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調薬探求会との取引

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調薬探求会との取引

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第一章 素材採取

 宿前。

「さぁ、行くさねー。シンちゃんが必要としているという事は例のレシピ関連さ。つまりあたし達が手伝っておいて損はないという事さー」
 マリナレーゼ・ライト(まりなれーぜ・らいと)が連れて来た人手に言い放った。
「……というか、あの手紙の内容を確認するために来たはずなんだが」
 手紙の内容を目的に来たベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)がマリナレーゼに言葉を挟んだ。
「あの上映会……いいえ採取が先ですね」
 上映会で見た謎映像が気になる忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は天敵であるベルクと同じである事に気付くなり意見を翻した。
「手紙については心配無いさね。他のみんなが聞き出しているさ。あたし達は探求会メンバーとの交流を深める事に勤しむのさよ。そうすれば必然的に関連情報が入手しやすくなるさね。ってな事で働くさねよ?」
 マリナレーゼの指示の奥には、調薬探求会にも恩を売っておく事で調薬友愛会との繋がりを深めるキッカケを作るという両調薬会の関係復旧を目指す事であった。
「手紙も情報云々もマリナ姉の言う通りだが……」
 ベルクはマリナレーゼの言葉には賛同出来るものの看過出来ない事もちらり。
 それを言葉にしようとするのを遮って
「マスター、頑張りましょう! 沢山素材を持ち帰り、シンリさんにエリザベート校長先生、グラキエスさん達の力になりましょう! マリナさん危険な山故に有事の際は必ずや私がお護り致します」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の元気な声が遮った。皆のためにとやる気に満ちてはいるが、ベルクが危惧する危険性など気付いていないマイペースっ子。
「……フレイ」
 フレンディスの脳天気さに重いため息を吐き出すベルク。仕事をする前にすでに精神がお疲れ状態。
「マスター、どうかしましたか? 折角シンリさん達にも再会しましたのに元気がありませんが……もしや先に素材探しに山へ行ってしまわれた黒亜さんやクオンさん達の事がご心配なのでしょうか!?」
 お疲れのベルクに気付くフレンディスは優しく気遣うも少し逸れている。
「いや、それ違……」
 ベルクは、疲れた様子で否定しようとするもこれまた遮られてしまう。
「心配はありませぬ。私達が参る以上、彼らには危険な真似はさせません!!」
 ぐっとこぶしを握り締め、頼りにしてくれと凛々しさを見せるフレンディス。またもや逸れた気遣い。
「……あぁ、頼りにしている(クオンはともかく黒亜の突撃という時点で嫌な予感しかねぇ)」
 諦めたベルクは恋人の気遣いを有り難く受け取った。内心では危惧事項に胃痛を感じ溜息を吐き出していた。すっかり素材採取への参加を呑んだ苦労人。
「ポチもお願いしますね。ポチが得意とする探し物ですので頼りにしておりますよ?」
 フレンディスは笑顔でポチの助にお願い。
「お任せ下さい、ご主人様。この優秀な犬の頭脳と嗅覚にハイテク忍犬らしく端末を駆使してシンリさんが望む素材を探すのですよ」
 ポチの助は思いっきり胸を反らす。フレンディスに頼られたからには存分に力を振るうしかない。採取素材については『根回し』を有するマリナレーゼが予めシンリから情報を得てポチの助のノマドッグ・タブレットに記録しているので問題無い。
「……」
 ポチの助は獣人化してタブレットを使用して採取素材の所在調査を始めた。『コンピューター』を有するポチの助はすぐに見つけ出し、『記憶術』によって強化された脳内の引き出しにしっかりと押し込んでいく。採取中にいちいち確認していてははかどらないからだ。
 その間もマリナレーゼ達の話は続く。
「クオちゃんもいるけど黒ちゃんの動向はやっぱり心配さね。ベルちゃんも保護宜しくさね?」
 マリナレーゼはさらりと物騒な指令をベルクに下した。自身も黒亜については危険視していたようだ。
「いやいや、マリナ姉、それは無理過ぎだ。話が分かる奴ならまだしもあいつは……そもそもシンリの人選ミスにも程があるだろ。いや、ワザとかもしれねぇ」
 ベルクは即却下し、黒亜放置のシンリに溜息を洩らす。
「わざとかどうかはともかく慣れている感じさね。日常の一場面なのかもしれないさ」
 マリナレーゼの的確な言葉。前の鍋親睦会と今回の事を振り返り、大慌てする様子が無い事から導き出した答え。
「迷惑な一場面だな」
 ベルクはまた溜息をついた。
「ふふん、ご主人様、あの歩く危険物の方はこの僕が出るまでもありません。下等生物達(山へ行った皆)の働きに期待して素材採取に行きましょう」
 溜息のベルクを見てこれはアピールチャンスだとばかりに凛々しい表情のポチの助は山に向けて歩き始めた。頭にはしっかりと素材のおおよその場所が記憶され役に立つ事確実で自信満々。
「はい、行きましょう。ポチ、シーサーさん達に会えるかもしれませんよ。元気にしているといいですね」
 ポチの助に続くフレンディスは知り合いの妖怪について何気なしに話題にした。
「シーサー達の事は大丈夫なのですよ」
 足を止めずに答えるポチの助。本当は心配だったりするがフレンディスのお願いが最優先なので口にはしない。ただ、尻尾は少しだけ元気が無かったり。
「フレちゃん」
「おいおい、気を付けろよ」
 マリナレーゼとベルクが急いで後を追いかけた。

 山中。

 『ダークビジョン』で暗闇対策バッチリのポチの助が先頭を担当し、前衛をフレンディス、後衛をベルクが警戒し、商人マリナレーゼが二人の間を歩く。マリナレーゼは、戦闘は一切出来ないものの『野外活動』を有しているため問題無く採取に従事。

「ご主人様、発見しましたよ」
 『捜索』を有するポチの助は頭に叩き込んだ情報も使って早々に素材を発見した。
「ポチ、お手柄です」
 フレンディスは素材を確認するなり笑顔で思いっきりポチの助を褒めた。
「素材採取などこの僕にとって容易い事なのですよ」
 褒められたポチの助は尻尾を振りながら可愛いどや顔をするのだった。
「……この横に咲いている色鮮やかな植物も素材になるから回収するさね。採取リストには入っていないけど使えるから」
 『薬学』を持つマリナレーゼは深紅の花を咲かせる植物を摘み取った。コネ作りには気遣いも必要という事で。
 そこに
「きっと会長喜ぶよー」
 聞き覚えのある少年の声。
「その声はクオンか」
 真っ先に反応したのはベルクだった。
「うん。クオンだよ」
 クオンはあどけない笑顔を浮かべながら姿を現した。
「クオちゃんも採取をしているさね?」
「うん。ほら、たっぷりと。妖力すごいでしょー」
 マリナレーゼの問いかけにクオンは回収した大量の素材を見せる事で答えた。
「凄いですね。私達も頑張りますね」
 フレンディスは感心の声を上げつつますますやる気度アップ。
「一人で採取しているのか? 黒亜の方はどうなっているんだ?」
 ベルクは気掛かりな事を問いただした。
「一人で採取しているけど危なくないよ。だって、僕の作った薬があれば、危ない植物だって大丈夫だから。あと黒亜お姉ちゃんだけど、僕も捜してるけど見つかってない。みんなが捜してくれてるからすぐに見つかるはず」
 クオンは持参した魔法薬を見せながら素直に答えた。言動は子供でも立派な調薬探求会の一人。
「それでも危険な事はしてはいけませんよ。私達が精一杯採取しますので」
 フレンディスは心配の色を浮かべながら注意。
「ありがとー、お姉ちゃん」
 クオンはフレンディスの気遣いに嬉しそうに礼を言った。
「まだ見つかっていないのか。まぁ、発見次第どうなるかは知らないが」
 ベルクは発見後ただでは済まない事は確実だろうと軽く想像した。
「どんなに怒られても諦めないからみんな大変だと思うよ」
 クオンは肩をすくめながら溜息を吐いた。
「それは筋金入りさね。分かっていた事だけど」
 マリナレーゼは苦笑。以前会った時にクオンの言葉を身に感じているので。
「そうだよ。それじゃ、僕は素材集めと黒亜お姉ちゃん捜しに戻るよ」
 クオンは提灯を揺らしながら自分の作業に戻って行った。
「気を付けて下さいね」
 フレンディスはのんびりとクオンの姿が見えなくなるまで見送った。
 この後もフレンディス達は素材採取を続けた。安全に採取出来る物もあれば時には戦闘になる事もあったり。
「ポチ、場所はここですね?」
 フレンディスは襲い来る刃並に鋭い葉を避けながら背後のポチの訊ねる。
「そうですよ。このハイテク忍犬の僕に間違いはありません」
 ポチの助はしっかりと答えた。優秀な忍犬に間違いなど無いのだ。
「マリナ姉、攻撃して傷付けるが問題ねぇか?」
 『行動予測』で攻撃を回避し続けるベルクはマリナレーゼに素材の詳細を聞く。何せ薬学には明るくないので。
「素材は花の部分だからそれ以外への攻撃は大丈夫さね」
 マリナレーゼは的確に答え、戦闘をする二人の邪魔にならないように大人しく待機。
「素材は花部分、か」
 ベルクは『渾爆魔波』で襲う葉を片付けて回収。
「すぐに採取します」
 フレンディスは『分身の術』で植物を惑わしながら懐に入り『正中一閃突き』で茎と根を分断し行動不能にした。
「回収はあたしがするさね」
 マリナレーゼが仕上げに花部分を摘み取り採取完了。
 その後も採取を続け、途中ポチの助の心配事も解消し無事に仕事を終えて宿に戻る事が出来た。クオンの言葉通りリスト外の素材に喜ばれたという。