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第三章 タッグマッチその2

――先程の試合が終わり、六角形リングの上の清掃が終わると今度は新しいアタッシュケースがワイヤーに吊るされる。
 その作業は時間にして十数分。その時間内でリングの状態のチェックなどを終えると、先程の試合前と同じコンディションのリングが残った。
 ここでこれから、もう一試合行われる。先程と同じルールのタッグマッチだ。

『衝撃的であり感動的でもあったラストを迎えた前試合からルール、リングをそのままに引き続き、今試合もタッグマッチ権利争奪戦を行います! まず最初の入場者は小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)のお二人です!』
『プロレスの試合経験がある美羽選手と、高い身体能力のコハク選手。タッグとしては申し分はないけれど、不安要素はコハク選手の試合経験の無さと言ったところ』
『続いての入場は……涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)の親子タッグ! 涼介選手、威風堂々とした入場に観客から思わず拍手が送られます! まるで王者の入場の様です!』
『資料によると、出場の動機はミリィ選手が『両親の結婚式を見たいから』だとか。大人に交じっての参加だけど、リングに上がった経験もあるミリィ選手はダークホースになるかも』
『まだ尚鳴り止まぬ拍手――が鳴りやんだ……? おっと、続いての入場選手を見て納得しました! レオタード風コスチュームを纏った水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)のお二人が凄まじい気迫での登場です! 最早ここまで来ると怨念と言った方がいいかもしれません!』
『ゆかり選手、どうやらまだ数年前の失恋を引き摺っているみたい。試合前にも『リア充共にいい目見させてたまるかぁぁぁ!』という殺意を感じる意気込みだった。暗黒面に堕ちた二人、カップルにとって脅威になるかと』
『さて、最後の入場となったのは酒杜 陽一(さかもり・よういち)、{SNM9999025#高根沢 理子}のお二人です! 理子選手は木刀を、陽一選手は……は、【廃自動車】を持ち込んでいます!』
『凶器としては問題ない、というのが主催者側の見解。大丈夫、彼らなら大丈夫』
『先程に続き試合内容はヒートアップするのは間違いなさそうです! 間もなくゴングです!』

 ゴングが鳴り響き、リング上の選手達が身構える――中飛び出したのはゆかりとマリエッタであった。
「こぉのリア充がぁッ!」
 まずゆかりが襲い掛かったのは、陽一であった。
「え、ちょぶぉッ!?」
 顔面を貫くようなゆかりのフロントキックにて、陽一が一撃でダウン。
「よ、陽一!?」
「お前もぉかぁッ!」
 続け様にゆかりが理子にドロップキックを食らわせ、強引に場外へと落とした。
「え、何あれ……」
「み、美羽……気を付けた方がいい……ってこっち来た!?」
 呆気にとられている美羽とコハクに、マリエッタが襲い掛かる。
「リア充めぇッ!」
 飛び掛かる様なマリエッタのローリングソバットがコハクを襲う。
「うわっ!?」
 慌てて身構えるが、胸に食らってしまったコハクがよろける。続け様にミドル、ローのキックでマリエッタが襲い掛かった。
「こ、コハク!? このぉッ!」
 マリエッタを背後から掴み、美羽がナックルパートで逆襲する。二度、三度と浴びせた拳にマリエッタは自ら倒れかかる様にダウンする。
「もう一人……ってうわぁ!?」
 直後、美羽をゆかりがフライングボディシザースで飛び掛かる。全体重を浴びせられ、受け身も満足に取れずにリングに叩きつけられる。追撃を避ける為、自らリング下へとエスケープする。
「お、お父様……アレは一体……」
「うん、とりあえず間違いなくヤバいから早めに倒した方がよさそうだな」
 涼介がミリィにそう言うと、立ち上がったゆかりとマリエッタが二人を見据える。
「……そう言えばあの人、既婚者でしたよねマリー?」
「ええ、夫婦仲も家族仲も良さそうで何よりよねぇ、カーリー?」
「ならあの二人もリア充、ですよねぇマリー?」
「勿論よね、カーリー?」
 ゆかりとマリエッタが殺る気満々の目で涼介とミリィを見て、笑みを浮かべた。と同時に飛び掛かる。ゆかりは涼介、マリエッタはミリィだ。
「っと! 流石に大ぶり過ぎだって!」
 二度目のフロントキックは読まれ、涼介は避けると牽制する様にゆかりに逆水平チョップを叩きこむ。
「こちらも戦闘スタイルはわかってますわ!」
 そしてマリエッタが放つローキックをミリィは近づいて威力を軽減させる。が、
「――って思うじゃない?」
「へ?」
近づいたミリィを、マリエッタが喉輪に捕らえると高々と抱え上げ、リングに落とす。チョークスラムで叩きつけられ、ミリィの呼吸が止まった。
「ミリィ!?」
「さて、これは避けられますか?」
 ミリィに一瞬気を取られた涼介に、ゆかりがその場を飛び上がる。そして涼介の後ろでいつの間にかスタンバイしていたマリエッタも同時に跳び上がり、頭を挟むように蹴りを放った。
「ぐぁッ!」
 流石にこらえきれず、涼介もダウンし場外へとエスケープする。

『涼介選手へのサンドイッチ延髄切り! ゆかり選手とマリエッタ選手、開始早々他の参加者を蹴散らしました!』
『ダメージ狙いの技、リア充撲滅は口だけじゃない。あの二人は最初から潰す気満々』
『他の参加者にとって脅威的になるのは間違いなさそうです!』

「……潰す気、ねぇ」
 場外に転がった涼介が笑みを浮かべながら持参した【凶器用パイプ椅子】を手に取った。
「中々面白い事するねぇ」
 同じく、場外の美羽も持参したチェーンを手に取る。
「けど、そう簡単にいくかねぇ」
 そして同様に場外にいた理子が木刀を手に取った。

『……えー、他参加者も殺る気満々の様です。其々持参した凶器を手にし始めました』
『流石契約者。やられてもただじゃ転ばない』
『本試合も荒れることが予想されます。果たしてケースを手にして勝者となるのはどのチームか!?』