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リアクション
第五章:夜もふけて参りました。ご近所の迷惑にならないようお楽しみください
クリスマスの夜は大忙しでした。
サンタとツリー隊に混じって、夜這いのフリー・テロリストたちも、女の子の部屋を訪問中でした。
巧妙な手口で鍵を開け、室内に入って行き、悪夢をプレゼントするのです。
下着類をごっそりと手に入れたフリー・テロリストたちは、更なる獲物を求めて街へ散っていきます。
「キャー!」
あちらこちらで悲鳴が聞こえます。それすら彼らの戦果なのでした。
そんな中、ある部屋でもテロ活動が行われていました。
「……」
ふと、人の気配を感じて秋月 桃花(あきづき・とうか)は目を覚ましました。
寝ぼけたまま、そちらに目をやると桃花の下着類を手にした男が立っているのがわかりました。夜這いのフリー・テロリストです。
「しっ!」
男は、大胆にも桃花に沈黙を守るよう合図しました。
桃花は頷きます。頭がぼんやりしていて、何が起こっているのかわかっていません。
その時、桃花はクリスマスミサで聞いた牧師様の言葉を思い出しました。『右の頬を殴られたら、左の頬を差し出しなさい』
そうなのです。その精神こそが人類愛の根幹を成すものなのです。
彼女は、完全に寝ぼけていました。夢に命じられたように言います。
「下着があっても、ブラジャーがなければ一揃えではありませんよ」
そういったものの、手持ちのブラジャーは着けているものだけです。
使命感に囚われた桃花は、服を脱ぐと着けていたブラジャーを外して、男に手渡しました。
「……」
彼は、快く受け取ってくれます。
牧師様の言葉を忠実に実行した桃花は、安心して再び眠りに着こうとします。いや、ダメです。見ると、男は渡したブラジャーしか手にしていません。
「下着を持ってはいませんでしたか?」
桃花が聞くと、男は首を横に振りました。
それでは、一揃えにしなければならないと、桃花は思いました。
やおら、下着も抜いて男に手渡します。
「……」
彼は、こちらも快く受け取ってくれました。
「よかった」
これで落ち着いて寝ることが出来ます。
桃花は床にあったシャツを羽織ってベッドに横になったのでした。
「……」
男は、部屋から去っていきます。
入れ替わりに、別の人物が桃花の部屋へと侵入して来ました。
「ふふふ」
こちらは、フリー・テロリストではありません。
桃花の配偶者の芦原 郁乃(あはら・いくの)です。夜這いテロに乗じて、本当に夜這いをしに来たのでした。
「……」
郁乃は、こっそりと接近して目を疑いました。
桃花が、下には何もつけずシャツを羽織っただけの格好で眠っていたのです。
「……」
どういうことでしょうか、これは? 郁乃は不満げな表情になります。
普段の桃花は慎ましく、恥かしがりやでこんな姿で寝る娘では断じてありません。そんな彼女を夜這いするから盛り上がるのです。
こんな最初から誘っているような姿ではせっかくの性なる夜も萎えてしまうというものです。
「桃花、起きて。どういうことなの?」
慌てて起こして事情を問いただして見ます。
「右の頬を殴られたら左の頬を差し出さなければならないから、ブラジャーを渡したら下もあげる必要があるのですよ」
「?」
郁乃は怪訝な表情になります。言っていることが全然わかりません。
「ところで、郁乃様はどうして桃花の部屋でスタンバっているのですか? 鼻息が荒いんですけど?」
「いや、あのそれは」
郁乃は、ごまかし気味の笑みを浮かべて後ずさりしました。根が真面目な桃花に郁乃の目的を知られたら、説教されることはわかっています。
「……」
挙動不審になった郁乃を、桃花はむむむっ、と見つめました。先ほどまでは寝ぼけていたようでしたが、次第に頭がクリアになってきた様子です。明らかに疑いの目を向けてきます。
「郁乃様、もしかして……?」
「うわぁぁぁん!」
突然、もう一人のパートナーの荀 灌(じゅん・かん)が、泣きながら部屋に飛び込んで来ました。
ピンチにたたされていた郁乃は、ほっと胸をなでおろします。
(正直、荀灌が泣きながら飛び込んでこなかったら、ここから確実にお説教コースだったわぁ……。あぁ危なかった)
いや、ほっとしている場合じゃなくてですね。
「聞いてください。酷いのですよ」
灌は涙ながらに訴えて来ました。そうですね。よく考えたらただ事じゃありません。話を聞いてみましょう。
こういうことらしいんです。
同じ頃、物音に気づいて目を覚ました灌は、部屋で自分の下着をごっそりと持ち去ろうとしている男を見つけたのです。
悲鳴を上げるより、呆気に取られていると、男は灌に優しく励ますように言ったのです。
「甘いものを食べるとしょっぱいものがたべたくなるだろ。それと同じで、巨乳を味わったら、ちっぱいも味わいたくなるというものなんだ」
「う、うん……」
何を言っているのかよくわかりませんでしたが、その熱意のこもった口調に、灌はなんとなく頷いてしまいました。
「世の中にはロリ巨乳なんてのもあるが、ロリはロリらしいほうが魅力的さ。僕が保障しよう。君は美少女だ! 胸を張ってロリを名乗っていい」
「え、えっと。あの……」
「じゃぁ」
彼は、そういい残してかっこよく去っていきます。
「……」
びっくりしたのと下着を奪われたショックで、灌はしばらくそのまま呆然としていました。なんという手際のよさでしょうか。……などと感心している場合ではなくて。
段々と悔しさと恥ずかしさがこみ上げてきました。
( ロリって! そんなの自分で名乗るものじゃないですっ!!)
男の言葉を反芻しながら、灌は憤然とします。
(それにちっぱいって……。たしかに大きくはないですけど、ないわけじゃないんですっ! そんなついでにみたいに…ひどいです!!)
腹が立って、じんわりと涙が浮かび上がって来ました。
思わず部屋を飛び出し、やってきたらしいのです。
「ぬぁんだってぇ!?」
話を聞き終えた郁乃は、怒りに打ち震えました。
なんというけしからん、うらやましい犯人なのでしょうか! 郁乃だって、まだあんなことやこんなことをやったことがないのに! 想像しただけで、はぁはぁ言ってしまいそうです。
「桃花のおっぱいはおろか、慎ましい荀灌のおっぱいまで味わられるとはっ!! 私だってやりたかったのに!? けしからん、もっとやれ! 許すまじ不埒もn」
怒りを爆発させた郁乃は、桃花と灌がじっとりした目で見つめているのに気づき、言葉を止めます。
「……あれ? どうしたの二人とも? なんか怖いよ?」
黒いオーラを漂わせて微笑む二人に、郁乃は戸惑い笑いを浮かべながら言います。
「なんか桃花が二人いるような。もしかして私……、何か言っちゃった?」
「郁乃様」「お姉ちゃん」
「は、はいっ!」
桃花と灌の語調に、郁乃はビクッとしました。
「結局なんですか。おっぱいの心配なんですか?」
「慎ましいだなんてひどいですっ!!お姉ちゃんまで私をロリっていうんですかっ!」
桃花と灌が問い詰めながら迫ってきます。
「いや、あの…話し合おう?」
「「問答無用ですっ!」」
郁乃の平和的解決案は即座に却下されました。
桃花だけでなく、荀灌からもた〜〜〜〜っぷりお説教を受けてしまったそうです。
気がつくと、夜が明けていました。
「なんだなぁ……荀灌もつよくなったなぁ……」
郁乃はうつろな目で言いました。
「ああ、それにしても……。私のバカっ!!」