。
 彼女がくるまでは。

 同じ学校の子だから、油断した。
 にっこり笑って、仲間が見つかって良かったと言うから、歓迎した。
 してしまった。
 間違いだった。

 間違いだった。
 間違いだった。
 間違いだった。
 間違いだった。


 これはユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)が見た走馬灯。
 誰も知らぬうちに紡がれた物語。





18時02分:ドラックストア

「ねえ、誰か、居ないの? 開けて! 殺されちゃう!!」
 硝子戸の向こうから微かに聞こえて来た声に、キロスは立ち上がって駆け寄った。
「香菜! 無事だったんだな!!
 待ってろ、今開けてやるぜ」
 事件が起こってから、行方知れずだったパートナーが無事で立っている。
 高鳴る気持ちに、キロスは笑顔でバリケードを破り開けた。