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リアクション
第四章:カモンベイビー! ミッドナイト・トラップへようこそ
午前零時を回りました。日付が12月25日に変わります。
本物サンタクロースが忙しそうに活動を始めた頃、街の一角に続々と飢えた狼たちが集まって来ました。
あのツリー隊は、フリー・テロリストではありません。
今夜のテロは、夜這いなのです。イブに満足したリア充たちが満足げに眠りについてからが本番なのでした。
「俺、抱き枕捨てたんだ。今夜はあの娘と一緒に寝るんだからな」
「朝になったら抱き枕回収に行ってそうだけどな」
あのモテない二人組みはいつものようにベンチに腰掛けて、戦慄に身を震わせていました。
どうしてこういうイベントに賛同者が大勢現れるのでしょうか。もはや止めようにも止められない雰囲気です。
「新しい女子寮のオートロックの開け方レクチャーするわね」
そしてまた、自称『ツァンダの歩く闘京スポーツ』、蒼空学園第十三新聞部の部長の東須 歩子(とうす ぽこ:♀)もこの場にいるのでした。
「窓ガラスは割っちゃダメよ。怪我する可能性があるし、侵入者としてみっともないから」
自分たちはあくまでサンタクロースなのだ、と歩子は言い張ります。届けるのは爆発と絶望ですが。
「寮の部屋の鍵の構造はもう解析済よ。旧式の建物も多いし道具一つで余裕よね」
なんと熱心な娘なのでしょうか。集まってきたフリー・テロリストたちに説明しながら、ピッキングツールまで配り始めます。
「本格的に窃盗団みたいになってきたな、おい」
驚く少年に、歩子は釘をさすのを忘れません。
「持ち去っていいのは、下着類だけだからね。貴金属類やその他の物品に手をつけたら、すぐさま警察に引き渡すから」
「いや、どっちにしろドロボーだから。お前は、真面目なのか不真面目なのか、はっきりしろ」
「私は単なる傍観者だって、いつも言ってるでしょ。やるのはあなたたち。そして、やるからにはある種の美学が必要なのよ」
だからこそ彼らについてきているのだ、と歩子は言います。
誰かの部屋に勝手に入るのは今夜だけで、ツールも技も知識も、今後一切悪用しないという血判入りの誓約書まで書かせてから参加させるという徹底ぶりです。
それだけに、今回の夜這いテロは筋金入りが揃っているのでした。
「さて、逝くか。死して屍拾うものなし」
いよいよ彼らも動き出しました。どんな活躍を見せてくれるのか楽しみにしましょう。
○
さて、ここはヴァイシャリー。
百合園学園の女子寮にも、さっそく複数の夜這いテロリストたちが集まってきていました。
「グッドラック!」
彼らは、頷き合うと、厳重警備のセキュリティをかいくぐり、侵入に成功しました。こっそりと、内部へと入っていきます。
「……」
目標の部屋を見つけて、さっそく扉を開けます。一人は正面から、もう一人は窓から接近していました。
そこは【生徒会執行部『白百合団』所属】ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)の寝室でした。
【生徒会執行部『白百合団』所属】とは、ああ、なんという心躍る響きでしょうか。彼らくらいの変態になると、そんじょそこらの女の子では満足できません。清楚で可憐な乙女にプレゼントしてこそ、クリスマス・テロの意義もあると言うものです。
しかもロリっ子です。小さい女の子の嫌いな変態はいません。キャーキャー言わせて見たいものです。
(来たわね)
ベッドで寝ていたネージュは、足音を忍ばせて入ってくる人影に息を潜めました。
ええ、変な連中がここへやってくるのではないか、と言うことくらいは予想がついていましたよ。
リア充とは、異性の恋人がいる人物だけを指すのではありません。
ネージュは社長令嬢で、交友関係も広く、由緒ある役職にもついており百合園学園の生活も日々有意義なものです。さらにロリ美少女とは、なんですか、この充実ぶりは。
暗くて臭くてかっこ悪い一人ぼっちの日常を送っているテロリストたちから見れば、十分に爆発させる対象です。
格差社会とは、なんと冷酷なのでしょうか。
しかし、だからと言ってイブの夜に誰かの部屋に忍び込むなんて、そんなこと許せません。
(変態さんにはお灸をすえておかないといけないよね、倫理的にも色々と)
すやすやと眠ったフリをして、ネージュは彼らの気配をうかがいます。敢えてテロの犠牲者になり、この困った変態さん達を撃退してやりましょう。
「はぁ……、ドキドキ」
夜這いテロリストの一人が、ネージュの箪笥を漁り始めました。下着類をごっそりいただいていくのです。可愛いぱんつをいっぱい袋に詰め込みます。
「メリー・クリスマス」
もう一人は、ツリー隊にあやかってクリスマスツリーを披露することにしたようです。ネージュが目を覚ました時、クリスマスツリーがそそり立っていたらきっと喜んでくれるのではないでしょうか。この上ないプレゼントです。下半身を露出させ、ネージュの寝床に迫ってきます。
(やれやれ。派手にやってくれるわね)
ネージュは、目を開けると隠し持っていたご自慢の超激辛オーバーキルカレーを、テロリストたちに向けて噴射させました。今夜、パートナーと心を込めて作っておいたのです。
「メリークリスマス、変態さんたち。あたしからのプレゼントよ。いっぱい味わってね」
「ギャーーーーー!?」
超激辛オーバーキルカレーを正面から受けたテロリストたちは、その場に倒れました。効果は抜群です。
「まったくもう。悶絶したって遅いわよ。乙女の園で変態行為に走ろうとしたことを後悔するといいんだから!」
「畜生! リア充爆発しろ!」
捨て台詞を吐きながら、テロリストたちはほうほうのていで逃げ出しました。窓から飛び降り、走り去っていきます。
大きな音を立てたものだから、寮の番犬も気づいて追いかけていきます。
「ガルルルルルル!」
「助けてくれー!」
屈強なドーベルマンに襲われて、彼らはゴミくずのように撃沈しました。掃除当番が、ゴミ捨て場へと捨ててきます。
「おやすみ」
一仕事終えたネージュは、寝床へと戻っていきました。
あれだけやっておけば、もうテロリストも来ないでしょう。今夜はいい夢が見れそうでした。
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