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空京警察特殊9課――解禁、機晶合体!――

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空京警察特殊9課――解禁、機晶合体!――

リアクション


戦え! クーペリアン

 空京ヒルズの裏側にある搬入用道路を走っていたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)ラブ・リトル(らぶ・りとる)は、爆発音に紛れてかすかな声を聴いた。
 ハーティオンは足を止めて見回す。
 ビルの搬入口に人気はなく、無造作に乗り捨てられたフォークリフトが点在しているだけだった。
 崩れた荷物の下敷きになって、逃げ遅れた人がいるのかもしれない。

「ハーティオン、あそこ!」

 何かを見つけたラブが、景観用に植えられた樹木の影へ飛んでいく。
 後を追ったハーティオンが見たのは、小さな子犬を抱えた男の子だった。地面に座り込んで、泣き続けている。
 ハーティオンは少年をそっと抱きかかえると、優しく頭を撫でた。

「もう大丈夫だ。私が来たからには、キミの安全は保障しよう」

 泣いていた顔が上がり、こくりと頷く。
 その時である。
 背後のビル搬入口から、宙を舞ったフォークリフトが飛び出した。ドン、という音を立てて地面に落ち、転がっていく。
 ハーティオンは男の子を降ろす手を止めて振り返る。
 続いて入り口を壊しながら現れたのは、機晶重機だった。三人の存在を探知すると、一直線に迫ってくる。

「なるほど、これが報告にあった輩か……少年よ、目を閉じて、しっかりと私につかまっているんだ」

 落とさないように抱き直し、横へ飛んで回避行動をとる。すぐ後に、今までいた場所を大質量が蹂躙していった。
 起き上がったハーティオンは右手に武器を持つ。だが、この状態で戦闘は難しいだろう。

「ハーティオン!」
「うむ……」

 通り過ぎた機晶重機が旋回して、再び狙いを定めている。
 回避するのは難しくない。しかし、今以上の動きをすれば、子どもの身体が耐えられないだろう。

「そこまでです!」

 ハーティオンとラブを護るように、人影が立ちふさがる。
 空には小型飛空艇の姿まであった。

「キミたちは……エレーネ! それにみんな!」

 現れたのはエレーネと、機晶姫たち。
 そして新風 燕馬(にいかぜ・えんま)ローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)新風 颯馬(にいかぜ・そうま)だった。
 小型飛空艇には斎賀 昌毅(さいが・まさき)が乗っており、機晶重機を威嚇している。

「これだよこれ! このシチュエーション! 絶体絶命の危機に颯爽と現れて、合体……そう合体して悪のメカを倒す! そこまでがお約束にして王道の流れだよな!」

 燕馬がぷるぷると震えながら、たまらないといった表情をする。
 やれやれといった顔をする颯馬の横から、ローザがハーティオンに近寄った。

「そのままじゃ戦闘も出来ないでしょう? 私が坊やを預かるわ。安心して、ちゃんと親御さんを見つけてあげる」
「すまない、よろしく頼む」

 渡された男の子を預かると、ローザは安全な場所へと下がった。

■■■

「おーい、合体はまだかー!?」

 上空で小型飛空艇を操り、機晶重機を威嚇牽制していた昌毅が、スピーカーで催促をしてくる。
 その言葉に、ザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)がエレーネを見る。
 それだけではない。そこにいる全ての視線がエレーネに集まっていた。
 うずうず、という擬音が聞こえてくるような熱い視線に、エレーネは頬を軽く染めつつも前に出る。

「で、では少しだけ……」
「待ってましたっ!」

 待ちきれぬ、とばかりに燕馬とハーティオンが身を乗り出す。
 上空の昌毅も、小型飛空艇から落ちそうなほどに身体を出してエレーネと那由他を応援している。

「いきますよ……合体!」

 エレーネの掛け声に合わせ、機晶姫たちが宙に舞う。
 那由他は頭、ザーフィアが腕、二十二号が胴体に相当する場所へ飛び、最後にエレーネが一番下、脚の部分に相当する場所へ移動する。
 だが、その時。
 昌毅に妨害されていた機晶重機が、合体するエレーネたちを邪魔しようと突撃を始めていた。

「合体中は手出ししないのがお約束だろ!?」
「人の道に反することは許さんッ!」

 燕馬とハーティオンの怒りに満ちた飛び蹴りが、機晶重機の胴体へさく裂する。
 吹き飛ばされた重機は、空中で一回転しながら落下していった。

「クーペリアン……というか合体いらないんじゃないかのう?」
「駄目よ、燕馬ちゃんが満足しないと正気に戻らないわ」

 颯馬の嘆きにローザがため息をつく。
 空中では、機晶姫たちがガションガションと音を立てながら、折れ曲がりそうに無い部分を折りまくって変形していた。
 そして――。

「機晶合体! クーペリアン!」

 超合体を完了した機晶姫たちが巨大なエレーネとなった。
 空中で合体ポーズを決めると、音を立てて着地する。

「おおおーっ!」

 いつの間にか野次馬が増えていたらしい。
 大歓声がクーペリアンに浴びせられている。

『ちなみに……ですが』

 クーペリアンが厳かに喋りながら、開いた手のひらを上向きにして、ぎゅっと握った。

『ただ巨大化しただけに見えるとか思った人は、潰します』

 その言葉に、歓声が小さくなる。

「思ってたんだな」
「思ってたのか」
「思ってたのね」
「思ってたんだろうなあ」

 言ってはならないお約束というモノがあるのだろう、とそういうことにした。

『では皆さん、私たちに力を貸してください! クーペリアンコールをお願いします!』

 その要請に、クーペリアンコールが巻き起こった。
 正面には、やっとの思いで起き上がった機晶重機がクーペリアンへ再突撃をかけている。
 人々の声援を力に変えた拳が堅く握られ……。

「おっしゃあ、行っけぇクーペリアン!!」

 目の前の敵を見事に粉砕した。
 一際大きい大歓声が辺りを包む。だが、それが突然悲鳴へと変わった。

「危ないっ、クーペリアン」

 何事か、と振り向こうとしたクーペリアンの背中に、ドリルが突き刺さった。