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野山に巣食う小巨人

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野山に巣食う小巨人

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■ビッグトロールの巣食う山
 その村は言うなれば田舎そのもの。のどかな風景、静かな雰囲気、遠くまで見渡せる空間……まさに田舎オブ田舎。
 そんな田舎村にやってきたのは、村長からの緊急要請を受けてやってきた契約者たち。契約者たちが田舎村に着いてまず感じたのは、村の活気の無さであった。
 話によれば、行楽シーズンであるこの時期はハイキングにうってつけであり、村自体も行楽客やそれを相手にした商売人などで賑わっている……はずであったが、今はビッグトロールの騒ぎのせいにより、村人たちすら家から積極的に出ようとしない空気に包まれている。
 重く、暗い静寂が村全体を支配する中、契約者たちは村長の家へと向かう。――村長の家に到着すると、沈痛な面持ちの村長が契約者たちを出迎えてくれた。
「今回は要請に応えていただき、ありがとうございます。……あの、ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?」
 村長から現状を聞こうとした契約者たちだったが、逆に村長から質問が飛んできた。その表情には、どこか訝しげな様子を窺わせている。
「契約者の方々は大人数で要請を受けてくれる、と聞いていたのですが……?」
 村長が疑問に思うように、今回要請を受けてやってきた契約者は普通の人数よりやや少ない。特に今回の場合、強靭な体力を持つ小巨人・ビッグトロール5匹が相手なのだから、少なくとももう少し必要だったのでは……? と、村長も心配そうである。
「その点に関してはご安心を。こうして少ない人数でやってきたのも、俺たち一人一人が一騎当千の力量を持ち合わせているからこそですから。問題なく依頼を完遂させてみせます」
 そんな村長の不安を払拭させようと、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がそう説明していく。契約者とは量より質である、ということを如実に表した言葉に、村長も難しい顔をしながらも納得はしてくれたようだ。
「……わかりました。あなたたちを信じるほかなさそうですし、ぜひともあのビッグトロールたちを討伐してきてください」
「了解したわ。あの、それでそのビッグトロールは今どうしているのか確認したいんだけど……」
 コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が頷くと、すぐに本来の話の流れであるビッグトロールの現状を確認する。それに応じ、村長は契約者たちにお茶を出しながら現状を説明していった。
「――現在、アムギロロソルバッシャコ山には、要請で説明したとおりビッグトロールが5匹棲みだしていて、山に入った人間は誰彼構わず喰われてしまっています……」
 ……アムギギロソルバッヂャグ山、じゃなかったっけ? と、契約者たちは一瞬思ったが、そこは口を挟まずに現状説明に聞き入る。
「奴らは旨みを覚えたのかどうかは知りませんが、アレギャルロソルトッヂャチ山の中腹辺りに小さな集落を作って、完全に山に根付いてしまったのです。話によれば、あのビッグトロールというのは生殖活動はしないものの、どこからともなく個体を呼び寄せる習性を持っているとか、えらいスタミナやタフさを持つ割には活動に必要なエネルギーは非常に最小限だとか。それが原因で倒し切れずに滅んでしまった村もあると聞き及んでいます……」
 話を聞く限り、やはりこの村は相当な危機に見舞われているのは確かなようだ。その他、聞きうる限りの現状を聞いた契約者たちはその情報を元に作戦を考え出していく。
「あー、村長殿村長殿。アムギギロソルバッヂャグ山の地図があれば見せてほしいのでありますが」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)がそう村長へ要求する。しかも丁寧に、山の名前をとても強調して。
「あ、はい。アラゲンゲロホルボッシェイク山の地図ですね……すぐ持ってきますので、ちょっと待っててください」
 ……村長もまた、丁寧に山の名前を間違えながら奥の部屋へと行き、山の地図を持ってきた。――手渡された地図上部にはしっかりとした文字でアムギギロソルバッヂャグ山の名が記されている。
(……絶対わざと間違えてるであります。でなければ、あんな言い間違えしないであります)
(わかってるわ、そんなこと。……でもどうにもツッコミにくい雰囲気なのよね、あの村長さん)
 小声でそんなことを言い合う吹雪とコルセア。……が、そんな空気お構いなしの契約者が一人いた。
「おい村長、そんな山の名前とかどうでもいいんだよ。俺が全部片付けてやっから、もっと飯をよこせ! ここ数日なにも食ってねぇから腹が減ってしょうがねぇんだ。おら、とっととしねぇと手伝う気無くすかもなぁ! キシシシシシッ!!」
 先ほどから村長へ食事の要求を絶えずやっているハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)。……しかしこれはハイコド本人の言動ではなく、ハイコドの人格を完全に乗っ取った《寄生獣ワーム》のものである。
 話せばとても深い経緯を経て、現在の状況となっているハイコドではあるのだが、そんな事情を露も知らぬ村長はハイコドの粗暴な態度に眉をしかめながら、要求されたとおり食事を持ってくる。
「――彼にも色々と事情があるみたいだし、きちんと依頼をこなす気はあるようだから、気を悪くしないでもらえると……」
 様子を見ていたのか、エースが村長へそれとなくフォローを入れる。真面目で理知的なのばかりが契約者ではないことも知っておいてほしいとも付け加え、何とか村長との間に険悪なムードを作らせずに済んだようだ。


 ……そんな紆余曲折を経て、ある程度の作戦を立て終えた契約者たち。準備も整え終え、ついにアムギギロソルバッヂャグ山への入山を開始した。
「ビッグトロール討伐かぁ……なんだか少し気が引けるなぁ」
 ぽつりそんなことを呟きながらハイキングコースを移動する小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。害をなしているとはいえ、ビッグトロールも生き物には違いないため、討伐に対してはあまりいい気分ではなさそうだ。
「そうも言ってられないでしょう? いつ村に大きな被害が出るかわからないんだし……それに、あたしとしてはああいう醜い巨漢って大嫌いなのよね。早く片付けてしまいたいわ」
 と、美羽の呟きに対して桜月 舞香(さくらづき・まいか)が言葉を返す。美羽の気持ちもわからなくはないが、やはり自分の考えを貫き通したい面もあるのだろう。そしてもう一人、自分の考えを貫き通そうとする人物がいた。
「早く片付けてしまいたい、という意見には賛成。野山は元々植物たちの物、植物たちの領域を間借りしているのに気づかず、自分のことしか考えずに行動している野蛮な動物たちの物じゃないんだから。好き勝手に荒らすなんて、大迷惑の極みよ本当」
 植物至上主義を掲げているリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は大変ご立腹の様子である。野山を勝手に荒らしているビッグトロールたちに憤慨しており、植物がいかに素晴らしいか、植物以外の存在はただ間借りしているだけに過ぎない、と結構過激な発言を周囲に少しずつ放散しようとしている。
「まぁまぁリリア。こんな状況見たら憤るのもわかるけど、皆で持ちつ持たれつで生きていくのが自然というものなんだし、あんまりそう言わない」
 加速度を増そうとしているリリアの植物至上主義の過激発言を、エースがやんわりと理性的に歯止めをかける。とはいえ、ビッグトロールたちによって木々やハイキングコース、果ては自然環境を荒らされ、変貌してしまっているアムギギロソルバッヂャグ山の現状を見てしまっては憤慨してしまうのも無理はないが……。
 そうこうしている内に契約者たちは山の中腹辺りに差し掛かり……その視界内に、ビッグトロールたちの築き上げた集落を捉えていくのであった。