葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

リアクション公開中!

【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

リアクション


第9章 おそーじさせましょ、おそーじしてあげましょ Story6

 墜落させた者からシルキーが離れ、魔性が去っていくのを見送った後。
 被害に遭った猫を腕の中に抱えながら、レティシアがベルクに詰め寄った。
「猫又はどこだ、ベルク」
「あー…。懐から落っこちたっぽいのは見たんだが。その後は、どこに行ったのやら」
「なんだと?」
「や、たぶん無事じゃね?あぁそういえば!祓魔銃の光りが、橋のほうから見えたよな。急がねーと」
 殺気立つレティシアに対して冷や汗を大量に流し、わざとらしく声を上げて話題を変えようとする。
「ごまかすな!!」
「そーじゃねぇって。何かあったかもしれねぇだろ」
 一刻も早く殺気の原因を忘れさせようと、フレンディスを抱えて橋へ飛ぶ。
 まるでコントのような光景だったが、本当に何かあったのだろうと感じ、樹たちも彼らを追う。
 橋にたどりつくと仲間と村人の姿が視界に入った。
「祓魔銃を撃ったのは誰だ?」
「あ、それワタシだよ。クリスティーくんが、石化させられちゃってね」
「ペトリファイにかけられちまったのか」
「私が治療しよう」
 樹は石を肉に…の魔法をかけ、石になってしまったクリスティーを元の姿に戻す。
「ありがとう…」
「(顔色もよくない、かなり体力を奪われたようだな)」
 転びそうになる彼を、大地の祝福で回復してやる。
「また、何かあったら呼んでくれ。ではな」
 樹はそれだけ告げると片手を振り、猫又の捜索に戻った。



「カナンのほうは、何人調査へ向かったんだろうな。やはり、俺たちも向こうへ行った方が…」
「ならんっ。やつらの目的を阻止するのも、大事な任務だ!」
 エリドゥを担当する者たちを気にかけるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に、夏侯 淵(かこう・えん)が変更はありえないと力強く告げた。
 “さてどちらに行くかだが、俺達は先日の経験もあるしカナンの…。”と、ダリルが決めかけた時…。
 横から淵が“葦原!”と言い、勝手に行き先を決めてしまった。
 “何をしておる皆、はよう用意せぬか。行くぞ葦原に。”
 行き先を変えられてしまう前にと急かし、葦原の長屋へやってきたのだ。
 依頼は大事だが…オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)と離れたくない。
 理由はそれなのだとルカルカ・ルー(るかるか・るー)たちはすぐ理解した。
「おっ、ちっせー俺が戻ってきた。なんか見つけたか?」
 ジュニアメーカーで作り出したカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の分身は、“ただの野良猫ばっかだったぞ!”と告げた。
「猫妖怪さんは、姿を消しちゃう能力があるの。それでかも?」
「じゃ、わかんねーじゃんか」
「怪しい連中に見つからないようにしてるのかもね。ただ、非物質化するわけじゃないから…。絶対、捕まらないってわけじゃないわ」
「おー、ルカさん。ぬこ娘、見つかった?」
「いーえ、見ての通りよ。いないでしょ、傍に」
 偶然通りがかった陣に、お手上げポーズをしてみせる。
「歌菜ちゃんと手分けして探そうと思ったんやけど。カティヤさんに術をかけなおすことを考えると、あんまし離れんほうがいいかと」
「そっかー。ルカたちと一緒に探して!探知できる人がいないのよ」
「えぇー!?大地の宝石使えるのがいないんか。オレらとあんまし、離れんよーにしようか」
「うん、お願い♪…それにしても、猫妖怪さん…どこに隠れちゃったのかしらね」
 知った顔の人にそろそろ遭遇して、救助されてもよい頃だと思うが、追いかけている相手が怖くて震えているのかも…と考える。
「急いで助けてやらんとな。…後、オレおじさんって年齢でもツラでもないからな」
「って陣くんまだ気にしてたんだね…」
 カレシの呟きを耳聡くキャッチし、驚きを通り越してカノジョは嘆息した。
「おじさんって?」
「にゃはは、オメガさんに聞こえちゃったみたいだね」
「ち、違っ。オレは…」
 オメガにまでへんなイメージがついてしまうのではと、顔中から嫌な汗を流す。
「―…本で少し読んだことがありますわ。男の人が、兄弟または姉や妹に…子供が出来た場合、その子供からおじさんと呼ばれる…と」
「辞書だとそういう意味もあるけどね、そっちじゃないんだよねオメガさん♪」
 カノジョであるリーズのほうは、その状況をしっかりと楽しんでいた。
「主に人間で言う中年の…男の人を、おじさんなどとか。あれ、陣さんっておいくつでしたっけ」
「いやいやいやいやいやっ!?オレ、そんな年ちゃうよオメガさん!つーか、リーズ。カノジョのくせに、カレシフォローしないとか。どーゆうこと!?カレシが、おじさん言われてもいいんかっ」
「ヤダけど、面白いから静観してた♪」
「んのぉ〜〜っ」
「あれれ、いいの?怒ると魔道具の力が弱くなっちゃうよ」
「はぁーーーー…。ちくしょう、仕事じゃなきゃブッチしてんのに」
 リーズの言う通りいちいちキレいては、相手の安い挑発にも反応しそうだ。
 カレシがおじさん扱いされそうになっても、助けないカノジョへの怒りを静めた。
「ぬこ娘、どこや。助けにきてやったぞ!」
「うん、そんな顔じゃないよね。ホント、怖いから」
 “認識訂正させてやる!”と意気込んでいる顔をしている陣にボソッと言う。
「見つけやすい場所にはおらんよな」
「猫だし隙間とか?」
「おー、そっか」
「陣くん、縁の下にゴー♪」
「任せとけ、ってえ…えぇえええ!?」
 人の手が届かない縁の下…。
 そこは蜘蛛の巣がびっしりしていたり、ネズミがチューチュー駆けまわったりしていた。
「ゴーゴー♪ファイト、陣くん。泣かないで、男の子でしょ♪」
「だぁああもう、んなことで泣くもんかっ」
 薄っすらと零れ落ちそうになる涙を袖で拭い縁の下へ潜る。
「ゲホッ。めちゃくちゃ埃っぽんやけど…。おーい、ぬこ娘ー」
 大きな声で呼びかけると、“みゅぅーみゅぅうー。”と鳴き声が聞こえてきた。
「そこにいるんか?って、怯えてんなら答えられないよな。おっ、アークソウルの反応が…」
 宝石の探知能力を頼りに縁の下を這う。
「あんな隅っこに、三毛猫…あれか?」
 エアロソウルの可視化の効果をいったん消し、また発動させて妖怪の猫か確認をする。
「姿を消せるってことは、ぬこ娘やな。助けにきたぞ、オレんとこーいこい」
「おじさん…?」
「―…お、おじって。…〜っ、今は我慢や。えっとな、おかしな連中に追いかけられているんやろ?オレらが保護すっからおいで」
「こわかったにゃぁん、おじさん〜」
「またおじ…。いやいや、反応してる場合やない」
 ゆっくりと寄ってきながら禁句を言う猫又に、一瞬青筋を立てるが苛立ちを堪える。
 猫の姿になっている猫又の手を握り、縁の下から這い出る。
「見つけたぞ、ぬこ娘」
「お帰りー陣くん。わっ、ちょー汚い。しっしっ」
 埃と蜘蛛の巣だらけのカレシを目にしたリーズが、片手で追い払うように“あっち行け!”と雑な扱をする。
「おげ、マジひでぇ〜。ちょっとは、オレの苦労に感謝してくれてもいいやない?」
「陣さーん、見つかりました?」
「歌菜ちゃん。縁の下に隠れていたみたいや」
「狭い隙間に隠れていたんですね。おいでー♪」
 妖怪の猫へ手を伸ばそうとした時…。
 その光景を目撃した者たちが空から接近する。
「あいつらキライにゃ、こわいのにゃー」
「陣さん、猫又ちゃんたちを連れて隠れてください」
「ごめん。任せた、歌菜ちゃん」
「それと……」
「なんや?」
 不安ごとでもあるのかと足を止めるが。
「あとで、ちゃんと埃とかとってくださいね?正直、汚いです」
 その感情を歌菜のそのセリフが、粉々に砕いた。



 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はアーリアの香りを、ルカルカたちにかけてあげた後、彼もパートナーと共に陣と同行して隠れる場所を探す。
「物取りをしているってことは、屋内に隠れるのはまずいな」
「じゃあどこに隠れればいいんや。ぬこ娘みたいに、縁の下とか無理やろ」
 運悪く発見でもされたら、魔法の餌食にされかねない。
「社の中とかは?」
「せっまいやろ」
「うーん、困ったな。もしかして、人が隠れて逃れられそうなところは…ないってことか」
「長屋から全部出て行くまで、守らんといかんってことになるな」
 仮に隠れるスペースがあったとしても発見された時、すぐに逃げられるかは別問題だ。
 やつらを倒しにかかるしかない。
 だが、妖怪の少女を守りながらどこまでやれるか。
 そう考えながら、腕の中で小さく震える三毛猫に目を落とす。
 ルカルカたちのほうは、猫又を奪おうとしてやってきた相手と対峙している。
「結局、別れ別れになっちゃったわね。集中できてる?淵」
「…あぁ、かなり切ない……。はっ、いや。いたしかたないことだ、向こうには陣殿たちがいる。姿を隠そうとも、逃れる術はあるはずだ」
「ちゃっちゃと片付けて、早く合流しよう♪」
「小娘ふぜいができっかなぁー?」
「せいぜい、その小娘に泣かされないことね」
 超加速で距離を取りながら詠唱する。
「なっ、何、急に速度が…」
 突然、いつもと変わらぬ走る速度に落ちてしまい困惑する。
「ディスペルだ、ルカ。スキルを強制解除されたようだ、避けろ」
「え、ぁああっ!?」
 ダリルの声にようやく何が起こったのか理解したが、バイオポンプを全身に被ってしまう。
 確実に1人を倒しにかかろうと、ルカルカを集中狙いしスキル解除の黒魔術をかけたようだ。
「く……、なんだこの毒は」
 ゴットスピードで駆け寄った淵の清浄化でも、身体を蝕む猛毒をなかなか浄化しきれない。
「治療はいいわ、あとでエースに頼むから。それを狙って、仕掛けてくるかもしれないもの」
「ルカルカさん。私と羽純くんが支援します」
「お願いね…。私があいつらの姿を見えるようにする。淵とカルキは、ダリルの術で射程範囲を広げてもらって」
「これくらいの任務をこなせないようでは、この先の相手など倒せぬぞ。速やかにかつ、迅速に遂行するのだ!!」
「(フフフッ、いうようになったわね♪大切な人の前で言えなかったのはちょっと残念かしら?っと、ルカも集中しなきゃ)」
 祓魔師として成長していくパートナーの姿を、オメガに見せる機会が少ないのは少しだけ残念だが…。
 今は目の前の対象を倒すことに専念するべくハイリヒ・バイベルを開く。
 白魔術の気を纏ったダリルが、贖罪の章の詠唱を始めたのを目にして、それに合わせてルカルカもエコーズリングで支援しようと唱える。
「エコーズ、裁きの章II!エコーズ、レインオブペネトレーション!」
 歌菜の時の宝石の力を得て、魔性を取り込んだ者に接近して雨の嵐を吹き荒れさせる。
「んのっ、耳障りな」
「(ライフエンチャントねっ)」
 魔法で作り出された掃除道具を金色の瞳に映し、エリザベートの情報にあった術だと認識して、さらに速度を速めてもらいかわす。
「それが、開発した魔道具ってわけか」
「あら、よく分かったわね?逃げたやつから聞いたのかしら。まぁっ、タネが分かっても避けられないんじゃ意味ないわよね♪」
 会話で注意を自分に向けながら、ダリルに目配せして章の力を使うように合図を送る。
「やだわ、せっかちな人は嫌われちゃうわよ♪―………ぁあああーーーーーっ!!」
 冗談混じりにくすくすと言い、詠唱者の時間稼ぎを手伝おうとカティヤが咆哮を放つ。
「(ほう…。時の宝石の力とは、なかなか便利なものだな)」
 かけられるほうはまったく疲労感がないことを覚え、状況に応じて呼びかけて共に行動するのがよさそうか…と考える。
 何やら考え事しているのをルカルカにバレ、視線で“早く2人に術をかけてあげてっ!”と急かされる。
 了解したと小さく頷き、贖罪の章の能力をカルキノスと淵の章にかける。
 哀切の章による祓魔の光りを礫に変化させて器の魔力を削ぐ。
 魔術を行使する力さえ失わせれば、取り込んだシルキーの意識が現れやすくなるだろうかと考えてのことだ。
「美羽たちが言うにはシルキーも、ビフロンスの時みたいに操られているのよね」
「そうです、カティヤさん」
「他の人の話もちゃんと聞いてみなきゃだけど。やっぱり本心からではないということかしら」
「ぁ…シルキーが……」
 器のほうの力を強く削いだおかげで、自分の意思を表に出せたのか。
 細身の女性が黒フードの者の中から抜け出ようとする。
 ―……が、正気に戻りきれていないらしく、また戻ろうとしていく。
「皆、シルキーを止めて!」
「(ぐっ、戻ってはならぬ。離れるんだ…)」
 淵はカルキノスと悔悟の章を唱え、重力の術で必死に止めようとする。
「どうしよう、カティヤさん」
「ううん、あまり術を使うと魔性が消滅してしまいそうよ」
 かぶりを振り、かけすぎてしまえばシルキーが消えると告げる。
「そんな…。ただ、お掃除が好きで、利用されてしまったのだけなのに。…この音色は?」
 このままシルキーは消滅してしまうのだろうか。
 そう諦めかけた時、どこからか涼やかな音色が聞こえたきた。
 すると魔性は器へ入る行動を停止させ、うつろな瞳に生気が戻り始めた。
「シルキーが離れたわ!」
「間に合ってよかったよ。ありがとうね、スーちゃん」
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)はスーの力を借り、フラワーハンドベルでシルキーの心を落ち着かせ、狂気から開放させた。
「こ、これが師匠とスーちゃんの力なのですか。映像と実際にこの目で見るのとは、違うのですよう!」
 人と花の魔性が協力し合った能力を前に、シシル・ファルメル(ししる・ふぁるめる)は興奮した様子で拳をぎゅっと握る。
「誰かにクローリスの香りをかけてもらった?」
「エースさんにかけてもらって、少し経ってますね…」
「分かった。スーちゃん、花の香りで私たちを守って」
「いーっぱい、はなびらまくよーっ」
 白い花のステッキをふりふりと振り、涼やかな香りを漂わせて呪いから終夏たちを守る。
「シシル、私たちから離れないでね」
「はいなのですよう、師匠!」
「終夏さん、私の後ろへ」
 肩にスーを乗せた終夏を呼び、自分の後ろへ下がらせようとする。
 彼らがそれを見逃すはずなく、石化させようとペトリファイの魔法を迫らせる。
「今、石になられると困るからな」
 歌菜たちのところへ走る終夏の後ろへ立ち、羽純がアークソウルで阻む。
 アンバー色の壁に粘着質のようなものが張り付き、進入できず消滅してしまう。
「ルカ、あいつらの姿が見えなくなっていくぞ」
「うん…淵。エコーズ…」
「撃たせるかよっ」
「女神を無視しないでちょうだい♪お相手がほしいなら、私がしてあげるわ、フフフッ」
 モップで襲いかかろうとする者を咆哮で退かせたカティヤは、美しく微笑んで見せた。
「―…裁きの章II!エコーズ、レインオブペネトレーション!」
 見抜き通す雨を全身に浴びせてやり、ダリルの術で射程範囲を広げた祓魔術で、淵とカルキノスに術を行使する力を減退させていく。
「スーちゃん、香りのチャージッ」
 終夏はフラワーハンドベルにスーの香りを吸収させ…。
 カランカララン…と鳴らし、強制憑依させられたシルキーの心を静める。
「早く逃げて、傷ついた身体を休めて」
「もう取り込まれたりするなよな…」
 意識の主導権を握り、抜け出ていく魔性の姿を歌菜と羽純が見送る。