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リアクション
■幕間:囮
街の裏路地を歩く朋美とウルスラーディ。
彼女たちの様子を遠くからトメは監視していた。
幾人かの教導団員を周囲に配置して安全を確保、朋美たちはおとり捜査の真っ最中であった。
(こっちは何の手応えもねえ……)
(ボクの方もだよ……気長にやるしかないよね)
おとり捜査を始めて数刻が過ぎているが怪しい人物の影は確認できていなかった。ウルスラーディと朋美は精神感応で互いの状況を伝え合いながら捜査を続けていく。
朋美の進む先、記憶喪失だと言っていたいちごの姿が見えた。
「あれ? キミ、こんなところで何を……」
「囮捜査たいへんだねー」
彼女の話を聞いていない様子で彼はふらりと立ち上がる。
路地裏という立地のせいで薄暗く、彼の顔がよく見えない。
「――なっ!?」
いちごの顔がしっかりと見える距離まで近寄ると、彼の異常性に気付いた。
その様子に思わず後ずさる。
「……ひどいなー、人の顔を見て逃げようとするなんて……」
カツ、カツ、といちごの足音が響く。
一歩踏み出すたびにぽろぽろと彼の顔が剥がれ落ちていく。
まるでミイラに施した化粧が剥がれていくようだ。内側から現れた肌は皺だらけで生気を感じられない。今朝方の彼とは思えない変わりようだ。
「探し物みつかったんだけど……お腹すいちゃってさー……」
いちごの言葉に朋美は冷や汗を流しながら告げた。
「オマエが行方不明者を……ああそうか、文字通り『喰らった』んだね!? 許さないよ!」
「許さなければどうするつもりなのさあっ!」
彼は叫ぶと手近にあった雨樋をビルから力任せに引きはがすと朋美へと投げ飛ばした。
その一撃を彼女は避ける。
(きたよっ!)
(そっちか!)
精神感応で現状を伝える。
あとは――
「時間稼ぎをするつもりなんでしょ?」
「ああ、そうだったね」
彼はおとり捜査の話を聞いていた。
朋美たちの考えなどお見通しであった。
それでも姿を現したのは自信の表れなのか……。
「ふっ――」
彼は笑うと朋美に腕を伸ばした。
手指を真っ直ぐに伸ばした刺突だ。
だがその動きは鈍い。
避け様に朋美は銃を構えた。
「くらえっ!」
手にしたショットガンでいちごを撃った。
ズバンッと散弾がばら撒かれる。
いくつもの鉛玉が彼の目や頬、胸や腕に足に深々と抉り込んだ。
「ああああああ……いたい、いたいじゃないか」
何でもないように彼は言ってのけた。
空けられた穴から血が流れていく。
ダメージは受けているのだろう軽くふらついていた。
だがまるで痛みでもないかのように立ち尽くしている。
「なんで……」
「朋美っ!」
声がした。
ウルスラーディの声だ。
「大丈夫か!」
「う、うん。なんとか」
間もなく朋美たちとは反対側から教導団員が姿を現した。
タァンッ! といちごの足元が撃ち抜かれた。
見れば遠くにこちらを狙っているトメの姿がある。
「動いたら撃ちますえ……」
包囲が終わっているという意味も含めた発砲であった。
追い詰められた状況にも関わらずいちごの様子に変化はない。
「おれの目的はあんたらじゃないんだよねー」
いちごは告げると脇道に視線を送った。
耳を澄ませばそちらから駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
「ダメッ!」
朋美は叫ぶがその声は届かない。
「あれ? ここどこ?」
姿を現したのは玲亜だ。
いちごは彼女の姿を認めると首根っこを掴んだ。
「きゃあっ!?」
「さっき街中で見かけたんだー。若いほど劣化を防ぎやすいんだよね」
彼は玲亜を掴まえたまま、ビルに手や足を突き刺しながら登っていく。
パン、パァンッと何度か発砲音が響いたがいちごの動きを止めることはなかった。
「逃がしたかっ!」
「早く追わないと!!」
ウルスラーディたちの声に促されるように教導団員たちが長曽根に連絡した。
事態は急を要していた。
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