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古城変死伝説に終止符を

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古城変死伝説に終止符を

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第二章 地下貯蔵庫の幽霊少女の解放


 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)とパートナーのノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は古城を救うべくやって来た。ウルバス老夫妻達から現在の状況を聞いてから古城に侵入した。

「とうとう来てしまったのですね。今日でここにとどまる悲しみと苦しみの負の連鎖からこの古城の人達を解放してさしあげたいです」
 舞花は古城を訪れるのは二度目であるが、今どういう状態であるかはよく知っている。貯蔵庫にいるリリトについても。親睦会でウルバス老夫妻に関わった際に古城の変死伝説について詳細を知る機会があったからだ。
「うん。何があっても大丈夫だよ。わたしが舞花ちゃんをフォローするから!」
 舞花の隣に立つノーンは力強くうなずいた。
 舞花は古城に訪れた事があるため迷う事無く教えられた地下への入り口に向かった。道々、攻撃的な前住人に遭遇するもノーンの『見鬼』で姿を消している前住人を察知し素早く『悪霊退散』で追い払った。友好な相手に対しては事情を聞いたりして死に際の記憶を思い出し始めている事を知った。

 偶然、町に立ち寄り今回の騒ぎに巻き込まれた次百 姫星(つぐもも・きらら)呪われた共同墓場の 死者を統べる墓守姫(のろわれたきょうどうぼちの・ししゃをすべるはかもりひめ)もいた。
「……可哀想ですね。まだ小さいのに命を奪われた上に怨念に囚われて」
 姫星は聞いた事情を思い出し、胸を痛めていた。無残に幼い命が奪われた事だけでも許せない事なのに死者となり怨念に囚われているなるとますます放っておけない。
「……そうね」
 墓守姫も姫星と同じ気持ちだった。
「聞くまでもないと思いますが、どうします? 墓守姫さん」
 姫星は自分と同じ気持ちだろうと知りながらも念のため墓守姫に訊ねた。
「やる事は一つよ。貯蔵庫に行き、彼女の悪夢を断ち切り両親に会わせてあげる事」
 墓守姫はきっぱりと言い切った。
「それしかありませんね」
 姫星も真剣な表情でうなずいた。
「えぇ。しかしそれ以上に私が許せないのは死者を冒涜するその魔法使いさんよ。話では正体不明の魔術師かもしれないという話だけど」
 墓守姫は辺境の共同墓地の管理人兼墓守として死者の心を乱して平安を奪う魔法使いさんも許せなかった。
「彼女を説得した後に聞いてみましょう。もしかしたら姿を見てるかもしれませんよ」
 姫星は聞いた話からリリトが魔法使いさんの姿を見ている可能性があると考えていた。
「そうね。入り口は教えてもらっているから急ごう。道中はミス次百に任せるわ。ちゃんと手加減するのよ?」
「心配ありませんよ」
 城内に漂う幽霊を見ながら訊ねる墓守姫に姫星は道中の幽霊に備えて幻槍モノケロスを構えて準備を整えた。
 道中、敵意を持つ幽霊に遭遇するが姫星は『龍鱗化』で自分と墓守姫を飛んで来る凶器から身を守り、消滅させないように手加減をした幻槍モノケロスの聖なる力で気を失わせて先を急いだ。

 広間前。

「貯蔵庫に行く前に情報収集が必要なのは分かりますが」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が広間のドアを開けようするエースの背中を眺めながらため息をついていた。
「……開けるのは無理みたいだ」
 エースはドアを何度か開けようと頑張るもびくともせず、肩をすくめた。
「エース、下を見て下さい。ツタが」
 エオリアはドアの下から覗くツタを発見する共に嫌な予感を感じた。今回はオルナが何かやらかした訳ではないと思っていたのだがやっぱりやっていたかと呆れ始めていた。
「これは元気な子がいるたみだね」
 植物愛に溢れるエースはエオリアと違い、感心していた。
「……それが塞いでいると思いますから手早く動かして下さい。ツタですからすぐに除けますよね」
 さっさと城の騒ぎをイイ感じに処理したいエオリアは速やかに処理するようにエースに言う。
「……そう簡単に言うけど」
 当然エースはためらっていた。ドア越しで向こうの様子は分からない。もし、他の植物を痛めてしまったらなどと危惧しているのだ。
「……僕達の目的は貯蔵庫で説得をする事であって植物の世話ではありませんよ」
 エオリアの容赦のない言葉。エースの植物愛にはいつも振り回されているので揺るぎない。
「……分かったよ」
 エースは一度エオリアに目で“鬼かお前は”と訴えてから作業を始めた。
 エースは、『エバーグリーン』で少し動かしてはドアが開くか確認しつつ丁寧に作業をしていた。
 多少の時間を掛けて何とかドアの開閉を可能にしてから中へ侵入した。

 広間。

「世話はきちんとしているみたいですね。おそらくササカさんでしょうが」
 エオリアは自分達が世話をした植物が無事である事を確認した後、迷惑行為をした植物の世話をしているエースの方を伺った。
「この子は新しい子だ。鉢植えから落ちても元気に育って健気な子だ」
 エースが感心するのは鉢植えから落ちても床に根を張り、逞しくツタを生み出しながら生きている赤紫の花を咲かせる花だった。
「エース、感心していないでそのツタを切るか何かして下さい」
 エオリアは感心ばかりで動いていないエースに呆れながら言った。処理をしない限り、ツタは伸びてまたドアを塞ぎかねないので。
「切るだって、そんな事出来るわけないだろう」
 当然のごとく反論するエース。
「出来ないならドアを塞がないようにして下さい。ついでに情報の方もお願いします」
 エオリアはそれだけ言ってササカが苦労しないように他の植物の剪定を手早く始めた。
「……こんなに健気な子に対して……」
 エースは花を鉢植えに戻してツタを『エバーグリーン』で動かし、鉢植えに立てた棒に絡ませて切らない方向で処理した。
 それが終われば広間内にいる植物達に『人の心、草の心』で話しかけて情報収集をした。
「どうですか? 何か分かりましたか?」
 エオリアは情報収集が終了したのを見計らって訊ねた。
「この子は幽霊に魔法液をかけられても倒されても逞しく根を生やして健気に頑張っている可愛い子だよ。世話はやはり親友の方がこまめにしているみたいだけど」
 エースがまず報告したのはツタを生やした植物の事やササカが丁寧な世話をしている事だった。
「それでこの城の懸念事項の幽霊の事についてはどうですか?」
 エオリアは周知の事なのでさらりと流して肝心な事を訊ねる。
「前住人が今回はいつもと違うようだとつぶやいているのを聞いた子がいたよ。忘れていた事を思い出しているかのようだと」
 エースは改めて幽霊の事について話した。
「……それは魔法使いさんの影響が薄れているという事でしょうか。今までと違う、ですか。もしかして以前、対策した事が何か影響を与えているのかもしれませんね」
 エオリアは植物の発言に今までの事を思い返す。以前、霊体で訪問した者の中に眠りながら泣くリリトを励ましたり歌で涙を止めるという対策を施した者がいた事を思い出し、もしかしたらと考えていた。
「植物の中にそのおかげだと話す子もいたよ。それは後で話せばいい。今は彼女を助けるのが先だよ。怖かった事に囚われて薄暗い貯蔵庫に猫と一人は寂しいよ。彼女には季節の変化やそれに伴う植物達の美しい姿を少女独特の感性で楽しんで欲しい。今はそれが出来ない。あんまりだろう。可愛いお嬢さんは幸せに過ごすべきなのに。その事の前には幽霊だとかは些細な事。エオリア、行こう」
 植物だけでなく女の子が困っているのも見過ごせないエースはすぐに行動を起こした。
「そうですね。彼女は猫を連れていますから僕達も猫を連れて行きましょう。猫系動物は幽霊系の存在にも敏感ですから何かと役立つはずです」
 エオリアは植物の証言を皆に知らせてから猫とキャットシーを連れ、エースを追った。猫達のおかげで姿を消した前住人を素早く発見し、対処する事が出来た。
 入り口に辿り着いた時、他の説得者達に会い、共にリリトの元へと急いだ。

 古城前。

「優、貯蔵庫に行くのよね」
 神崎 零(かんざき・れい)はあらゆる情報を聞いた後、真っ先に神崎 優(かんざき・ゆう)に言った。訊ねる言葉ではなく確認の言葉を。
「あぁ。独りで憎しみや復讐に囚われているあの子を放ってはおけない」
 優はうなずいた。話だけでもどれだけ苦しんでいるのか想像出来る。知ったからには目をつむる事など出来ない。
「私も手伝います」
 と陰陽の書 セツ那(いんようのしょ・せつな)。
「どんなに厄介でも絶対に解放するぞ」
 神代 聖夜(かみしろ・せいや)は魔法使いさんの影響でリリトの解放は難しいだろうと予想しながらも迷いはなかった。
「あの魔法使いさんの事ね。話だと悪い人の可能性が高いのよね」
 零は少し困った顔をした。
「……いかなる者でもこちらには頼りになる人が多くいますから心配ありませんよ」
 陰陽の書はリリト解放へと先行して行く他の人達の事を思い出していた。あれだけの優しい人達がいればどんなに困難だとしても助ける事が出来ると信じている。
「あぁ、その通りだ。急ごう」
 優は打ち合わせを終わらせ、三人を急かして古城へと侵入した。

 入り口に向かう道中。
 優の神薙一族の血のせいか頻繁に前住人に狙われる優達一行。
「……零、大丈夫か」
 優は『見鬼』で姿を消して攻撃を仕掛ける前住人を見破り、飛んでくる金槌やナイフを野分で叩き落とし、魔法薬は抜刀術『青龍』で凍らせ斬り払って相手を諦めさせて退散させてから後ろにいる零に無事を訊ねた。
「大丈夫よ」
 零は笑顔で答えた。
「……しかし、この有様は凄いな」
 聖夜は改めてごみ屋敷化している城内を眺めた。
「聖夜、足元に気を付けて下さい。危険な魔法薬が落ちているかもしれません」
 『イナンナの加護』で周囲を警戒する陰陽の書が聖夜に注意を促した。
「あぁ。しかし、大変だな」
 聖夜はうなずき、掃除組を労っていた。貯蔵庫組も清掃組もどっちもどっちだ。
 攻撃されながらも何やかんやで無事に入り口まで辿り着く事が出来た。