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種もみ学院~迷子は瑞兆?

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種もみ学院~迷子は瑞兆?

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合戦シーンの撮り方


 虹キリン捜索の協力として、種もみの塔を一階から案内することになり、夏侯 淵(かこう・えん)は張り切っていた。
「まさか殿にお会いできるとは思ってもみませんでした。えれべぇたぁはごさいませぬゆえ、途中休憩も挟みつつ参りましょう。劉備殿も孫権殿もそれでよろしいか?」
 二人が頷くと、夏侯淵は曹操の隣を陣取ったまま歩き出す。
 今は6階だ。
 種もみを片手に戦う男達の壁画は今も残っている。
 ここで荒々しくバカバカしい戦いの数々を経験した者達は、それぞれ当時のことを思い出した。
「ここに虹キリンはおらぬようですね。殿、上に参りましょう」
 夏侯淵の先導で一行は7階へ。
 階段を上りながら夏侯淵は7階に何があったか思い出していた。
「殿、7階はおでんの屋台があります。腹ごしらえなどしていかれますか?」
「そうだな。60階まで先は長い。うむ、いい香りがしてきたな」
 曹操の言う通り、食欲をそそるおでんの匂いが漂ってきた。
 階段を上り切ると、モヒカンのおっさんが屋台越しにニカッと笑いかけてきた。
「いらっしゃい! お、団体さんだね! 観光かい?」
 曹操はついでに虹キリンのことを聞いてみた。
「虹キリンねぇ……この階では見なかったなぁ」
「そうか」
「ま、てっぺんまでまだまだあるんだ。きっといるさ!」
 モヒカンのおっさんは調子良く言うと、注文を聞いていった。
 あたたかいおでんに舌鼓を打った後、彼らは虹キリン捜索を再開した。


 塔の外に締め出されたパラ実軍団はというと。
 諦めて解散するどころかますますいきり立っていた。
 それはシリウスとリーブラに軽くいなされたからというのではなく、彼らを集めたジンベーが煽っていたからだ。
「種もみの奴ら、英霊達をたぶらかしやがった! いや、英霊達が俺達を騙して塔のお宝をよこさねぇつもりかもしれねぇ。どっちにしろ、俺らはコケにされたんだ!」
「何だと? そいつは納得いかねぇなぁ。学府の申し入れってんなら、まあ仕方ねぇとも思ったがよ」
「こんな扉、爆破してやるぜ」
 単純な彼らは、ジンベーの言葉にあっさり傾いてしまった。
 その様子を塔の陰から見ていた国頭 武尊(くにがみ・たける)の口からため息がもれる。
「こうなると思った……。又吉」
「撮ってるぜ」
 相棒にしてC級四天王の猫井 又吉(ねこい・またきち)が間髪入れずに応じる。
 彼の手には謎のビデオカメラがあった。
 ここには、英霊達が訪れたところからの様子が記録されている。
「先にあいつらの相手するか。できればこっちには来させたくないな」
 武尊が振り向いた先には、種もみじいさんと共に耕した畑がある。その頃に植えた野菜はすでに収穫され、次に植えられた野菜が小さな芽を出していた。
 英霊達が武力に訴えることなく、虹キリンの捜索だけを目的にしたこともよかった。
「つまり、暴れようとしてるあいつらは乙王朝とは関係ねぇ、と。ミツエと揉めると面倒だからな」
 武尊は視線をパラ実生達に戻すと、今にも扉を打ち壊さんとする彼らの前に、ポイントシフトで移動した。
 突然目の前に人が現れ、パラ実生達は驚きのけぞる。
「お前は、種もみの総長……!」
「ここを通すわけにはいかねぇ」
 武尊が大きく腕を薙ぐと衝撃波が生まれ、前方のパラ実生達を吹き飛ばす。
 すると、武尊が背にしていた塔の扉が開き、中からカンゾーが集めたパラ実生達が雪崩出てきた。
「え!? ちょっと君達──」
「総長に続けぇ!」
 武尊が止める間もなく乱闘が始まった。
 武尊は慌てて一人を捕まえ、カンゾーの指示なのか聞いた。
 すると彼は、親指を立てて爽やかな笑顔で言った。
「カンゾーさんには何も言ってねぇ。俺らで決めたことだ。それに、総長一人に戦わせて黙って見てるなんて、腰抜けのすることだぜ」
「いや、本当は総長がいてくれてスゲェ助かったんだけどな!」
 別の一人が混ぜっ返して戦いに飛び込んでいった。
 武尊が掴んでいた手を緩めると、彼も走っていく。
「しょーがねぇな! ボッコボコにしてやれ!」
 武尊もすぐに参戦すると、今だ転がっている敵パラ実生の足をかかえ、ぐるんぐるんと回転を始めた。
 敵パラ実生は即席の武器となり、当たった連中をなぎ倒していく。
「ぼべべべべべっ」
 変な声があがったが気にしない。
 武尊は適当なところで彼を放り投げた。
 ごろごろと地面を転がった彼は、何か固いものに当たって止まった。
「うぅ、イテテ……ヒィッ」
 岩にでもぶつかったかと思っていた彼は、見上げた先の異形に真っ青になった。
「こういうの、困るんだよねぇ」
 クフフ……と不気味に笑う魔鎧──ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)
 逃げようと後ずさるパラ実生を掴むと、ブルタはタイムコントロールで彼の時間を巻き戻していく。
 パラ実生の体はみるみる小さくなっていき、七、八歳ほどの姿になった。
「うわわわっ、何を……っ」
「グフフ、意外と美少年だったんだね。大きくなったら崩れちゃったみたいだけど。でも、今のキミならいい値段がつきそうだよ」
「ヒィ〜!」
 すっかり血の気が引いた顔の少年に、ブルタの残酷な笑い声が降り注いだ。
 と、そこに敵パラ実生にヘッドロックをかけた武尊がいつの間にか来ていた。
「高く売れたら、その金はどうするんだ?」
「契約の泉の復興費用に充てるよ」
「そうか。あそこもまだまだ軌道に乗ったとは言えないからな」
「ミツエとやり合うのは意味がないしね」
 そうだな、と武尊も頷く。
 乙王朝には、エリュシオン帝国の第二龍騎士団の龍騎士イリアス以下二千名以上の龍騎士団が今も身を寄せている。さらにミツエは現在も人材集めを続けており、仕官を希望する者は数多くいるという。
「そんな相手が本気で攻めてきたら、契約の泉なんて一瞬で焦土だよ」
「ミツエはこの騒ぎを知らないらしいんだ。ま、その辺はこいつらをのしたら話してみるけどな」
「そういえば、さっき扉を爆破するとか言ってたね。そんな輩は踏み潰しちゃおう」
 ブルタがヒロイックアサルトを発動させてどこかに合図を送ると、戦闘音ではない轟音が響いてきた。
 敵味方問わずパラ実生がどよめく。
「あれは……象!?」
「すげー勢いでこっち来るぞ!」
 言ってる傍からハンニバルの戦象の突進から逃げ損ねたパラ実生が踏み潰されていった。
「危ない物は没収!」
 高く両手を掲げマグネティックフィールドを張ると、ブルタの頭上にパラ実生が手にしていた鉄パイプやナイフ、銃器類が集まってきた。
「ぎゃー! 携帯が!」
「秘蔵の画像が!」
 中にはこんな被害もあった。
「できればジンベーみたいな厄介者は乙王朝にでも放り込んでしまいたいね。そこでクーデターでも起こしてくれればいいよ」
「ククッ。そんなことになったらミツエはたまんねぇな。──おい、あの象こっち来るぞ」
 二人はあたふたと避難した。

 武尊がショックウェーブで塔の扉前のパラ実生を吹き飛ばした時から、ブルタのハンニバルの戦象が大暴れしている現在まで、種もみの塔4階には撮影機器を担いだスタッフ達が真剣な表情で練習に励んでいた。
 一時は英霊達が平和的な行動をとったとめにこの練習計画はなくなってしまうかと思われたが、残されたパラ実生が暴れ出し学院側のパラ実生も参戦したため、急いでここに来たのだった。
 途中、虹キリン探しをしている英霊達とすれ違った。
 この場を指揮する織田 信長(おだ・のぶなが)は言いたいこともあったが、計画のほうを優先した。
 4階に陣取ったのは、カリフォルニアの夢の国で映画のエキストラをしていた不法移民達である。彼らの中で撮影技術のある者達を連れて、ここで合戦シーンの撮り方を研究するというわけだ。
 言い出したのは南 鮪(みなみ・まぐろ)である。
 彼は契約できたスタッフを連れて、戦いの様子を間近で撮るため外に行っている。
「まずは自分が良いと思うように撮ってみよ。後で皆でそれらを批評する。そうすることで全体のレベルを上げていくのだ」
 深紅のビロードマントを翻して指示する信長。
 彼が発する威厳に、その場の空気が引き締まる。
 ここには契約者ではない者達がいる。何もないとは思うが、万が一危険物が飛んできた時には信長が守ることになる。
「ここの窓は大きい。どの場所を選ぶか、どちら側の視点から撮るか、自分なりに考えよ。撮影中、目を引く人物がいるかもしれない。わしに教えよ。後でスカウトに行く」
 新人カメラマン達は信長の言葉を真剣に聞き、動いた。
「信長さーん、ジーザスさんがすんげー目立つんですけどー」
「目立たせておけ。だが、あれでもオフだ。騒ぐな」
「天性ってやつっスね」
 感心した新人カメラマンは、乱闘の中をエレキギターを弾きながら歩くジーザス・クライスト(じーざす・くらいすと)に注目しつつも群衆に収めようと工夫した。
 そのジーザスは、幸せの歌を口ずさみながら足取りも軽やかに戦場を歩いていた。
 さながら殺伐とした世に愛を運ぶ聖人──。
「何をのん気に歌ってやがる! その髪切ってやろうかァ!?」
 一人のパラ実生が枝切り鋏を鳴らして襲いかかってきた。
 とたん、幸せの歌は転調し、聖詩篇へと変わる。
 ジーザスが紡ぐ言葉は力ある文字となり、文字は枝切り鋏のパラ実生を弾いた。
 やがて文字はジーザスを取り巻き、契約者でもないパラ実生は指一本触れることができなくなった。
「枝切り鋏の君、己の行いを顧みなさい。お前の明日は、その先にあるだろう」
 枝切り鋏のパラ実生は、自分を見下ろすジーザスがかけている虹のサングラスが反射させた陽光に目を眇めた。
 しかし、彼は眩しさよりもジーザスに神秘的なものを感じて、ただ見上げていた。
 ジーザスは枝切り鋏のパラ実生に微笑むと、再び幸せの歌を口ずさみ始めた。
 枝切り鋏のパラ実生の心が穏やかに凪いでいく。
 その奇跡の様子は、鮪が率いてきた新人カメラマンにしっかり撮られていた。
 優雅な足取りで戦場を歩きながらジーザスは思う。
「今はオフなんだが……。あのモヒカンはまったくしようのない奴だ。まあこれも、やがて来る主演のためか」
 あのモヒカンとは鮪のことだ。
 彼は今回のカメラマンの練習計画にジーザスも巻き込んでいた。
 大人数のシーンでもしっかり動ければ、いざ主演俳優として出演する時に役に立つからと押し切られてしまったのだ。
 鮪の言い分にも一理あるため、ジーザスもここに来たというわけだった。
 オフだの何だの言いながらも真面目に取り組んでいるジーザスに、鮪も満足していた。
「まさかこんな大人数の、しかも合戦シーンに会えるなんてラッキーだよなァ。これはもう俺に映画を作れと言ってるに違いないぜェ〜」
 鮪が率いてきたのは契約者達だが、まだまだ戦いには不慣れである。そのため彼が護衛についていた。
 新人カメラマン達もパラミタ種族と契約をするとどのようになるかは知っていたが、実感は持てていない。
 しかも、目の前の戦闘は演技ではなく本気なのだ。鉄パイプも角材も、当たっているように見えるのではなく、本当に当たっている。倒れた彼らの気絶もフリではない。
 新人カメラマン達はちょっと怖気づいていた。
「ビビるなよォ。これは大事な練習だぜェ〜。なぁに、やべェのが来たら俺が消毒してやるから安心しなァ! いい映画作ろうぜェ〜!」
 鮪の励ましに応えようと、新人カメラマン達は自身に活を入れた。
 一人の新人カメラマンが、ジーザスとは違う意味で目立つ存在を見つけた。
 彼に焦点をあてて撮ろうとした時、何者かに撮影用カメラを掴まれた。
「俺も撮れよぉ〜。ん? まさか、できねぇなんて言わねぇよなぁ」
 物凄い目ヂカラに新人が怯む。
 確かに彼もある意味目立つが、新人カメラマンは撮りたいとは思わない。
 撮りたくないものを撮るのは、鮪が言った『いい映画作り』には沿わないと判断した彼は、震える声を叱咤して拒否を告げた。
 直後、カメラを掴んでいたパラ実生が炎に包まれる。
「大事なカメラに汚ねぇ手で触んなよォ〜!」
 鮪のドワーフの火炎放射器だった。
 あちぃ! と叫びながらパラ実生は逃げていった。
「ヒャッハァ〜! 邪魔者は消えたぜェ! さぁ、目をつけた奴を撮りに行け!」
「あなたのことも撮っていいっスか!?」
 新人カメラマンはきらきらした目で鮪を見ていた。
 鮪、俳優デビューか……!?