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無人島物語

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無人島物語

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 洞窟は、島の大きさの割には結構な規模だった。
 横に伸びているのではなく下に深く、一行は地下へ地下へと潜っていく。
 あの後、幾度か戦闘はあったが、強力な契約者たちの敵ではなかった。
 なんだかんだで結局わいわいやりながら探索しているうちに、やがて、巨大な門の前へと辿り着く。
「いかにもって、扉じゃない。この奥が目的地かしら」
「“魔女”とやらがいるのよね。どうやって倒すの?」
 これまで着実に戦闘で成果を上げていた悠が聞く。
<正体がわかっていないのだ。遭ってから考えるのがいいだろう>
 ゲルバッキーが仕切っているが、文句を言う者もいない。
 ぎぎぎぎぎ……、と鈍い音を立てて扉は開いた。
 その先には、真っ黒の空間とあたり一面を充満する悪意に満ちた魔力。
 正面に、ローブを纏った人影が宙に浮いていた。
「  貴様らか。わらわの秘宝を奪おうとやってきた愚か者たちは…… 」
「あ、あれが、“魔女”……」
 悠は、息を呑みながら身構える。
 想像していたイメージとは違っていた。
“魔女”といっても、一見女性かどうかすらわからない。ボロボロに古びたローブを纏った不気味なガイコツだった。かなり古風な、中世ファンタジーに登場しそうなシルエット。
 ただ一ついえることは、ただのスケルトンや単なる骨型モンスターの類ではないと言うことだ。“魔女”の全身から放たれる魔力は尋常ならざる大きさだ。
「  わらわは“魔女”――ビッチー――、偉大なる不死の女王にして古代魔法を極めし者。貴様らごとき虫ケラどもは、捻りつぶしてくれるわ!  」
 大層な迫力だった。こいつガラスボス……。
 だが、全員が不敵な笑みを浮かべていた。ようやくまともそうな強敵戦えるのだ。ちょっとは楽しませてくれよ、と構えを取る。
 空気を読まずに真理子は言った。
「アンデッドの王で強力な魔法使い。そして、ローブを纏ったガイコツの姿。これって、古いTRPGに出てくるモンスターで、名前はリッ……むぐっ!」
 真理子は、途中で仲間たちに口を塞がれどこかに連れて行かれた。戦闘の邪魔でもあったし、事情で名前は出せないようだった。
 まあとにかく、単にそんなモンスターを登場させたかっただけらしい。この島に住んでいたなんて誰も思うまい。
 たまには古風な敵もいいだろう。
 激しい戦闘が始まった。全員参加の総力戦だ。
 まずはイングリッドが飛び出した。
 舞香がセクシーで短いスカートを翻しながら美脚を披露し、
 マイトがイングリッドとの競演で英国仕込の武術を敵に叩き込み、
 ライスが壁での反射を計算に入れた兆弾を織り交ぜながら銃撃し、
 ミリシャが相手の動きから攻撃パターンや弱点を推測し周囲へアドバイスをとばし、
 ダリルとカルキノスは甘えるゲルバッキーの頭を撫でながら見物し、
 セレンフィリティはその隙に『トレジャーセンス』で見つけた別の宝物をこっそり手に入れ、
 セレアナはセレンフィリティに突っ込みを入れながらサポートし、
 悠はスキルを織り交ぜながら専用スキルで巧みに敵と戦い、
 牡丹が悠に飛んでくる攻撃の盾になりながら反撃を加え、
 真理子が後ろで荷物番をし、
 全員が着実に敵にダメージを与えていく。
 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 と島が揺れた。
“魔女”――ビッチー――は、やってきた契約者たちの前に、全ての魔法を打ち尽くし、滅び去る。
「  ぐおおおおお! このわらわが敗れるとは……。ぐはぁぁぁぁぁぁ  」
“魔女”――ビッチー――は、断末魔と共に消えていった。
 ……。
 やがて、周囲が明るくなる。
 辺りを覆っていた闇は晴れ、目の前には花が咲き乱れる美しい大草原が広がった。
「ここってどこなの? この島ってこんなに広くないでしょ?」
 真理子は、見知らぬ大地を踏みしめながら言った。青い空に涼しい微風、明らかにあの無人島とは違う場所だ。
<異空間かもしれない。『伝説の果実』だ。こんなところにあっても不思議ではないだろう>
 ゲルバッキーの視線の先に、ひときわ大きな木が立っているのがわかった。
「もしかして、あれが『伝説の果実』の成る木なの?」
 真理子は駆け出してく。他のメンバーも後に続いた。
「すごい」
 木のすぐ傍まで行った真理子は感嘆の声を上げる。
 そこには、りんごにも似た無数の果実が枝一杯に実っていた。
「全員の分、あるわよ!」
 もしかして、果実の取り合いになったらどうしようと少し心配していた真理子は、安堵の表情で全員を手招きする。
「これで私は、お肌の張りや色艶もよくなってダイエットも成功するしずっと若々しい容姿とプロポーションを保っていられるのね」
 真理子は、見ている者が呆れるくらいの凄い勢いで木に登り、果実をむしりとった。
「伝説の『美容にいい果実』。……さっそくいただきま〜す!」
 無警戒に丸齧りした真理子は目を見開いた。
「甘くておいしいわ! 硬くないしこのまま食べれそうよ」
 シャクシャクシャクとあっという間に全部平らげる。
「もう一個……」
「あたしももらうわ」
 舞香がスカートの短さも気にせず木に登ってきた。色っぽくはためくが気にしない。
 同じく、一つとって食べてみて満足げに頷く。
「本当においしいわね。確かに身体にも栄養がよく回ってよくなりそうよ」
「さほど興味はないが……。いや、なんだ、その……。私にも一口でいいからもらえないか?」
 ミリシャは、下から声をかける。
「はい」と真理子が取った果実をミリシャの手の中に放った。
「うん、悪くない。全身の体細胞が活発化されていくように染み込んでいくな」
「あと、ゲルバッキーにもね」
 真理子が放った幾つもの果を、ゲルバッキーは残らず食べ始める。
<これは素晴らしい。復讐など忘れて平和なひと時を過ごせそうだ>
「ねえ、セレアナも一つどう?」
 もちろん、セレンフィリティも木からもぎった果実を食べていた。恋人でもあるパートナーと、美味しいひと時を過ごした。
 イングリッドも興味はなかったが、いざ果実を前にすると食欲がわいてきたらしい。一緒に取って食べ始める。
「本当、美味しいですわ」
「イングリッドがそういうなら、俺ももらおうかな」
 マイトが、イングリッドから手渡しで果実をもらい二人で並んで食べ始める。至福のときかもしれなかった。
「……」
 ダリルは、果実の茂っている木を土壌から根の張り具合、木の種類などを観察してから拾い上げた果実をじっと見つめていた。
 美容に興味はないが、植物的に興味はある。割ってみて実の熟れ方を調べ果汁をチロリと舐めてみる。なるほど、これは旨い。だが……。知識を総動員してしばらく熟考し眉をひそめた。
「……」
「おい、旨そうじゃねえか。俺にも一つくれよ。美容に興味はねえが、おやつ代わりにいけそうだ」
 カルキノスが言うと、ダリルは小さく首を横に振った。
「確かに、ある意味これは美容にとてもいい果実だ。だがこれは……」
 果実の正体に当たりをつけたダリルは、楽しそうに果実を食べる女の子たちを見て、そして果実にむしゃぶりついているゲルバッキーに視線をやり、手遅れだったかと諦めたように眼を閉じた。
 伝説の『美容にいい果実』は実在した。皆は幸せそうだ。それをぶち壊すのは忍びないが。
「大至急、ルカに大量の薬を持って全速力で迎えに来させてくれ。下手をすればこの島は、阿鼻叫喚の地獄絵図になる。さすがの俺でも器具も薬もなく治療は出来ない」
「お、おい、どうしたんだよ。この実がなにかヤバイ毒でも混じっているというのか?」
「いや、とても身体にいい。新陳代謝を激しく活発化させ細胞を刺激させる。体内の悪い成分を全て排出して、ダイエットに最適だろう」
「もったいぶらずに端的に教えてくれよ。なんなんだ、この実は?」
「とても強力な下剤だ。伝説級のな……」
 ダリルは真理子たちを眺めながら短く言った。
 真理子のお腹から、ピーーーー! と禁断の音が聞こえた気がした……




「わ、忘れよう、みんな……。ここであったことは全て……」
 真理子の言葉に、果実を食べた全員が力なく頷く。
 ゲルバッキーは、げっそりとやせ細っていた。もうダリルを息子と呼ぶ気力もない。
 あまりにも酷すぎる事件だった。誰のせいでもなく、何の救いもない……。
 浜辺や密林でも事件があったが、あんなものは生ぬるい。天国みたいなものだ。これからの長い人生、これを超える悪夢はないのではないかと思えたほどだ。
 あれから、洞窟で何があったのか……、具体的な描写は避けることにする。例え拷問されても誰も喋らないだろう。人生最悪の黒歴史は墓の中まで持っていくのがいい。
「ごめんねごめんね、……みんな、ごめんね。私のせいで……」
 真理子は、哀れなほどやつれ、クマの出来た目からぽろぽろ涙を流し続けていた。腹が痛くて土下座も出来ない。あれだけ減らすのに苦労した体重をあっという間に大幅に減少させ、腹を押さえながら救援の船によろよろと歩いていく。
「……あなたのせいでは、ありませんわ……。あれは……、愚かで欲深い人間への試練なのかもしれません……」
 戦う力を失ったイングリッドが虚ろな目で答えた。
 悠と牡丹、そしてライスたちがパートナーや他の仲間を抱えて、神妙な面持ちで船に乗りこんだ。誰も、絶対に何も言うまい……。

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 事件は、今ここに固く封印された。
「どんまい」
 薬を手に、迎えに来ていたルカルカが、労わるように苦笑していた……。