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【第四次架空大戦】ティル・ナ・ノーグ

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【第四次架空大戦】ティル・ナ・ノーグ

リアクション


08 勇者の不在02


「やれやれ……生徒たちの不在時に敵襲とはな……」
 教師にして元勇者の紫月 唯斗(しづき・ゆいと)はそうぼやくと、身なりを整えてから学校の屋上へと向かう。
「エクス、起きているな? 来い!」
「承知、だがまだ完全ではないぞ?」
 虚空から魂剛の精神思念体の少女エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)の声が響く。
「問題ない!」
「やれやれ、人使いが荒いのう……」
 そんな声とともに虚空から勇者が現れる。
 漆黒の鎧をまとった鬼――そんな表現がふさわしいその勇者の胸部が開いて唯斗はそこに取り込まれる。
「人鬼合一! 斬鬼天征! 剣帝武神! 魂剛、参る!」
 そして、その漆黒の鬼はたった一振りの刀を手にまさに鬼神の如き働きを見せる。
 機械仕掛けのトンボの群れの中でその刀を一閃させると、その衝撃波で周囲の機械仕掛けの昆虫たちも巻き込んで大きな爆発を起こす。
 更にもう一閃するとそれだけで魂剛の周囲の敵はいなくなる。
「子供たち! 焦って帰ってくる必要はないぞ! お前たちがいない間くらい、大人たちが支えてみせる!!」
 唯斗はそう叫びながら、次々と敵を屠っていく。
「脇が甘い!」
 そう言って襲いかかってきた敵機の攻撃を避けると、その刀で突きを入れる。
 深く突き刺さったその刀ごと敵を持ち上げて、振り下ろすと、そのまま投げ飛ばされた敵機が他の敵機を巻き込んで隊列を乱す。
 そうして唯斗の学校前に立ちふさがって武蔵坊弁慶のように敵を一切寄せ付けない戦いによって、学校と生徒には被害が発生しなかったことをここに記載する。

 一方その頃国軍基地周辺ではようやく出撃体制が整ったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)の搭乗するヴェルトラウムIIや夜刀神甚五郎らの搭乗するバロウズ天城 一輝(あまぎ・いっき)ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)の飛空艇などが出撃して、防衛活動を始めていおる。
 さらには高崎 朋美(たかさき・ともみ)をメインとしてウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)をサブパイロットにウィンダム
に搭乗し、増設シートに祖母の高崎 トメ(たかさき・とめ)とその分霊の高崎 シメ(たかさき・しめ)がなぜか機内で料理を作っていたりするのだが、朋美はなぜかその不自然さに気が付かない。まだ、彼女はここが夢の世界だということに気がついていないのだ。
 そして、国軍の中でも獅子奮迅の働きを見せるのが大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)および讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)バンデリジェーロである。
 泰輔はこれが夢だと確信し、世界の法則をねじ曲げるあり得ない行動をとることにした。
 まず、相手の腹にワープで出現して、そのまま食い破る。刀で相手の装甲を桂剥きのように薄く向いて剥いでいく、さらには触れただけで敵の分子結合が崩壊するなどまさにやりたい放題で、無数の敵を次々と撃墜してゆく。
 更には重力や慣性の法則をも無視したトリッキーな動きで敵を翻弄し、誤射を引き起こしたり味方の射程圏内に誘導したりとまさに八面六臂とも言える活躍であった。
「ひゃっはああああ! 楽しいなあ!!」
「……(泰輔とモチーフ・トーンがおそろいのイコン搭乗用スーツが嬉しいらしい)」

 そしてそんなバンデリジェーロを見てエヴァルトが驚きの叫びを上げる。
「なんだあの動きと攻撃力は!? あんな第二世代機が……どんな改修をしたんだ!!」
 エヴァルトはまだここが夢の世界だと認識していないために、まだこの世界の物理法則にとらわれているのだった。
「さぁ〜。 わかんないなあ。でも、楽しそうだね」
 格闘タイプの新型機に乗ってご満悦のロートラウトはエヴァルトのその言葉を軽く流してしまう。
「そんなに気になるなら、後で対戦でも申し込んでみたら?」
 機械化された螺旋巻きカブトムシの群れをパンチで打ち砕きながら、ロートラウトはエヴァルトに提案する。
「そうだ、な! とりあえず勇者たちが帰ってきたら考えるさ!」
 そして足元に這い寄ってきた螺旋巻きサソリを踏み潰すと、次の機械化昆虫に向かうのだった。

 そんなバンデリジェーロの無茶苦茶を見ながらも、それを横目で流し、甚五郎は己の任務を忠実に遂行する。
 バロウズの二連磁軌砲と二連機砲をメイン火力に据えて、足を止めて半ば砲台と化して砲身も砕けよというばかりに撃ちまくっている。
 それは実際に敵にダメージを与えるだけでなく、牽制という目的も果たす合理的な戦術で、目的が防衛である以上それが最もベターな選択と言えた。事実、基地周辺に敵が近づいてくるかづが段違いに減っており、それに比例するかのように負傷者や死亡者も少なくなっているのだった。

 そして、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)を提督として旗艦伊勢を中心に、天城、長門、駿河、津軽などの艦艇群が群れをなすような有機的な動きで柔軟に敵の攻撃を防いでいる。
 吹雪の指示のもとに輪形陣を形成し、操艦とオペレーターのコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が動かす機関の動きとオペレーションに合わせて艦隊が変幻自在に動き、敵の攻勢を何枚もの紙を重ねているかのように貫き通さないようにしている。
「まだ早い、もっと引き付けるであります」
 そんな吹雪の指示に従って、艦隊はジリジリと粘りながら敵をひきつけ好機を狙う。
「全艦一斉射撃!!全火力を叩き込め!!」
 そして、主砲が一斉に発射される。圧倒的な火力による蹂躙。
「今だ、全艦載機発進!!」
 笠置 生駒(かさぎ・いこま)シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)ジェファルコン特務仕様をフラッグ機として、すべての艦艇に搭載されている艦載機が一斉に発進する。
 吹雪の考えはこうだ。まず、防御の戦術でできるだけ敵を引きつけた後に主砲の一斉発射で敵を混乱に陥れる。その後艦載機を使って一気に決着を付けるというものだ。
 そして、生駒は操縦席にあるボタンを押す。すると首筋にチクリとした痛みが走り、次いで何かを注入される感覚が起きる。それは国軍が開発した安全性の高い薬剤で、脳内物質の分泌を高めることにより反射神経や状況判断能力を向上させる機動兵器乗り用の薬物だ。
 これによって反応が大幅に向上した生駒は麾下の艦載機のすべての行動を把握し、的確な指示を下せるようになる。
 さらに――

「今だ。《オリジン》起動」
 タイミングを見計らっていたダリルが、その秘密兵器のスイッチを入れる。
 それによって国軍の一般機の実弾兵器以外の攻撃力、防御力、機動性その他あらゆる性能が大幅に上昇し、ヘルガイアと一対一でも競り負けないだけのスペックになる。


 そして、それを受けて勇者でもある朋美のウィンダムの性能も向上するのだが、その時トメたちが作っていた卵焼きが急制動でこぼれて、流れたまごやきに当ってしまい、朋美はふと考えた。
「あれ、なんでイコンの中で料理なんか作ってんの!!!」
「だから言っただろう。ウィンダムの中に、キッチンスタジアムがあってたまるものか!!」
 シマックのその指摘も相まって、朋美はここが現実の世界じゃないんじゃないか、と思い始める。
「もー! おばあちゃんたち邪魔! お家帰ってて!」
 朋美が本気でそう考えて口にした瞬間、おばあちゃんズと調理器具が料理もろともその場から消失してしまう。
 そして、電話回線を通じて朋美に抗議の電話がかかってきたのだ。
 おばあちゃんを追い出すなんてどういうことだ、と。
「あれ……? 何がどうなっているの?」
 いまだピンときていない朋美は、邪魔者がいなくなったのをこれ幸いにお笑い要員からシリアス要員に転身し、一気に活躍を始めたのだった。

 そして、一輝とローザの飛空艇コンビは常に綿密に連絡を取り合いながら、味方機の影に隠れて移動をし、踊りでては死角から攻撃をすることによって破壊できないまでもその行動を阻害するという、小回りがきく飛空艇ならではの定石かつ王道の戦術をとって敵の部隊を翻弄していく。
「ローザ、座標軸をx252 y336 z212 に移動。そこからなら最適な効果で攻撃できる」
「わかりましたわ。5秒くださいませ」
 そんな指示を受けて移動すると、ローザの前には無防備な姿を晒す敵の姿があった。
 敵の移動方向と、移動速度、味方の行動等のすべてを脳内にインプットして、数秒後の戦場の様子を描き出してコントロールする。攻撃力も防御力も低い飛空艇乗りだからこそ身についた技術だった。

 そんな中ヘルガイアに潜入していた下川 忍(しもかわ・しのぶ)はその正体がバレて逃走。飛空艇で逃げていたが、追跡、発見されて撃墜され、墜落して死亡してしまい、国軍にヘルガイアから盗み出した機体を届けるという任務を達成できないまま夢の世界から覚めることになってしまった。

 そして危険思想の持ち主として軟禁されていたシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)だが、彼女はこの世界が夢のなかのようだと気づいていた。そのうえで、反イコンの考えの主としては夢のなかでぐらいイコンを壊してスッキリしたいなあ、などとも考えていた。
(そうだ。夢のなかだったらこの状況もどうにかなるんじゃない?)
 そう考えたフィスは、目の前の扉が壊れないかな― と念じた。
 すると、扉のドアノブが鍵ごとぐにゃりとねじ曲がる。
(こりゃすごい……じゃあ、戦場にワープしたい)
 そう強く念じると、いつの間にか戦場の空中に浮いている自分がいた。
(ふむ……なら、22式レーザーブレードから雷みたいに光線が飛びでてそこらのイコンをなぎ払う……っと)
 そして、念じたとおりに光線が飛び出て、その光線の進路上に存在するイコンやら機械昆虫やらがことごとく大爆発を起こす。
(うーん、なんかこうあっさりできるとゲームでチートしてるみたいで面白く無いなあ。もう起きたいなあ……)
 そう思っていると、次第に体が足元から次第に透けてくる。
(あ、起きれる? でもなあ――)
 その先フィスがどのような選択をしたのかは、ここには記さない。