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空京警察特殊9課――解禁、機晶合体!――

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空京警察特殊9課――解禁、機晶合体!――

リアクション

 ティセラやパッフェル、セイニィたちが空京ヒルズの前へ到着すると、辺りには数台のパトカーと逃げてきた買い物客たちで溢れていた。

「さすがは空京警察、行動が早いですわね。出来れば被害が大きくなる前に収めたかったのですが……。わたくしの方からあちらに連絡を入れておきますわ」

 振り返ったティセラが、集まった仲間にそう告げた時。

「先行するよ!」

 叫んでティセラの横を飛び出したのはサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)だった。
 ビルの前で誘導していた空京警察の制止を無視して、ビルのエントランスから出てくる人々を避けながら、それでも速度を殺さずに入っていく。

「おい、サビク!」
「もう中に入っちゃいましたわ」

 一緒に来ていたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)は、やれやれといった表情をする。
 それを見ていたティセラが、小さく苦笑つつ連絡を取り続けていた。

「それにしても、随分と大事になっているみたいだな。エメネアの暴走はそんなに酷いのか?」

 パトカーを見ながらシリウスが言うと、リーブラは上空を指差した。

「エメネアさんだけでは無いようですわ。ほら、あそこ」

 ビルの上層部、入り口から向かって左側の壁が崩れており、そこから赤い光と黒い煙が立ち上っていた。
 その周りを小型の飛空艇が忙しそうに動いている。救助活動をしているのだろう。

■■■

「これより、特殊9課はヒルズ火災の救助作戦を行う。状況は55階にて火災発生。爆発と確認されている。そして被害者は上層階にて救出を待っている。問題は火災は上へと向かう事、そして超高層ビルであることだ。放水するにしても、すぐにはホースが届かんだろう」

 本部からの連絡を受け取り、現場へ急行する飛空艇の中で相沢 洋(あいざわ・ひろし)が作戦の説明をしていた。

「そこで我々が突入する。みと、火災に対してブリザード、氷術で火炎を抑えろ。エリスはグレーターヒール、剣の結界で被害者を救助しつつ、治療を。洋孝、お前は戦略的撤退を行え。せっかくの輸送ユニットだ。とにかく、脱出して、近隣の別のビルの屋上に搬送。被害者を出すな。空挺屋の誇りを見せろ!」
「わかりましたわ」
「任せておいてよ」
「了解です。以上」

 洋の指示に乃木坂 みと(のぎさか・みと)相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)が応える。
 やがて空京ヒルズが見えてくると、洋は止まれと叫んだ。
 空から見たビルの上層部は、予想以上に危険な状態だった。五十五階を境に、上へ伸びる様な亀裂が壁全体に走っている。

「まずいですね。爆発でダメージを受けている部分もありますね。なるべく早期に対処しないと」
「壁に穴をあけて突入する予定だったが、作戦変更だ。屋上より降りて救助活動を行うこととする。さあ、いくぞ!」

 四機の飛空艇は高度を上げると、屋上に向かって移動した。
 まずは屋上に残された人々を洋孝の飛空艇アルバトロスで救助していく。
 中へ突入した三人は、七十階から活動を開始した。動ける人は自力で避難しているので、救助対象は動けなくなった者たちである。

「エリス! 重傷者だ! グレーターヒール!」
「被害状況確認、ひどいものです。すぐに治療します。以上」

 煙のこない場所まで運び、エリスが治療を開始する。
 その間に洋は通信で洋孝を呼び、被害者を運ぶよう指示をだしていた。
 通信を切ると、みとが顔を出した。

「このフロアで逃げ遅れた方は、これで全員のようですね」

 時折り氷術系の魔法を使いつつ、被害者の捜索をフロアの隅々までしていたみとが、洋に報告する。
 洋は訝しげな表情を見せながらも頷いた。みとの仕事は確かだと彼は確信している。
 不審に思ったのは救助者の数だった。逃げ道の塞がれた環境で、この数はあまりにも少ない。以前に見た資料では、もっと多くの人が利用していたのである。
 そこまで考えて、洋は思考を切り替えた。そんなことは後から調べればいい。今は救助活動をする時だ、と。

「よし、ならば階下へ移動するぞ。本部にも報告をしておけ。連絡を密にして、得られる情報を最大限に活かすのだ」
「わかりました。本部、聞こえますか?」
『こちら本部、聞こえます。状況はどうですか?』

 一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)は傍らにリリ マル(りり・まる)を置きながら、みとからの報告を受けていた。
 正確には一条は特殊9課ではないが、他部隊との連携のためにオペレーターを引き受けている。

「――わかりました、それでは屋上からの救助を引き続きお願いします。以上」

 アリーセは手元の端末でビルの情報を呼び出した。不況の影響からか、ビルの上層部に入っている会社が少ない。被害者、救助対象者が少ないのは不幸中の幸いだ。
 頻繁に入る通信の合間に、アリーセは報告をまとめていた。この情報を冷静に分析すると、火災よりも崩壊の被害による危険の方が大きそうにみえる。
 少し考えた後、アリーセは通信のボタンを押した。

『はい、こちらエリザロフ』
「こちら本部です、そちらの様子はどうでしょうか?」

 応答したのは、救助活動のために一階から上に向かうニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)だった。三毛猫 タマ(みけねこ・たま)と一緒に業者用搬入エレベータを使い、昇っている最中である。

「あら、一条中尉じゃない。今はまだエレベーターで移動しているところよ」
『現在は別任務につき、中尉は無しで構いません。それで現在のビル上層の様子ですが、火災が発生しています』
「報告どおりね、用心するわ」
『そして、もっと危険だと思われるのが壁や床の耐久です。ビルの構造上、ブロック単位で組み合わさっている各フロアユニットが、続く爆発で、予測を上回るダメージを受けている可能性があります。注意してください』

 任せておいてぇ、と通信を切ったタイミングで搬入エレベータが止まる。
 五十六階、爆発の起きた階層の真上だ。ドアが開くと同時に、フロアに充満していた煙が一気にエレベータへなだれ込んでくる。

「それじゃあタマちゃん、お願いね」

 ニキータの合図にタマはひとつ頷くと、まよわず視界の悪い煙の中へと飛び込んでいった。

「タマちゃんファイトよ!」
(やれやれ、我輩のエージェントは猫使いが荒いのだよ。だが、こういう時に猫の姿は便利であるな)

 燃え盛り、隆起した床をタマは注意深く走り続けた。
 振動に合わせて落ちてくる壁の破片を、猫のフットワークで軽く避けながら、仕切られた区画のひとつひとつをくまなく回る。
 だが、エレベータに戻ってきたタマは、煮え切らない表情をしていた。

(生存者は居なかった。そして、何故か被害者も居なかったよ。もちろん遺体も見つからない)
「おかしな話ねえ。謎の犯人っていうのが来た時に全員逃げ出したのかしら? まあいいわ、このことは報告して、引き続き上の階の救助に向かいましょう。崩れる前に全員助け出すわよ!」