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第三回葦原明倫館御前試合

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第三回葦原明倫館御前試合

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○第九試合
コード・イレブンナイン 対 スウェル・アルト

「今日は日差しが強いわね……」
 スウェルは試合場まで差してきた日傘を丁寧な手つきで閉じると、観客席にいるアンドロマリウス・グラスハープに手渡した。
「スウェル、しっかり頑張ってくださいね!」
 アンドロマリウスは、傘の代わりに木刀を渡す。
 右手に持って軽く振ると、ひゅっと空気を裂く音。一試合終えたことで、手に持馴染んだようだ。
 スウェルが礼をすると、コードもそれに倣った。
 試合開始と同時に【燕返し】でコードに攻撃した。しかしコードは、二度の攻撃を全て捌き、逆にスウェルの肩口を激しく叩いた。
「!!」
 衝撃でスウェルはよろめいた。痛みで一瞬、顔もしかめる。
 コードは薙刀を大きく構えた、振り下ろされるそれを木刀で跳ね返し、スウェルは地面を蹴った。今ならコードの下半身はがら空きだ。
 しかしコードは、柄の中央を支点に薙刀をくるりと回転させた。跳ね返された勢いがプラスされ、スウェルがコードの脛を横薙ぎにすると同時に、薙刀は彼女の木刀を真っ二つに折った。
 スウェルは地面に叩きつけられた。顔を上げると、薙刀が彼女の眼前に突き付けられている。つ……と、汗がこめかみから顎へと伝った。
「……参りました」
「勝者、コード・イレブンナイン!」
 スウェルの降参を聞き、恭也が宣言をする。
 立ち上がったスウェルは、コードに握手を求めた。
「次の試合、頑張って」
 やや戸惑いながらもコードは握り返し、「ああ」と応えた。

勝者:コード・イレブンナイン


○第十試合
グレゴワール・ド・ギー 対 セルマ・アリス

「ん?」
 試合場へ出るなり呼ばれた気がして、セルマはきょときょとと見回した。すぐに声の主は分かった。
 中国古典 『老子道徳経』だ。
「セルマー! 負けたら、かわいいの着させるからちゃんと頑張りなさいよー!」
「はあ!?」
 セルマの顔がボッと赤くなった。
「かわいいの着せるって何!?」
 何、と問うまでもない。多分きっとおそらく、可愛らしい女の子の服を無理矢理着せられるのだ。
「うわあ……単なる腕試しのつもりだったのに、シャオがああいうんじゃ負けたらまずいのは必至だ……。よし! あんまり本気でやりあう気はなかったけど、プライド保持の為に本気でいかせてもらいます!」
「無論だ。手加減など、ありえぬ」
 グレゴワールはきっぱりと言い切った。
「一気に行くぞ!!」
 シャオこと『老子道徳経』の魔の手から逃れるためにも、ここは畳み掛けるしかない。セルマは【シーリングランス】を放つべく、力を溜めた。それはコンマ何秒かのことだ。
 グレゴワールはその僅かな隙を見逃さなかった。木剣がセルマの腕を強かに打つ。
「!!」
 骨への衝撃に、折れたかなと思いつつ、セルマはしかし、次の攻撃に移った。グレゴワールの背後へ回り、彼の機動力を奪おうとする。が、グレゴワールは手にした盾を振り回し、セルマの顔へ思い切りぶつけてきた。
 セルマは横っ飛びに吹っ飛び、気絶した。

*   *   *


「あちゃあ、負けちゃったか」
『老子道徳経』は、ぺしりと額を叩いて、座席に深く腰掛けた。
「……何も言わないの? 情けない、とか」
「セルはよくやりました」
 リンゼイ・アリスは、淡々とした口調で答えた。
「同じ二回戦で負けた私が、セルに何を言えるでしょう」
『老子道徳経』はくすくすと笑った。
「何かおかしいですか……?」
「ううん。あんたたち、ってさ」
 ――本当は仲いいでしょ?
 そう尋ねたかったが、やめておいた。余計なことを言って、関係が悪くなったらセルマが可哀想だ。代わりに、
「どんなドレスを着せてやろうかと思ってね」
と言ってから想像し、今度は本当におかしくなって噴き出した。

勝者:グレゴワール・ド・ギー


○第十一試合
猪川 勇平 対 フレンディス・ティラ

「おとーさん、頑張って!」
 前回の準優勝者である猪川 庵が観客席で手を振った。
「おう」
 勇平は庵と、その横にいるウルスラグナ・ワルフラーンに向けて拳を突き出した。
 しばらく前のことになるが、勇平はユリン――正体はシャムシエル・サビク(しゃむしえる・さびく)だったのだが――という少女相手に、敗北を喫した。圧倒的な力の差に、愛剣を奪われるという失態を犯し、勇平は強くなることを誓った。今はひたすら修行に明け暮れている。
 この御前試合は、「妖怪の山」への選抜試験も兼ねているという。洩れ聞こえるところによれば、漁火が関わっているらしい。となれば、傍らにあのユリンがいる可能性もある。
 叶うことならば、この手で雪辱を果たしたい、そう勇平は考えていた。

「それじゃ、全力でいかせてもらう、ぜ!」
 試合開始と同時に駆け出し、勇平は大上段に振りかぶった。フレンディスは忍び刀でそれを受け止める。腕の感覚がなくなるほどの衝撃だが、審判の恭也は一本を取らない。
 いったん引き、勇平は大きく薙いだ。フレンディスはそれも受けようとしたが、腕が言うことを効かない。一瞬の遅れで、脇腹に木刀が打ち付けられる。
「!!」
 フレンディスは歯を食いしばりつつも、衝撃に身を任せた。吹っ飛ばされ、柵に体ごと投げ出される。
「トドメだ!!」
 勇平が飛び上がった。フレンディスも地面を蹴り、空中で組みつく。
「何っ!?」
「秘伝忍術……これにて決めさせて頂きます!」
 身動きの取れないまま、勇平は地面へと激突した。
「ああっ!」
「勇平!」
 勇平が最後に聞いたのは、庵とウルスラグナの叫び声だった。

勝者:フレンディス・ティラ


○第十二試合
ジョージ・ピテクス 対 ――

「ご説明しまーす」
 恭也がマイクを持って進み出た。内心、またかよとぶつくさ言っている。
「十二試合目、動物園の賢者ことジョージ・ピテクス選手の相手がいないので、自動的に三回戦進出となりまーす。それに伴い、ピテクス選手は三回戦第一試合で、北門選手との試合になりまーす」
「よしっ!!」
 武蔵は大喜び、笠置 生駒とシーニー・ポータートルは、早速周囲の人間と賭けを始めたのだった。