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【回廊・2】


『――というかジゼルに何かあったらアレクにも影響出るんだし、妹がこんな危ない所に迷い込んでるのにスルーは無いだろ。アレクも早く降りてきなさい。そっちの任務がアレクが居ないとどうしようもなくまわらないっていう超人手不足なら仕方ないけど――』
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)と共に地下へ向かったエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)からの、――何故電波が届いたのだろう――着信直後の捲し立てる声に、アレクは何時もの平坦な声で喋り出した。
「Hi,this is Alex speaking.
 Sorry,I’m can not answer the phone right now.
 So,I’ll take your message now.Thank you.」
 電話を取りながら留守電メッセージで答えるアレクに、隣に居た託は吹き出しそうになるが、声を出すなと口を押さえつけられて涙目になっていた。
 そうして電源ボタンを押して強制切断すると、直後メールが着信する。
『ロリとおバカとデート中。妹様を迎えに行く』
 これは唯斗のメッセージで、アレクは何も返信せずに電話もメールも無かった事にした。
「任務だから番号教えた奴居たけどやっぱ面倒くさいな。終わったら全部着信拒否にしよう……」
 そうしている間に、別行動をとっていた契約者達が合流してくる。
 隊長に報告をと前へ出たオルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)だったが、夕夜 御影(ゆうや・みかげ)がその前へ割って入った。 
「ふっふっふ……
 このパラミタ最強の黒にゃんこが戻ってきたのを光栄に思うがいいにゃ」
「最強――どこら辺が?」
「勿論肉球のやっこさだにゃ!
 誰にもにゃーのやっこい肉球には勝ち目が無いのにゃ」
 背中に『どや』というオノマトペを背負いながらペチペチと叩いてくる肉球をアレクは掌でハイハイと受け止める。
 暫くそれをやっていると、御影は「あ」と何かを思い出し、アピールするようにアレクの前で跳ね出した。
「でも三食出してくれないと怒るにゃ。
 げきおこだにゃ
 ぷんぷんまるだにゃ」
「三食出る程長い時間イルミンスールに滞在するつもりは無いが……。参考迄に聞いておこう」
「金のスプーンがいいにゃ!
 出してくれないと額に肉球パンチを繰り出すにゃー!」
「わー、そりゃ怖いなー。金のスプーンでも銀のフォークでも何でも良いから出しておこう」
 再びぷにぷにパンチを受け止めているアレクの周囲を、オルフェリアと、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が囲んでいた。
 ルカルカは豊かな胸を反らしながら伸びをすると、心機一転といった雰囲気で両掌を胸の前で握った。
「エリザベートの依頼なら私も頑張らないとだね。
 エリザベートはルカの大切な友人なので心配事は解決してあげたいの。
 妹みたいに可愛いし、まだ11才なのに頑張ってるから助けてあげたいなって!
 妹を助けるのは正義じゃん? ね、アレク」
「あ、ああ? うん、そうだね」
 ゆさっと揺れた一部分に集中していた為、ルカルカの話しをアレクは全く聞いていなかった。
「校内は一通り見た。部下を何人か残して探索を続けさせておき俺達は地下に降りよう」
 ダリルの提案に、アレクは時間を確認している。その隣で、オルフェリアは俯いていた顔を上げてアレクを見た。
「むー……オルフェは納得出来ないのです
 アレクさんはジゼルさんのお兄さんなのですよね?
 じゃあ、やっぱり助けに行かないとだめですよ」
 またその話しかとアレクが眉を顰めると、意見を否定されたと思ったのか、オルフェリアは頬を膨らませる。
「家族って、凄く大切だと思うですよ?
 えっと、オルフェは小さい頃、お父さんもお母さんも死んじゃったですが……
 アレクさんの家族は生きて、今一緒に居るんだから……やっぱり助けに行かなきゃだと思うです。
 そりゃ、オルフェだって……ちゃんと理由があってそう言ったのもなんとなく判るですが……そうじゃなくて」
 言い淀みながらも、オルフェリアは懸命に続ける。
「法律とか、規律とか、そういうお約束事は、大切な人を守る為に存在するです。
 だから、大切なモノを見失いそうになった時に、枷になるようでは……駄目だと思うですよ。
 大丈夫です! オルフェがどーんとアレクさんの味方をするのです♪ 正義のヒーローです♪
 だからアレクさんは安心して、ジゼルさん助けに行って大丈夫ですよ♪
 大穴が空いた気で居て下さいなのです!」
 胸を張り更にえっへんとそこを叩いたオルフェリアの仕草に、アレクはまた偉くサービスするなぁと思いながら頷いていた。
「分かった。その胸……じゃなかった心意気に免じて地下へ行こう。
 その前に一旦休憩」
「分かってくれたですね!
 ふっふっふ、オルフェはこれからアレクさんのハンギャクノトなのですよ♪」
 自分でも分かっていない言葉を言いながら、オルフェリアはうきうきと離れて行った。
 残されたアレクの所へ、熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)八雲 尊(やぐも・たける)と共に行動していた天禰 薫(あまね・かおる)がやってくる。
「アレクさん、良かったら我と一緒にあっちで休憩を……」
 頷いたアレクは、彼女をエスコートして席に着くとテーブルの上につっぷした。
「お疲れなのだ?」
「ある意味。シスコンキャラが妹に固執していないとどういう目に遭うのかよく分かった」
「それは……んと……きっと皆、アレクさんの事を心配してるのだ」
 薫の言葉に、アレクはキョトンとしている。本気で意味が分かっていないのだ。
「……ねえねえアレクさん、その……もしもの話なのだ。
 もし、悩み事や、困った事があったら、我に話して?
 我、お話いっぱい聞くし……何かあれば、お手伝いしたいのだ。
 我たち、出会い方は変だったけど……あれから、我としては、アレクさんと仲良くなれた気がするから……力になりたいのだ」
 アレクが考高の方へを見るとむつっとした顔を見せられるだけで理解が追いつかないが、尊の方は溜め息を吐いて言葉足らずの薫の説明をしてくれた。
「……おいアレク、薫の気持ち、1ミリでもいいからわかってやれよ?
 こいつ、てめーの事を心配しているみてーなんだ。
 てめーが何を考えてんのか俺にはちっともわかんねーけど、これだけは言っておくぜ」
「薫ちゃんは……優しいな。
 俺たまに思うよ。貴女みたいな人達と居ると、もっと前、10年くらい前に会ってたら良かったって――」
 アレクの言葉に今度は薫たちが首を傾げる番だった。ただアレクはそれきり何も言わなくなってしまったので、話の意味は理解出来ないままだったが――。