リアクション
一行が種もみの塔に着くと、姫宮 和希(ひめみや・かずき)を始め数人が待ち構えていた。 ☆ ☆ ☆ 岩と砂だけの荒野で葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が董卓 仲穎(とうたく・ちゅうえい)を見つけた時、彼はアルミラージと取っ組み合いをしていた。 「テメェ、しつけーんだよ、このデブが! 失せろ! その無駄な肉を大地に還せ!」 自分を捕食しようしている董卓を口汚く罵っているのがアルミラージだ。 金色の体毛は神々しさを感じさせるが、口の悪さで台無しにしている。 対して董卓はそんな罵倒など聞いていない。 「一口でいいんだよぉ〜。そのぷりぷりした腿のあたりの肉をくれよぉ〜」 「何がいいんだかさっぱりわからねぇよ!」 「代わりに敦の肉をやるからよぅ〜」 「パートナーじゃねぇのかよ! しかもいらねーし、あんなひょろい奴!」 言い合いながらも拳を振るい、角を突出しと大暴れである。 吹雪は何とかして話しかける隙を覗っていたが、やがて待っていては埒が明かないことがわかった。 なので、思い切って駆け寄ると董卓の背に飛びついた。そして肩までよじ登る。 「と、董卓さんでありますかな?」 激しく揺れる董卓の肩の上で、吹雪は舌を噛まないようにしながら声をかけた。 この時、董卓はようやく吹雪の存在に気がついた。 「お? お前は何者だぁ〜? 俺様は今、とっても忙しいぞぉ〜」 「自分は葛城吹雪という者であります。董卓さんがアルミラージを追っていると聞き、探しておりました」 自己紹介の直後、アルミラージの角がすぐ頭上を掠めた。 伏せていなければ頭がぶっ飛んでいただろう。 「実は、自分もアルミラージを追っていたのであります。彼奴の肉は直火焼きして、塩だけでがぶりと齧り付くのがおいしいと思うであります」 「素材の味をそのままにだなぁ〜。うん、うまそうだぁ〜。俺様が仕留めるから、吹雪は焼くといいぞぉ〜」 「楽しみであります!」 董卓の頭からは、もはや腿のあたりを一口、という言葉は消し飛んでいた。 吹雪に少しと、後は全部自分が食べる気満々である。 肉を焼いてくれる人が現れたのだから、当然なのだが。 「おとなしく、食べられろぉ〜!」 ますます攻撃を激しくする董卓。アルミラージも負けていない。 吹雪は振り落とされないように、またアルミラージにやられないように、必死にしがみついていた。 その頃契約の泉では、アルミラージに対抗するために魔女会議が開かれていた。 主催者はエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)。 集まった魔女達を見渡し、エリシアは率直に考えを述べた。 「死なない程度にぶちのめしたら、仲間にしてほしそうにこちらを見ている……という展開になるのではと思うのですけれど」 「確か、言い伝えでは優れた魔女が手懐けたのよね? 私、動物と仲良くする自信はあまりないけれど、椿に期待されちゃやるしかないわね」 と、緋月・西園(ひづき・にしぞの)は泉 椿(いずみ・つばき)を見て微 笑む。 「あたしは虹キリンの護衛につくけど、何かあったら手伝うよ」 魔女達を助けようと考えているのは椿だけではない。 御神楽 舞花(みかぐら・まいか)もエリシア達のために準備をしてきている。 舞花は手帳を見せて言う。そこに書いたことはすでに暗記している。 「アルミラージは雑食性。人間が食べるものはアルミラージも食べると思っていいようです。体が大きい分、食べる量もそうとうだそうです」 「何やら董卓に似ておるな」 ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)の指摘に頷く一同。 「私、アルミラージ用のお団子を作ろうと思っています」 「餌付けか?」 「そうですね。仮にうまくいかなくても、気をそらすことはできるでしょう?」 「では、わしもギャザリングヘクスをこしらえてみようかの」 「ええ。お願いします」 「それならワタシ、トラップ仕掛けるヨ。エサにつられてやって来たアルミラージを引っかけてやるネ」 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)の頭の上で『罠作りのススメ』のページをぺらぺらとめくるアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)。 「罠を作るなら俺も手を貸すよ」 と、酒杜 陽一(さかもり・よういち)も参加を示した。 それから、細かな作戦とアルミラージと董卓を引き離すための人員も決まり、それぞれは実行に移すことになった。 椿と同様に虹キリンの守りにあたるつもりでいる早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、一言も話さない虹キリンに疑問を抱きつつも、契約の泉に広がる森へ導いた。 虹キリンはこちらの言っていることは理解しているようだった。 「虹キリンは、しゃべるんだよな?」 呼雪は椿に聞いた。 「ああ。見た目のわりにあんまりかわいい声じゃなかった気がするけどな」 「話さなくなった原因は……」 椿は苦笑して肩をすくめた。 「しばらく会ってなかったからな、さっぱりだ。ところで、こいつはここに隠すんだろ? どの辺がいいかな」 「この辺でいいだろう。これで、辺りを塗り替える」 これ、と呼雪が手にしたのは背に担いでいた身の丈ほどの筆。 「先ほど会議をしていた森の入り口から、できるかぎり虹キリン色にする」 「木を隠すなら森ってやつだな。こいつの模様じゃどこにいても目立つもんな。周りを変えるしかねぇか」 虹キリンを撫でながら椿は笑った。 呼雪が幻妖の筆で木を撫でると、虹キリンの模様にスッと塗られていく。 「カラフルな森になるなぁ」 椿はおもしろそうに呼雪の筆の動きを見ていた。 「万が一、ここからもっと逃げなくちゃならなくなっても、僕にも策があるから何とかなるよ」 椿の反対側からやさしく声をかけるのはヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)だ。 しかし、それよりもヘルは虹キリンの事情が気になって仕方なかった。 ヘルはテレパシーで話しかけてみた。 『ねぇ、僕の声聞こえるー?』 ぴくりと虹キリンの耳が跳ねる。 『君のこと、聞きたいんだけどいいかな?』 『……』 『何があってここに来たの? 乙王朝で何かあったの?』 虹キリンは明らかに挙動不審になった。 あちこちに視線をさまよわせ、フンフンと鼻を鳴らしている。 「動揺してんのか? ヘル、こいつに何かしたのか?」 「テレパシーで話しかけてみただけだよ」 「テレパシーにびっくりしたにしちゃ変だよな。なぁ、もっと話しかけてみろよ」 ヘルは虹キリンの正面に立つと、再度テレパシーを向けた。 『僕達は君の力になりたいんだよ。困ってるなら遠慮しないで言ってみてよ』 『お……ぬ……』 初めて虹キリンが反応した。 かと思うと虹キリンは首から頭のてっぺんまで真っ赤になり、 「うおぇぁぁぁぁああああ!」 突如、叫び声をあげて駆けだしてしまった。 「あっ、待って!」 「何だ、怒った? おい、何を言ったんだ!?」 「困ってるなら力になるって言っただけだよ。それに、怒ったって言うよりは……」 「とにかく追うぞ!」 ヘルと椿は虹キリンが駆けて行った森の中へ走り出す。 呼雪も幻妖の筆をいったん収め、二人を追いかけた。 |
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