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流せ! そうめんとか!

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流せ! そうめんとか!

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3.落ちる!

 こちらは、人と罪を滝に流す罪流し懺悔会場。
「うわあ……」
「思ったより高いね……」
 罪を滝に流そうと集まった面々は、滝壺を覗きこんで二の足を踏んでいた。
 そんな中。
「滝壺ダイブ、楽しそう!」
 元気よく飛び出したのは、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)
 相も変わらずパートナーの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はお留守番なので、今日も一人遊びに来ました!
「雅羅ちゃん、陽菜都ちゃん、見ててね!」
 開拓精神と幸運のおまじないを胸に、崖のギリギリまで進む。
「……うーん」
 そして、ほんの僅か躊躇する。
「ノーンちゃん? 怖かったら止めてもいいのよ?」
「あ、ううん、違うの」
 見かねたサニーが口を挟むと、ノーンはふるふると首を振る。
 滝は、よくよく見ると水しぶきだけではない煙がもうもうと立ち上っている。
 湯気。
 温泉が混じった滝はほどよく温かくなっていて……
「わたし、熱いお湯は苦手なの……よし!」
 ノーンは目を瞑る。
 ひゅぅうと冷たい風が吹き、みるみるうちに氷やブリザードが呼び出される。
 更に妖刀【時雨】を振り回すと、ちらちらと雪まで舞ってくる。
「ひゃぁあああ!」
「うぅう」
「さ、寒うっ」
 周囲の水着を着た面々は、寒さで縮こまっていく。
「これで、よしっ!」
 お供のクラーケン娘。を抱きしめ、ノーンは滝壺へダイブ!
「ていっ!」
 ざざざざざ……ざっぱーん!
 罪流し第一号!
 ノーンには、特に流す罪の心当たりはなかったようだが……
「ひゃぁあああ、気持いいーっ!」
 滝壺に沈んだノーンは、すぐぷはっと顔を出し、元気に川上の人達に手を振ってみせる。
「とっても爽快で楽しかったよ! みんなも飛び込みにおいでよーっ!」
 その周囲には、クラーケン娘。と、ぷかりぷかりと浮かぶ氷……
「……も、もうちょっと温度があがったらね」
 冷たい滝の水が流れきって、再び温泉になるまでしばらくかかった。

   ◇◇◇

「みんなは、流しそうめんがどんなものか知らなかったでしょ。流しそうめんには、こんな一面もあるんだよ!」
 自信満々に流しそうめん知識を披露するのは、神月 摩耶(こうづき・まや)
「こうやって高い所から……そうそう、水着は大事。露出度が高い程いいんだよ!」
「なるほど……っ!」
 それを聞いた衣草 椋(きぬぐさ・りょう)が、動く。
 目当ての人物を探し、きょろきょろと周囲を見回す。
「いた……!」
 椋が探していたのは、遠山 陽菜都(とおやま・ひなつ)
「いい、陽菜都。ウェザーのイベントの先輩として、忠告しておくことがあるの!」
「忠告?」
 目当ての陽菜都は、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と何やら話しこんでいるようだ。
「ウェザーのイベントを、甘く見ちゃ駄目! 何事もなく無事に終るとは、とても思えないんだから……!」
「あ、あまく見ちゃ駄目?」
 楽しいイベントに対してあまりにも真剣な美羽の口調に、陽菜都は僅かに当惑する。
「ただの流しそうめん……よね?」
 滝に飛び込む時点で、既にただの、ではないのだが。
「とにかく、注意するに越したことないの」
 美羽はといえば、イベント初心者の陽菜都のことが心配で仕方ない様子。
 よく見れば、少し離れた木陰からコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)も見守っている。
(何かあったら、すぐ助けなくちゃ……!)
「何やってるんだ、陽菜都。罪流しに参加するんだろ」
 戸惑う陽菜都の手を取ったのは、椋。
 学校は違うが同じ新入生同士、どこか親しみを感じているのだろう。
 椋は陽菜都を引っ張り、滝まで連れて行く。
「あ、陽菜都……!」
 美羽は、慌てて追いかける。

 滝の脇では、いまだ摩耶が『流しそうめん』の説明をしていた。
 やはり滝に飛び込む時点で『流しそうめん』と言うのか悩むところなのだが、そんな事は一切気にせず摩耶は間違った説明を続けていた。
「――じゃあ、いよいよ飛び込み方のレクチャーだよ。いい、水面に対して垂直に、こうやってどぼーん! と!」
「よし、いくぞ陽菜都! それ、どぼーん!」
 摩耶の説明を受け、椋が陽菜都をたたき落とした!
 陽菜都が落ちる!
 その時、いくつかの事が同時に起こった。
 バランスを崩した椋が、足を滑らせ落ちた。
 運悪くその場にいた雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)も、巻き添えをくらって落ちた。
「え……きゃぁああああ!?」
「あ、うわぁあああ!?」
「いやぁあああああ!!」
 くんずほぐれつしながら落ちて行く3人。
 どどどどど……だぼーん!
 みっつの水しぶきがあがった。
「……ってやると水着が脱げちゃうけど、気にしないでね」
「えええっ!? ひ……陽菜都ぉーっ!」
 てへ☆と舌を出す摩耶。
 美羽は、慌てて後を追って飛び降りる。
 滝壺に陽菜都を見つけた美羽は、手をいっぱいに伸ばす。
 指先に、柔らかい物が触れた。
(陽菜都?)
 だがその柔らかい物は、くにゃりとありえない様子で曲がり、陽菜都に絡みつく。
(え。これは――これは、何?)
 気が付けば、陽菜都の足に、腕に胴体に柔らかく細い物は絡みついていた。
「きゃ……!?」
(あああ、やっぱりぃい!)
 陽菜都に絡んだパラミタソーメンコウソクヘビを引きはがすべく、美羽は陽菜都の身体にまとわりつく紐状のものを引っ張った!
 ぶちぶちぶち……
「あ、せ、先輩、それはっ……」
「陽菜都ーっ! 大丈夫かーっ!」
 そこに折悪く、陽菜都と美羽を心配したコハクが飛び込んできた。
「あ、いやぁああああ……ごめんなさいごめんなさいっ!」
 男性の乱入に驚いた陽菜都が、思わずコハクに鉄拳を振るう。
 ぶちぶちぶち……ぶっちーん!
「ごふ……っ」
「え……きゃああああっ!」
 鉄拳と共に、陽菜都の悲鳴が水中に轟く。
 そう、美羽がひっぱった紐状のものは、陽菜都の水着だった。
 ひっぱられてほつれた水着が、殴った勢いで破れて取れてしまったのだ。
(み……見てない! 見えてない!!)
 殴り飛ばされながらも必死で目を覆うコハク。
 水中は既に混乱の体を見せていた。
「た、大変っ! サァンダー……」
「待て、あそこは水中だ」
「あ、そっか」
 友人たちのピンチにルカルカ・ルー(るかるか・るー)は色を失い、慌ててヘビを退治するため電撃を放とうとする。
 が、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に窘められ落ち着きを取り戻す。
「なら、これで……っ!」
 ルカルカは水中に飛び込むと、溺れる陽菜都たちを次々にペトリファイで石化させていく。
「って何を!?」
「後で治すから、大丈夫っ!」
 驚く美羽にそう答え、石になった陽菜都たちを水から引き上げる。
 美羽とコハクも慌てて力を合わせ、石になった雅羅たちを引き上げたのだった。

「滝の様子が、変ね」
 その様子を見ていたサニーが首を傾げる。
 変も何も、滝壺には明らかに怪しげなヘビが泳ぎまわっている。
「どうする? イベント、中止に――」
「ううん」
 言いかけた美羽に、大きく首を振るサニー。
「こんなことで諦めちゃ、駄目! イベントは、流しそうめんは決行するわ!」
「だったらルカも手伝うよ!」
 宣言するサニーに、ルカルカが鼓舞するように片手を上げる。
「大丈夫、何事も起こらないようにするから!」

   ◇◇◇

 その頃。
 彼女たちからは死角となっている別の滝で、レグルス・レオンハート(れぐるす・れおんはーと)は一人沈んでいた。
 彼は、一人懺悔しようとしていた。
(すまない……俺は、なんてことをしてしまったんだ)
 罪を胸に、覚悟を決めて飛び込んだ。
(冷蔵庫の中にあったケーキを食べたのは……俺だ!)
 だだだだ……だぶーん!
 滝壺で水にまかれ、レグルスは自らの罪が浄化されていくのを感じていた。
(ああ……いい気持ちだ)
(なんて、いい気持ちなんだ……)
(いい……い!?)
 レグルスの感覚を刺激するのは、精神的快楽のみではなかった。
 はっきりとした、肉体的快楽。
 そしてそれを与えているのは……
(そうめん……いや、ヘビ!?)
 そう。
 パラミタソーメンコウソクヘビが、レグルスの身体を這いまわっていた。
 それは、相手がどのような存在か確認しようとしているのか、拘束するほどの強さではない。
 まるで、弄ぶかのような繊細な動き。
 そしてレグルスの超感覚は、異様な程鋭敏にそれを感知してしまい……
「あ」
 声を出したのがいけなかったのだろうか。
 ヘビは、一度動きを止める。
 そして次の瞬間、激しく動き出した。
「あ、ぁあああああああーっ!」
 彼の悲鳴に、いや嬌声に気付く者は誰もいなかった。

 滝に流された者たちは、次々と、落ちる――いや、堕ちていく。