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無人島物語

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無人島物語

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 キャンプ地は平和にお昼を迎えていた。
 密林で遊んでいたルシアや狩猟の手伝いをしていた香菜、そして修行中だった恭也までが集まってくる。
「みなさ〜ん。お昼ごはんが出来ましたわよ〜」
 サオリ・ナガオ(さおり・ながお)は、人数分の昼食を調理して全員の帰りを待っていた。勝手にサボってどこかに行ってしまった勇平の分まで作っておいてくれてるあたりが、彼女の優しさだろう。
「いただきま〜す」
 木製テーブルの上に並べられた木製のお椀や皿の上に、調理された魚や肉が乗っている。全員が手を合わせてから食べ始めた。
 木製テーブル? そう、サオリのおかげで、過酷な遭難生活がただの屋外キャンプ同然に成り果てていた。『イノベーション』と『窮鼠の知恵』などのスキルと、サオリの豊富な知識を掛け合わせて生活必需品や代用品を作り出していた。
『火術』で火を起こし、『氷術』で水を作り出し、さらには『破壊工作』をうまく活用して地形を作り変え家や畑を作る土地を整地するまでに至っている。
「え、えっと……。サオリってお嬢様じゃなかったっけ?」
 食べながらも、香菜は言う。味付けが主婦だった。
「パパはお金持っているみたいですけどぉ……。わたくしはただの女の子ですよ〜」
 サオリは微笑んでから。
「皆さん、食べ終わったらお洗濯したいので、順に着ている物をあそこの気桶に放り込んで置いてくださいね。着替えはサイズ共通で麻製ですけど、貫頭衣作ってみましたの」
「わぁ、本当だすごい。原始人みたい」
 ルシアはさっそく貫頭衣を持ってきた。その場で生着替え……する前に理知たちにどこかに連れて行かれる。
「ふぅ……、一休み、ですぅ」
 こまごまとした雑用を片付けてから、サオリは切り株に腰掛けた。島に流れ着いたときはどうなることかと思ったが、案外どうにでもなるものだ。さすがに、一週間もすれば救援も来るだろうから、それまでは十分に暮らせそうだ。
(折角の機会なんですからぁ、救助が来るまでまったり過ごすのも良いかもしれないですぅ)
 サオリは、またみんなが思い思いに過ごし始めたのを微笑みながら眺めていた。
「……?」
 ふと、ガサガサと蠢くと気配を覚えて、彼女は木製の棍棒を手に立ち上がった。
「ネズミさんでしょうかぁ……。イニシャル“G”様はさすがにこの島にはおられませんよねぇ……」
 彼女は、気配を消しながらそろりそろりと近づいていく。蓄え始めた食糧を食べに来た野生動物かもしれない。軽く脅かして追っ払ってやろう。
 と。
「『アナイアレーション』! 」
「!?」
『パスファインダー』のスキルを駆使してすぐ傍までやって来ていた勇平が、いきなり大技を繰り出していた。
『イアンナの加護』を装備していなかったら、サオリもただで済むはずがなかった。なんとか体勢を立て直そうとしたときには、すでに勇平は逃げ出していた。
 サオリたちが一生懸命捕まえて調理加工した食べ物を根こそぎ大きな麻袋に入れて。
「どろぼーさんですぅ!」
 サオリはすぐさま追おうとしてやめた。勇平が、この計画のために戦闘に特化した強力なスキルをいくつも装備しているのがわかったからだ。
「どうした! 大丈夫か!」
 異変に気づいたほかの仲間たちがすぐさま駆けつけてくる。サオリに頷くと、用心しながらも全員で勇平を追い始めた。
「ほんとうにバカな子ですわねぇ。……帰ってきたらお尻ぺんぺんなのですよぅ」
 ぷんぷんと怒りながらサオリは言った。
 でも……、とすぐにサオリは考え直す。罰としてお掃除要員にしたほうが良いかもしれない。島を隅から隅まで掃除させれば、いっそう住みやすくなるだろう。しばらくは快適に過ごせそうだった。



「やったね、おとーさん! 大量だよ!」
 勇平のパートナーの猪川 庵(いかわ・いおり)がカッツポーズをしながら合流してきた。キャンプの全員が勇平を追いかけ始めたのを見計らって、別のところに開いて干してあった魚の燻製をまとめて盗んできたのだった。
「ひゃっはー! 大成功だぜぇ……!」
 香菜たちのキャンプから食料品をありったけ盗んだ勇平は、密林へと逃げ込んでいた。
「あいつら、予想以上に溜め込んでやがった。これでしばらくは安泰だぜぇ!」
 後は、誰にも見つからずに寝て暮らすだけだ。なくなったらまた取りに行けばいい。簡単なことだ。
 だが、怒った香菜や和麻や恭也までが全力で迫ってくる。いくらスキルを駆使しても、これでは多勢に無勢。
「くっ……、やつら人の苦労も知らずに!」
 大した苦労をしていない勇平は言う。
「せっかく取った俺の食べ物を取り返されるくらいなら、このまま海へ飛び込んでやるぜぇ……!」
「あたしも付き合うよ、おとーさん。ついでに泳ごうよっ。全力で楽しまないと損だよ」
 庵の言葉に、勇平が決意しようとしたとき。
「一度だけだよ、ゆっぴー、いおりん。本当は、男に味方するつもりはないし、そもそも近づきたくないし、あんた超キモいんだけど」
 先ほど捨ててきたレオーナが割ってはいる。ゆっぴーというのは勇平のことで、いおりんは庵のことらしい。
「助けてくれたお礼と、いおりんが可愛いからちょっとだけ加勢してあげる」
 レオーナは密林での激しい戦闘の衝撃で、野生が抜け落ちていた。勇平からもらったTシャツは、男物だったから要らなかったらしく、押し返してくる。
「『野性の蹂躙』」
 全裸のレオーナがスキルを放つと、どこからともなく密林のモンスターが大勢やってきて駆け抜けていく。鍛え上げられた契約者たちを倒すには不足だが、その騒動で視界と進路がふさがれている間に、勇平たちは密林の奥へと姿を消した。
「更にもういっちょっ!」
 レオーナは、勇平たちを追っていたのが美少女ばかりなのを確認すると、神のお告げどおり(?)美少女をゲットすべく素早く動いた。
 ルシアもいいけど、今度は香菜に……。
「『氷術』!」
「きゃいんっ!」
 どこからとも飛んできたスキルに、レオーナは頭を打ちぬかれその場に転倒した。
「どれだけ他人様にご迷惑をおかけせすれば気が済むのですか、レオーナ様?」
 それは、レオーナを追って密林に入っていったクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)だった。ようやく探し当ててやって来ていたのだ。彼女は、レオーナが立ち上がるより先に肩あたりを押さえて掴んだ。
 パン、パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!
 額に怒りマークを浮かべたまま、笑顔でレオーナを往復ビンタするクレア。
「皆さまに、ご免なさいしないといけませんわね」
 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!
「あ、あううう……。ご、ごめんなさぁぃ……」
 レオーナが言うと、クレアは、よろしい、と頷いた。
「みなさま。大変ご迷惑おかけしました。わたくしたちはここで失礼させていただきますわ」
 もう一度、皆にぺこりとお辞儀をすると、クレアはレオーナに振り返った。
「さあ、帰りましょう……、といいますか、別の場所で救援が来るまで待ちましょう。ここにいれば、またどんなご迷惑をおかけするかわかりませんから」
 言ってから、クレアは違和感に目を丸くする。
「……あれ?」
「……ウキッ!」
 レオーナは、また無人島の環境に影響されたらしく、野性を取り戻していた。
「ウキッ、ウキキッッ……! ウッホウッホ!」
 サルのような仕草で、密林の中に駆け込んでいく。
 クレアは、とても優しい表情でそれを見送った。
「さようなら、レオーナ様。あなたのことは忘れません、きっと……。ジャングルでもお元気で。私もこれで平穏な暮らしに戻れます」
 騒動を背に、クレアは去っていく。


「ふぅ……。ここまで来れば大丈夫なようだな」
 レオーナが時間を稼いでくれたおかげで、勇平と庵は追っ手をまくことに成功していた。
 もう誰も追ってこないのを見計らって、庵と頷きあう。
「面白かったね。おとーさん」
「そうだな。獲物は二人で山分けしようぜ。あっちにちょっと広いところがあるから、そこで荷物を広げよう」
 勇平と庵は少しその場から移動……しようとして。
「!!!!!」
 すぐ傍の木にもたれかかるように立っているウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)に気づいた。
「ずいぶんとお待ちしておりましたのよ、勇平君」
「あ、いやあのこれは……」
 勇平は引きつり笑いを浮かべて後ずさる。そんな彼を見つめながら、ウイシアは微笑んだ。
「あなたたちには、三つの選択肢がありますわ。……今死ぬか、後で死ぬか、必ず死ぬか」
「あ、あはははは。ウイシアさん、目がマジダネ……?」
 庵も逃げ出す体勢を作りながら、硬直した笑みを浮かべる。
「……俺、超大切な仕事が残ってたんだ。パンツ洗わなきゃいけないから! ……じゃっ!」
 勇平は、盗んだ食糧を放り出し全力で逃走していた。庵もだ。
「そんな人たちには、キツメのお灸が必要ですよね?」
 ウイシアは、どこからともなく『爆砕槌』を取り出した。今回はアイテムは持ち込めないルールだが、この一回だけ神が特別に与えたのだろう。
 密林に、ドーーーーン! と爆音が轟き渡っていた。
「大丈夫ですわ。峰打ちですし?」
 何事もなかったかのように、ウイシアは動かなくなった庵を連れて去っていく。
 それと入れ替わりに、香菜たちが追いついてきた。彼女らは無事に食糧を回収して、日常へと戻っていった。
「……」
 放置された勇平は、黒焦げになったままピクリとも動かなかった。
「……ウキッ!?」
 そんな彼を、野生化して戻ってきたレオーナが発見する。
「ウキウキキッッ!」
 あの時助けてくれた、そのお礼……。それを野生化しても覚えていた。
 レオーナは、密林で手に入れたゴボウのような長くて太い山菜を勇平に与える。
 彼の尻に力いっぱい突き刺した。
「アッーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「ウキキキーーッッ……」
 サルの恩返しが出来たレオーナは、満足げに密林の奥へと消えて行く……。 


 かくして、島は平穏を取り戻し、契約者たちの楽しい日々は特に滞ることもなく無事に過ぎていくのであった。