リアクション
☆ ☆ ☆ ご先祖の御神楽 陽太(みかぐら・ようた)と御神楽 環菜は、今日も仲良し夫婦です……。 というわけで、二人の子孫である御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、東京見物に来ていた。 「どこに行く?」 舞花に聞いてきたのは一緒にまわることになった秋月 葵(あきづき・あおい)。 舞花はガイドブックのページを繰りつつ、小さくうなる。 「寺社を見て回りたいのですが、たくさんあるんですね。迷ってしまいます」 「じゃあ、谷根千巡りしようか?」 「ヤネセン?」 「谷中、根津、千駄ヶ谷を合わせて谷根千。お寺とかちょっとおもしろいもの、いっぱいあるみたいだよ」 「では、そこへ行きましょう」 日暮里駅で降りてツツジの名所である根津神社を目指す途中、谷中銀座を抜けてへび道へ。 「方向がわからなくなりそうだね……」 「この道は、もとは川だからこんなにクネクネしてるそうですよ。ほら、ここに」 と、ガイドブックを見せる舞花。 「へぇ、不忍池に繋がってたんだ。古地図を見ると、東京って本当に川が多いんだよね。その頃はどんなふうだったのかな?」 「きっと、もっとゆったりしてたんじゃないでしょうか?」 「でも、江戸っ子って気が短いって言うよね」 「気は短くても、生活のテンポはどうだったんでしょう? 今のようにメールもネットもなかったのでしょう。ちょっと、想像がつきませんね」 クスッと笑う舞花に、葵も微笑む。 「飛脚が運んでたんだって。東京と大阪を片道四、五日かけて行ったらしいよ」 「昔は、人がその足で運んでいたのですね……」 そして着いた根津神社。 ヤマトタケルノミコト創祀と伝えられる古い神社だ。 「立派な社です……」 舞花は立ち止まり、しばらく正面から眺めていた。 「もう少し早かったら、ツツジが見れたのに」 「緑の葉もなかなかです。元気に茂って、また来年たくさん花を咲かせてほしいですね」 「そうだね。……ところでさ、まだ夏には早いけど、ちょっと涼しくなる体験したくない?」 ニヤッとして言った葵に、舞花はひょいと片方の眉をあげる。 「私、幽霊とか信じてないですけれど」 「幽霊には会えないと思うけど、行ってみようよ!」 葵に手を引かれて向かったのは、おばけ階段。 上りと下りで段数が違うという。 二人は段数を声に出して数えながら階段を上った。そして下りた。 「まさか……!」 舞花は、どうしてと言いたげに階段を睨む。 謎を解明しようと真剣に考える舞花の様子を見て、葵はくすくす笑った。 「少し、お腹すいたね。食べたいものある?」 「東京名物でしょうか。ここならではのお菓子も食べてみたいです。後、浅草寺や秋葉原も行ってみたいと思ってます」 「一日で回れるかな……」 「無理なら明日にも」 「そうだね、明日もあるもんね」 どこかで休憩しながらゆっくり考えよう、と二人は歩き出した。 そして、和風スイーツの店で白玉あんみつを食べている時、チョウコから舞花へメールが入った。 『種もみ学院は、所属の学校関係なく在籍できるよ。気楽に来てくれよな!』 と、絵文字も交えて書いてあった。 ☆ ☆ ☆ 舞花と葵も訪れる予定の秋葉原に、佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)とレナリィ・クエーサー(れなりぃ・くえーさー)も来ていた。 たぶん、両者が入る店は違うと思われるが。 ブラヌとの約束と自身の欲望を満たすため、駅を降りるなりトレジャーセンスを使った牡丹だったが……。 「いっぱいありすぎてわかりません」 というわけで、特にここだと勘が告げた店から覗いて行くことにした。 ちょっと脇道に入ったところのこのジャンクショップ。 「ふふふ♪」 と、弾んだ笑みをこぼす楽しげな牡丹に、レナリィの頬も緩む。 部品を穴が開くほど見つめて検分していた牡丹が、くるりと振り向いて言った。 「せっかくの機会ですから、レナに無線LANとルータを搭載しましょうか」 「ソレもいいかもねぇ。やろうやろう!」 初めての秋葉原、凝ったコスプレイヤー達、客を出迎えるかわいいメイド……初めてづくしでレナリィもほわほわと夢見心地だったのだろう。 牡丹の提案に、レナリィは笑顔で乗った。 が、すぐに「え……?」と聞き返すがもう遅い。 「も、もしかして、体重、増えちゃう……?」 「さあ、次行こう!」 レナリィの心配もよそに、牡丹はウキウキしながら次の獲物(パーツ)を求めて歩き出すのだった。 そこそこ満足のいくものも見つかり、いったん休憩しようと二人が歩いていると、前方から舞花と葵が来るのが見えた。 「お二人も来ていたんですか?」 「うん。昨日は谷根千巡りして、今日はここなの」 牡丹の問いに葵が答える。 舞花が続きを引き取った。 「雑貨巡りしてたんです。他にも見てみたいお店はいっぱいあるのに、一つ一つがおもしろくて困ってしまいます」 「そうですね。思いも寄らないお気に入りに出会えたりすると、嬉しくてたまらないんですよね」 「ねえ、どっかお店入って報告会しようよ」 このまま立ち話が続きそうな雰囲気を察し、葵が提案する。 四人は秋葉原にしかないような喫茶店を探して、そこでしばらくおしゃべりに花を咲かせた。 ☆ ☆ ☆ 渋谷──。 ここも人の多いところだ。 種もみ学院の生徒勧誘に来たミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)だったが、あまりの多さに途方に暮れていた。 「学生もサラリーマンもごっちゃごちゃだな。よし、こうなったら手当たり次第だ! ──なぁ、そこの人、ちょっといいか?」 声をかけたのはおしゃれな若い女性だった。 「な、あんた、パラミタに興味ないか?」 「パラミタ? そういえば、空京にお店出してるはずだけど……どうかしたの?」 「空京に店? 何の?」 「ファッション系よ。主に若い女の子向けの」 「私、パラミタから来たんだけど、お姉さんは行かないのか?」 「う〜ん、空京勤務を希望したんだけど抽選で落ちちゃったのよねー」 「じゃあさ、必要なものは私がそろえるから、一緒に種もみ学院に行かねぇ?」 「た、種もみ……?」 ミューレリアは、種もみ学院とオアシスの現状を話して聞かせた。 「女の子もいるんだ。かわいい服は喜ばれると思うよ」 「そうかもしれないけど、ちょっと難しいわねぇ。私一人で行っても何もできないと思うし……」 ごめんね、と女性は申し訳なさそうに言った。 「いや、いいんだ。無理強いする気はないから」 「でも、あなたの話は社長にも話してみるわね」 二人は携帯のメルアドを交換し合って別れた。 「勤め人は難しいかなぁ。直接来てくれるなら、やっぱ学生? ん……もういっそハ●ーワークに……!」 ミューレリアがグッと拳を握り込んだ時、 「いると思ったんだけどなぁ」 と、首を傾げてぼやく姫宮 和希(ひめみや・かずき)が戻ってきた。 和希は、人材確保もそうだが、石原校長に縁のある者に会いたくてここに来たのだ。 「校長がここで活動してたのはだいぶ昔だから、もう移っちまったのかなぁ」 「姫やん、見つからなかったのか?」 和希の様子からミューレリアの声も少し沈む。 彼女を心配させまいと和希は微笑み、途中で買った缶ジュースを渡した。 「パラ実には財団の援助が必要なんだ。確かに、むちゃくちゃやる奴もいるけど、そうじゃない奴もいる。そういう奴らのこと、見捨てないでほしいんだ。そのためなら、いくらだって頭下げるさ」 「姫やん……。こんなに人がいるんだ。私も手伝うから、一緒にがんばろう。まだ諦める気はないんだろ?」 「当たり前だ」 ミューレリアの励ましに、落ち込みかけた和希の気持ちが元気を取り戻していく。 「あのね、さっきファッション関係の仕事してるお姉さんに会ったんだ」 ミューレリアはその時のことを話した。 「ははっ、キマクにブランド店が進出したらちょっとびっくりだよな。でも、もし本当にやって来たら大事にしないとな。でもなミュー。ハロー●ークは最後の最後にしようぜ」 そもそも載せられるのかもわからないが。 後に、和希が渋谷で石原肥満に縁のある者を探していたという噂は、石原財団の関係者の耳に入った。 その頃にはもうパラミタへ帰った後だったから会うことはできなかったが、何をしに来たのかは見当がついた。 パラ実生徒会長の人柄も何となく伝わっているため、和希の気持ちはほぼ素直に受け止められたと思われる。 それから和希とミューレリアは、いろいろな人に声をかけて回ったが、途中でミューレリアが思い出す。 「そういや花音がライブやるんだよな。渋谷公会堂で」 会場の手配や宣伝を担当しているリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)から聞いていた。 ライブは夕方から始まる。 二人はそれまで渋谷を歩き、時には「パラ実生徒会長はお前かァ!」と顔も知らない奴からの因縁を蹴散らしつつ勧誘を続けたのだった。 リュートはほとんど不眠不休でライブの準備を進めてきた。 公会堂を確保したことから始まり、楽団の手配、自ら行った宣伝のティッシュ配り一万個など。 すでに燃え尽きそうになっていたが、ライブが終わるまでは灰にになることは許されない。 おかげでたくさんのチケットが売れ、入場者の列の整備もなかなか大変だった。 「何より、花音のご両親を招待できたのがよかったです。三年ぶりになりますね」 そう思うと感慨深い。 そして、時間になり赤城 花音(あかぎ・かのん)のステージが始まった。 2022年ライブフェスタ優勝者の名前は、日本にも届いていた。 いまかいまかと待つファンの前に花音が姿を現した時、全員総立ちで彼女を迎えた。拍手と歓声でホールが震えるほどだ。 花音はそれに一礼して挨拶を始めた。 「三年ぶりに、ボクの音楽活動の原点である渋谷に帰ってきました。この三年、いろいろあったけど、最近のことで一番気になってたのが、地球に暮らすみんなのことでした」 今回はドージェがアトラスの代わりになって危機は去ったが、パラミタに拒絶される地球はその危機に対しては受け身になるしかなかった。 それを回避するために契約者が何をしてきたのか。 報道以上のことはわからないだろう。 またいつ、あのようなことが起こるともわからない。 花音は、人々の中にあるそんな不安を、少しでもやわらげたいと思った。 大好きな音楽を通じて、パラミタやニルヴァーナのことを感じてほしいと思ったのだ。 「今日は、ボクが創ってきた音楽13曲プラス新曲! がんばって歌うよ♪ 『赤城花音☆渋谷へただいま! スペシャルライブ』開演!」 再びワッとあがった歓声と同時に曲が始まる。 タイトルは『君は僕のヴィーナス』 ♪君は僕のヴィーナス 流れ星に乗って迎えに行くよ ずっとずっと追い駆けて まぶしい笑顔が大好きで 君と歌う祝福の歌 重なり合う意識 想いの形は変わったね 誰よりも愛しい人へ タロットカードの恋占い 星座の神獣が導く絆 叶えたい、叶えたい ありのままで素直に向き合う心 愛する人を護り抜きたい 眠れる光を呼び覚まして 君の手は離さない 暗闇の中で迷う時も 瞬く星を見上げれば 北極星の輝き灯る勇気 切り開こうフロンティア 恋の呪文と愛の魔法 何時までも僕はナイト そして君はヴィーナス♪ ライブの熱狂は途切れることなく、花音とリュートとファンを高みまで連れて行った。 ☆ ☆ ☆ 種もみ学院生達が研修旅行で地球へ行ってから数日が経った。 今日も天音は教室で残った学院生と過ごしている。 気づいたのは、来る顔が日によって違うことだった。 農家の手伝いやそれぞれのことで来たり来なかったりと自由にやっているからだ。 ふと、天音は近くの学院生に尋ねた。 「ここのみんなは、いつ頃帰ってくるのかな?」 「帰りたくなったら帰ってくると思うよ。そのへん、てきとーだから」 それじゃあ気長に待つことにするよ、と天音は微笑んだ。 担当マスターより▼担当マスター 冷泉みのり ▼マスターコメント
■冷泉みのり |
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