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リアクション

『試合開始から早くも十分が経過しようとしています!』
『それぞれのチームが自分の戦い方へ持ち込み始めている……一部除いて』

 試合が始まり間もなく十分が経過しようとしている中、其々のチームは自分のペースへと持ち込もうとしていた。
 序盤、奇抜なゴボウとガチな総合スタイルという異色タッグのレオーナ、クレアタッグに推され気味であったエヴァルト、ロートマリアタッグであったが、仕切り直しから迎撃中心のスタイルへと持ち直していた。
 これに対しダメージ重視のトメに隙を作るレティシアが加わり、リング上では三者が入り混じる事になっていた。

――ちなみに残る一組【ヘル・メタルズ】のコアとオクトパスマンであるが、

『オクトパスマン選手、前のめりに倒れたまま動きませんね』
『あの倒れ方は立ち上がれない倒れ方。復帰は……残念だけど絶望的』

顔面から前のめりにリングに沈んだオクトパスマンを、コアが必死に立ち上がるよう呼びかけている所だった。
 オクトパスマンは凶器による攻撃を仕掛けていたのであるが、大ぶりな攻撃は見事空かされ、逆にトメに凶器(工具)で打ちのめされるわレオーナに【ゴボウ】を刺されて『アッー!』になるわとフルボッコであった。ちなみに今現在【ゴボウ】はオクトパスマンの尻にある。

『しかしどのチームも未だに権利書へと手を伸ばしていない!』
『そろそろどのチームも動きを見せ始める頃。どう展開するか』
『果たして権利書を手にするのはどのチームか! というかルール覚えてるのかなこの人たち!?』

「もっちろん覚えてますよぉ。そろそろいきますかねぇ……いきますかねぇ!」
 レティシアがトメに呼びかける。が、歓声のせいか聞こえないようである。決して耳が遠いとかそういうわけではない、はず。
「おばあちゃん! 呼んでるよ!」
「ん? おお、はいはい」
 リング下の朋美に呼ばれて漸くトメが反応する。ちなみにそれまでエヴァルトとロートラウトに『たらちねアタック』や『垂れ乳ぱふぱふ……だったらよかったでせうね』という攻撃という名の地獄を味あわせていた。どのような攻撃だったかは名前からして想像してほしい。
「すんませんなぁ周りでよぉ聞き取れへんのどす」
「いえいえ、それよりあの技やりましょうかねぇ」
 レティシアの言葉にトメは「合点」と親指を立てると飛び上がる。するとレティシアはリングに仰向けに寝そべり、飛び上がったトメと足底を合わせるとその足を曲げた。その形はまるで砲台である。砲弾はトメと言ったところか。
「「必殺! グランド・M・ハリケーン!」」
 叫ぶと同時に、レティシアがトメを両足で蹴り出す。砲弾のように放たれたトメは、顔面の皺を風圧で震わせながら、一直線にロートラウトへと向かっていく。
「へ……って今回ボクこんなんばっかー!?」
 流石に飛んできたトメに対応しようがなく、ロートラウトが吹っ飛ばされる。
「この調子でもう一発やりはりましょうかね!」
「わかりましたよぉ!」
 再度、トメが飛び上がりレティシアが寝そべる。トメという砲弾が装填され、レティシアという砲台が狙いを定めた。目標はエヴァルト。
「そぉれも一発いってくださいねぇ!」
 レティシアがトメを放った。風圧で震えるトメの顔面の皺。一直線にエヴァルトへと向かう。だが、エヴァルトはトメを受け流す……というより思いっきり避けた。
 結果、止まらないトメはロープの間から場外へと飛び出し、
「え゛……ひきゃー!」
セコンドに着いていた朋美に衝突した。

『トメ選手のトペスイシーダが場外の朋美さんに見事誤爆したー!』
『食らった朋美氏は勿論、トメ選手は暫く起き上がれないでしょう』
『放ったレティシア選手は『メンゴメンゴ』とテヘペロ状態です』

「……流石にあんなん食らってられっか」
 場外の惨状にエヴァルトが呟く。その隙だらけな背後からは、クレアが忍び寄っていた。
 背後から腰を掴み、押し倒す様に体重をかける。このまま押し倒し、バックマウントからの攻撃で一気に優位に持っていこうというのがクレアの考えであった。が、
(――何か違う!?)
何か解らぬ違和感があった。思わず自分のバランスを崩してしまいそうになる程。
「残像だ」
 クレアの背後から、エヴァルトの声が聞こえるのとクラッチを極められたのはほぼ同時であった。よく見るとクレアが掴んでいたのは、
「あうぅ……」
目を回したロートラウト。【空蝉の術】で手近にいた彼女を身代わりに掴ませていたのであった。残像ではない上下種の極みともいえる行為であった。
 思わず自ら手のクラッチを解いてしまうクレア。ほぼ同時に、エヴァルトが彼女の身体を持ち上げ、背後に反る。
「女には手を出さない主義だが、これは試合! 遠慮なくやらせてもらう! せぇぇぇあッ!」
そして後頭部からクレアをジャーマンスープレックスでリングに叩きつけた。途中でクラッチを自ら外し、投げっぱなしの形となる。

『エヴァルト選手のUTUSEMIスープレックスがクレア選手に決まった!』
『手近にいたからとロートラウト選手を囮にするとは。汚い流石ニンジャ汚い』
『しかしクレア選手、これは大ダメージ! 受け身も取れず叩きつけられた後頭部を押さえて立ち上がれない……おっと? レオーナ選手が何やらマイクを手にしていますよ?』
『何やら手を振っているけど……どうやら試合を止めるように要求している?』

 泉空の言う通り、レオーナは大きく手をクロスさせたり、手に持ったマイクを通して運営側に何やら叫んだりとしている。滑舌が悪いのか、何を言っているかさっぱりと解らないのだが、どうやら試合をストップさせるようにアピールしていた。その様子にリング上の者達の動きが止まる。
『下がれ! 下がれ!』
 漸く聞き取れる言葉が流れた。それは選手達をコーナーへと下げる様に指示する言葉であった。
『あwせrdrftgyふじこlplp;@:!』
 そしてまた何を言っているかさっぱりわからないマイクが始まる。戸惑いつつ、その様子を見守る会場。
『……我々は、殺し合いをしているんじゃないんだ!』
 それだけ言うと、荒くなった息を整える様にレオーナが数度呼吸を繰り返す。会場としては、一体何を言っていたのかさっぱりだ。

――この行為が、後の【レオーナストップ】として語られることになるのだが、それはまた別次元の話である。少なくとも語る気は無い。

『……えー、これ試合止めた方がいいのでしょうか?』
『その必要はない。ほら』
『え……あ』

『もう一度言う! 我々は殺し合いをぶッ!?』
 レオーナのマイクは突如遮られた。それは、空から降ってきた。
「……ってぇ……けど取ったどぉーッ!
 レオーナを押し潰しながら、エヴァルトが高々と手にした権利書入りアタッシュケースを掲げた。

『えっと、一体何が起こったのでしょうか?』
『簡単な事。レオーナ選手が演説を行っている最中にエヴァルト選手がロープを伝って取りに行っていただけ。凄い早さだった』

 泉空の言う通り、レオーナのマイクの最中エヴァルトは権利書を取りに行っていた。しかも【ゴッドスピード】を利用していたりと完全に狙っていた。
 それもそのはず。エヴァルトは最初から権利書を取る事だけを考えていた。他の選手と違い、相手を倒してから取りに行く、ではない。隙を見て、だ。そんな彼にとってレオーナのマイクは好機以外の何物でもなかった。
 他の選手が呆気にとられている中、満面の笑みを浮かべてエヴァルトはレオーナが落としたマイクを手にする。
『えー、というわけで権利を獲得したわけだが、生憎ながら俺は式を挙げたいというわけではない。そこで、だ』
 そしてエヴァルトは、邪悪な笑みを浮かべてケースを再度、高々と掲げた。
『この権利書を、オークションに出そうと思っているッ!』
 背後から『ドッギャァーン!』という効果音が付きそうであった。どういう効果音かはよく解らん。

『……い、いいのかなあれ』
『何と言う卑劣な……くそ! 言い値を出そう! 是非とも私に!』
『いやいやちょっと落ち着こうよいっちゃ……あ』

 今にも立ち上がりそうな泉空を制止しようとする翼の言葉が途切れた。リング上の、ある物を見てしまったからである。
「「「「ふざけるなぁぁぁぁッ!」」」」
 この結果にブチ切れた、レティシア、トメ、レオーナ、クレアの怒りのエヴァルトフルボッコが始まったからである。
 まずレティシアのヒップアタックからトメの玄孫からの愛の工具攻撃による容赦ない徹底的なボコりから始まり、ダウンしたところをクレアが脳天狙いの四点ポジションニーを叩きこまれる。
 ぐったりしたところを、レオーナがまるでゴボウを引っこ抜くような強引な引っこ抜きジャーマン、その名もゴボウ抜きスープレックスで無理矢理起こすと同時に叩きつける。
 これに関してはパートナーのロートラウトも巻き込まれたくないのか、「自業自得だよね」と傍観者のスタイルを貫くことにしていた。

「まあ、ありゃ仕方ないわよねぇ」
 観客席から惨劇のようなリンチを眺めてラブが呟く。他の観客も「アレは仕方ない」とこの試合後のフルボッコを許容し、その様に歓声を送る者まで出る始末だ。
「それにしても、今回のうちのポンコツ達は目立たなかったわ……およ?」
 ふと、ラブが倒れている筈のオクトパスマンに目をやると、ボロボロの身体をコアに支えられつつ立ち上がろうとしていた。
「ありゃ、今回は立つの?」

「オクトパスマン無茶をするな! その身体で立ち上がるのは……」
 心配そうに体を支えるコアに「うるせぇ」と息を切らしつつオクトパスマンは立ち上がる。
「……こ、こんな所でおネンネしてるわけにゃいかねぇんだよ……と、遠い異国でな……俺様の、な、仲間達がよぉ……強大な『無量大数』相手に血流してるんだ……しょ、勝利の報であいつらを激励するんだよぉ……ッ!」
「お、オクトパスマン……! 今回勝利に拘っていたのは、遠い地の仲間達の為だったのか!?」
 コアの言葉にオクトパスマンは黙る事で応えた。ちなみにオクトパスマンが言う仲間達やら何やらがその裏側で一体何が行われているのかは別次元の話であるが、語られることはない(確定)。
 そんなオクトパスマン達に気付いたのか、フルボッコにしていた面々はぼろ雑巾になったエヴァルトへの道を開けた。まるでトドメを譲るように。
「へっ……い、いくぜぇ……! デビルフィッシュフォー……ぐはぁッ!」
 極め技であるデビルフィッシュフォールを仕掛けようとするが、体勢までは作れたもののダメージからオクトパスマンは動きを止めてしまう。相手ごと飛び上がり叩きつけるこの技を放つには、今のオクトパスマンの身体はダメージが深すぎた。
「オクトパスマン! お前の気持ち、無駄にはしないッ! とうッ!」
 するとコアが高々と飛びあがり、
「必殺! アイアンシーソーッ!」
リングに蹴りを入れる様に着地した。その衝撃はまるでシーソーのようにオクトパスマンの身体を高々と跳ね上げる。『構造的にそんな芸当可能か?』とかいうツッコミは野暮ってもんだ。ファンタジーなんだから。
「さぁオクトパスマン! その誇り高き技を叩きこめ! 遠き地にいる仲間達の為に!」
 宙に浮かぶオクトパスマンにコアが叫ぶ。だから誰だよ仲間達。
「へっ……遠い空の同士達よーッ! この勝利をお前らに捧げるぜーっ! デビルフィッシュフォールぅッ!
 空中で完成するオクトパスホールド。重力の法則に従い、オクトパスマンとエヴァルトは落下する。
 法則通りに落下した二人が待ち受けているのはリングの衝撃。受け身も取れない二人の身体に、衝撃が走った。
 最早オーバーキル状態だったエヴァルトは勿論の事、深いダメージを負っていたオクトパスマンも立ち上がれない。
「……ありがとうよ、相棒」
 誰にも聞こえない小さい声で呟いてから、オクトパスマンは意識を手放した。
 結果的に権利書を手にしたのはエヴァルトである。しかし、この試合の勝者はオクトパスマンであったと言ってもいいのかもしれない。
 その証拠に、直後に送られた拍手と歓声は大半がオクトパスマンへの物であった。

――ちなみに権利書の行方は「最初に獲得したのは彼だし」という牧師のジャッジによりやはりエヴァルトへと贈られたのであった。