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リアクション
視点を戻すと。
「見つけましたわよ。あそこですわ」
エンヘドゥが煙突を指差します。サンタなのですから、煙突から侵入するのが義務だと思っているようでした。
「あそこはダメー。お風呂屋さんじゃない」
ルカルカは止めました。入り込んだらえらい事になります。
「普通の家には煙突はないのよ」
「そうなのですか」
ルカルカが説明すると、エンヘドゥはしょんぼりします。
「とりあえず私たちも目ぼしいところに入ってみましょう」
ルカルカとエンヘドゥは、いかにもルシアが好きそうな作りの家を見つけて降りていきます。
「鍵が掛かっていますわ」
「そりゃそうよ。私に任せておいて。……って、窓ガラス割っちゃダメー!」
ガラスにガムテープを張り始めたエンヘドゥをルカルカは全力で止めます。どこでそんな手口を覚えたのでしょうか。
「極西分校ですわ」
「エンヘドゥ、悪いことは言わないからもう帰ったほうがいいわ」
ルカルカは真顔で忠告しながらも、【黄金の鍵】を取り出してきました。こいつは凄いんです。たいていの鍵なら開けることが出来るのです。
カチャリと開錠して、ルカルカたちは家へと入り込みました。
「違うみたいね。家族連れだわ」
ルカルカは、眠っている子供を見つけると、【サイコメトリー】で関係深そうな物体の思念を読みます。どんな習慣でどんなものを欲しがっているのか、おおむねわかるのではないでしょうか。
「メリー・クリスマス。忍び込んでごめんね」
彼女は、枕元にプレゼントを置くと、エンヘドゥと一緒に家を出ました。戸締りもしっかりしておきます。
そこから先は、手当たり次第でした。
二人は、夜の街を飛びました。それらしい家をしらみつぶしに当たっていきます。
「ど、ドロボ」
「失礼」
気づかれそうになった時には、ルカルカは【ショック銃】で安眠さえてプレゼントを置いていきます。
エンヘドゥは、明らかに怪しい建物に入っていきます。
「ここは、鍵が開きませんわ」
「そんな時には、壁抜けよ」
スキルで内部に潜入し中から鍵を開けるのです。
「凄いですわ」
「サンタ免許に壁抜けは必須なのよ」
「そ、そうなんですか。初耳ですわ」
危うく信じそうになるエンヘドゥと笑いながら入っていって、ルカルカは顔を引きつらせます。地下室に、なんといいますか『核』のマークの入った円筒形の物体が鎮座しているではありませんか。
「これは、ミサイ」
途中まで言いかけたエンヘドゥの口をあわてて閉じて、ルカルカは全力ダッシュで逃げ出します。もちろん教導団への報告はしておきましたが。
そして、ついに二人の別れのときがやってきたのです。
「『空京地下秘密結社・ホワイトリボン軍』の基地へようこそ、ルカルカ・ルー少佐。われわれの存在を知られたからには生かして返さん」
どうやら、秘密組織の基地に潜り込んでしまったらしく、軍隊が続々と集まってきます。
「先に行っていて、エンヘドゥ。ルシアの部屋で合流よ」
上等! とルカルカは戦いを挑みます。クリスマスの夜にこんな連中を野放しにはして置けません。
エンヘドゥは、ルカルカを置いて逃げるのを躊躇っていましたが、強引に追い返されて去っていきました。その背後で激しい戦闘が起こります。
「どうしましょうか」
街中へ逃げ出したエンヘドゥは、途方にくれます。
「こっちよ、エンヘドゥちゃん」
少し離れたところで待っていたのは、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)でした。
彼女もまた【サンタのトナカイ】を用意して、プレゼントを配る手伝いをしてくれるそうです。
「ありがとうございます。お願いしますわ」
エンヘドゥは躊躇うことなくソリに乗り込んで来ました。今度は、ノーンとのコンビでプレゼント配達です。
「ルシアの家を知らないのです」
「大丈夫よ。ワタシなら知ってるから」
ノーンはニッコリ微笑むと、【サンタのトナカイ】の進路を取りました。
散々遠回りしましたが、やっと目的地へと辿り着けそうです。エンヘドゥは、ほっと胸をなでおろしていました。
街の光を眺めながら、ノーンとエンヘドゥはしばし空の旅を楽しみます。
「あそこよ」
ルシアの部屋を見つけて、ノーンは【サンタのトナカイ】を降下させました。そこは、家ではなくクラッシックな作りのアパートです。ルシアは、空京ではアパートを借りて、質素に暮らしているようでした。
アパートに入るなり、ノーンの目がキュピーンと光りました。
「オオゥ、プリティガール!」
ムーンウォークでルシアの部屋へと侵入しようとしていたマイキーが、見つかって驚きの声を上げました。
「アワビを食べないかい? プレゼントだよ」
「……」
ノーンは【ヒュプノスの歌】でマイキーをあっさり眠らせてから、【捕われざるもの】のスキルで精神を強めておきます。何だったのでしょうか、彼は? 気にしないことにします。
「ふふふふ」
ノーンは【ピッキング】スキルで鍵を開けます。見事な手並みは一歩間違えばドロボウです。
「開いたわ」
といいますか、最初から開いていたのです。ちょっとやってみたかっただけ、でしょうか。
こっそりと中へと入りかけて、ノーンは思わず身構えてしまいました。ルシアの部屋の玄関に、気配もなく男が立ちはだかっていたのです。
「交通整理の人形ですわ」
どうしてこんなところに? とエンヘドゥが首を傾げますが、簡単です。地球の物が珍しいルシアが拾ってきたのです。
室内は電気がついておらず、真っ暗です。
奥へと進んでいくと、ルシアを見つけました。暗い部屋で窓を開け窓枠にもたれ掛かったまま寝息を立てています。サンタを待って外を見ているうちに眠ってしまったようです。
「……」
ノーンはエンヘドゥと顔を見合わせます。このままプレゼントを置いていけばミッションコンプリートなのですが、放って帰ったら風邪引きそうです。
ベッドに運んであげようかと思いましたが、その必要はないようでした。
「サンタさん!」
ノーンたちの気配に気づいたルシアは、叫び声を揚げながら飛び起きました。
入ってきた二人を見つめてから、怪訝そうに首を傾げました。
「あれ、二人ともどうしたの?」
「ごめんね急にお邪魔して。ちょっと様子を見に来ただけなの」
ノーンはベッドの脇に視線をやりながら答えました。
持って来たプレゼントは、すでにベッドの脇に置いてあり自分の手の中にはありません。あとは、ルシアの夢を壊さないようとぼけきるのみです。
「あれ? そこにおいてある箱はなにかしら〜。サンタさんが持ってきてくれたプレゼントじゃないかしら?」
ノーンはところどころ棒読み状態になりながら、自分の置いたプレゼントをルシアに気づかせます。
「まあ!」
ルシアは、包装された箱を嬉そうに手に取ります。
「よかったですわね。ルシアの元にもサンタさんが来てくれたのですわ」
ちょっと目を泳がせながら、エンヘドゥが微笑みました。作り笑いっぽいのですが、ルシアは気づいていません。
「うわぁ、すごいわ」
遠慮なくノーンのプレゼントを開けたルシアは、目を見張りました。【イコプラ:モスキード】が箱の中に入っていたのです。
「宝物にしよう!」
それだけ喜んでくれれば、ノーンとしても来た甲斐があったというものです。あとはボロが出ないうちに帰るとしましょう。
「何かありましたの?」
隣の部屋からブリュンヒルデがやって来ました。相変わらずモモンガです。
「サンタさんが、来てくれたの。ブリュンヒルデのプレゼントもあるわよ」
ルシアが言うと、ブリュンヒルデもプレゼントの箱に飛びつきました。
「うわぁ……」
箱を開けたブリュンヒルデは絶句します。
中には【ツキアカリノシズク】が入っていたのです。彼女は、じっと魅入られます。
エンヘドゥの持ってきたプレゼントは、ルシア用ブリュンヒルデ用共にダイヤの散りばめられたブランド腕時計でした。女の子の憧れのアクセサリーの一つで、卒倒しそうなお値段です。
「今月のお小遣い使い果たしてしまいましたわ」
エンヘドゥは小声でノーンに教えてくれますが、さすがはお姫様です。一か月分で二つ買えてしまうなんてどれだけ小遣いもらってるんでしょうか。
まあ、ノーンの家も大金持ちなんですけどね。彼女は見慣れているので全然驚きません。
ルシアにブランド物の価値がわかったかどうか知りませんが、急に神妙な顔つきになって、箪笥の奥へとしまいこんでいます。これはこれで、相当インパクトがあったようでした。
「じゃあ、私たちはこれで」
ノーンたちが、長居は無用とそのままフェードアウトしようとした時でした。
「!?」
気配を感じて窓の外に視線をやったルシアが、驚きに声を上げそうになりました。宙に浮いた黒い衣装の男がじっとルシアを見つめていたのです。
「驚かせてすまない。俺だよ」
やってきたのは、【魔鳥の群れ】に乗って黒い衣装で決めたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)でした。彼は、親しげな笑みを浮かべるとベランダから室内へ入ってきます。
「来るのが遅くなってしまったな。待たせてしまった」
もっと早くルシアの元へと辿り着くはずだったダリルは、ちょっと苦虫を噛み潰した表情を見せます。
彼がニルヴァーナ創世学園に連絡し、自分の身分を明かしてルシアの連絡先を聞き出そうとすると、学園の職員が「個人情報にかかわる事柄はお教えできません」などと意味不明なことを言い出したのです。「忘れ物を届けたいので」と伝えても「なら、本人に取りに来させてください」との事。あれだからお役所仕事の職員は困るんだ、とダリルは憂いの様子でした。
結局、そこいらのフリー・テロリストを締め上げてルシアの居場所を聞き出してきたのでした。テロリストに住所を簡単に知られているとはどういうことだ、とこれまたダリルの心配の種は尽きません。
それはともかく。
「お揃いのようだな。ルカももうじき来る。せっかくだからパーティーをやろう」
ダリルは提案します。
持ってきたケーキとチキンをテーブルに広げると、ブリュンヒルデがピクリと反応しました。
「やりましょう!」
テンションあがったブリュンヒルデが準備を整えていますと。
「みんなお疲れ〜。ホワイトリボン軍余裕だったわ!」
ルカルカが全速力でやって来ました。ルシアと宴会を楽しむつもりで、ケーキとシャンパンまで持参しているのです。
さっそく皆でわいわいやり始めます。食べて飲んでの大騒ぎです。
「……」
ノーンは、失礼ながら、と目で挨拶して、こっそりと退散することにしました。ルシアとブリュンヒルデにプレゼントを受け取ってもらったので、もうここにいる必要がないのです。
「それから、これ。メリー・クリスマス」
ノーンは、小声で隣のエンヘドゥにもプレゼントを渡しました。ミッションコンプリートしたら、彼女にも渡そうとポケットの中に忍び込ませていたのです。
ラッピングされた小箱を受け取って、エンヘドゥは感動します。さっそく中身を空けてみると【輝雪華】が出てきます。
「大切にしますわ」
改めて御礼を言ってから、エンヘドゥは痛恨の表情になりました。
「ごめんなさい。わたくし、他の方へのプレゼントを忘れてしまいましたの」
「……」
気にしないで、とノーンはパーティの雰囲気を壊さないように無言で微笑んで、静かに姿を消しました。家族の元へと帰っていきます。
特に問題なく、パーティーは盛り上がってきました。
「そうだ、忘れていた。ルシアとブリュンヒルデにプレゼントがあったのだ」
ダリルは持ってきていたプレゼントを手渡します。
「いやなに。本物のサンタがどうしても行けなくなったので代理を頼まれたんだ」
「サンタさんからのプレゼントなら、もうもらったわよ」
受け取りながら、ルシアは言います。
「サンタは何人もいるのだ。ルシアに渡したがっているサンタも多いのだよ。いい子にしていたご褒美さ」
ダリルはしれっと誤魔化します。ルシアは疑っていないようでした。
「ありがとう」
中を開けて、ルシアは目を見張りました。【最高級のネックレス】なのですが、彼女にその価値がわかるでしょうか。
まあいい、とダリルは微笑みます。重要なのは値段ではなく、ルシアが満足してくれればいいのでした。
そうこうしているうちに、楽しい時間は過ぎていきます。彼らのイブはまだ続くのです。
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