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【アガルタ】未来へ向けて

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【アガルタ】未来へ向けて

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★未来へ向かう03★



 総合展示場。
 真新しい建物を恐る恐る歩いているのは巡屋 美咲。普通の少女にしか見えないが、こう見えて全暗街の裏を取り仕切るヤクザ一家の長である。
 そんな彼女がなぜここにいるのかというと
「あ、美咲ちゃん。こっちこっち!」
 手を振って美咲を呼ぶのはヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)だ。美咲は頭を下げた。
「招待していただいてありがとうございます。あのっあのときは、その」
「いいっていいって。元気そうでよかった」
「はい。ありがとうございます」
「ははは。それはさっき聞いたよ?」
 わざとなのか違うのか。軽く流すヘルに、美咲は肩の荷を下ろした。とても迷惑をかけたという自覚があるので、今回の招待にはとても緊張していたのだ。
 ヘルはそのまま美咲を一階の劇場へと連れて行く。今日、彼のパートナーである早川 呼雪(はやかわ・こゆき)がここで演奏する。美咲をそこへ招待したのだ。
(美咲ちゃんにも呼雪の演奏を聞いて元気になってもらいたいって思ったんだけど)

「ほんとうに、なんだか前に会った時と雰囲気が変わったね。
 うんうん。ハーリーさんと仲直り出来たみたいだし、良かったね」
「はい! みなさんのおかげです。本当にあり」
「はいはーい、ストップ。もうすぐ始まるよ」
「……はい」

 そして幕が上がる。

「こういうのは久し振りだな……」
 呼雪は呟いて、一歩を踏み出した。堂々としたその姿に緊張は見えない。
 舞台の中央に進み出て頭を下げる。先ほどは他の演奏者らと共に音を奏でたが、今回はソロだ。
 静かに音が始まる。紡がれる言葉は、多くの人が知らない言語。おそらく、この場にいるものでその意味が分かるものはほとんどいないだろう。
 だが……最初こそざわついた観客達は、次第にその歌声に、演奏に耳を傾けていた。頭ではなく、心でその意味を理解していく。

【初めて見る景色に
 どうしてか遠い場所、懐かしい顔を思い出す
 あなたは今どうしている?
 望みを叶えられたろうか

 これまで本当に沢山、沢山の事があったよ
 何処でも人は自らの正義を掲げ戦っていた
 争いが悲しみを生む事を知りながら

 けれど嵐の過ぎ去った大地には
 朽ちた想いが命を芽吹かせ
 光はあまねく降り注ぎ
 子供達の声が響く】

 最後の一音まで、聞き逃すことなく音を拾い続け、完全に消えた頃に代わりとばかりに歓声と拍手が会場を支配した。
 呼雪は笑顔で頭を下げ、舞台をおりていった。

「お疲れ様」
「ああ、ありがとう」
 楽屋へ戻って休んでいる呼雪に、やってきたヘルが声をかける。振り返ると、その隣に美咲がいた。
「とても素晴らしい演奏と歌でした! 私、あんなに感動したの初めてです」
 興奮したように一気に感想を述べる少女の様子に、呼雪は安堵の笑みを浮かべた。

 以前に見た少女の瞳は暗く、今にも砕けてしまいそうだった。だが今目の前にあるのは、光り輝く未来であり、おそらく本来の彼女が持つ穏やかな『音』だ。
 そうして呼雪が笑っているのを見ながら、ヘルは不思議でたまらないという顔をしていた。

(呼雪って音楽方面も立体物もお料理もまともなのに、なんで絵だけああなんだろう)
 その謎が解ける日は来るのか。神のみぞ知る、のかもしれない。

「お兄ちゃん……あっ、と、ハーリーさんもとても良かったって言ってましたよ」
「聞いてくれてたのか」
「はい。忙しいみたいで、直接会いにいけないから代わりに伝えといてくれって」
「そうか、このあとセレモニーだったな。……なら会えたら、こちらこそ聞いてくれてありがとう、と伝えてほしい」
「分かりました。……ふふ。伝言ゲームみたいですね」
「あっなんか楽しそう。じゃあ僕からも――何にしようかな?」
「ヘル。無理やり伝言を作らなくてもいいんだぞ」
「えー! 呼雪ばっかりずるいー」
「ふふふっ。ゆっくり考えてくださってかまいませんよ。私は時間大丈夫ですから」

 展示場に、和やかな笑い声が響く。

 大きな大きな建物は、人を威圧するのではなく、どんなものをも受け止める、そんな器をあらわしているのかもしれない。


***


「ん〜、すっごく素敵な演奏だったわね。心が洗われるって言うか」
 展示場1階、受付ホール。
 五十嵐 理沙(いがらし・りさ)が演奏の興奮から少し頬を赤らめながら言った。セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)は、若干涙目になりつつ同意した。
「そうですわね……そしてこれから、この展示場はこのように感動を皆様にお届けする場となるに違いありませんわ」
 ほうっと感動に身を任せている2人に、カメラを回しているマネージャーがついついと時計を示した。セレスティアがはっとする。
「あら、もうこんな時間ですのね。理沙、セレモニーが始まりますわ」
 2人が今回この場にいるのは、展示場の取材のためだ。もちろん、しっかりとセレモニーもお届けする。
 壇上にハーリーやラクシュミ(空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん))、涼司らが並んでいるのを静かに撮影する。くす玉を割る時に、街の責任者のマグノスがまた泣いていたり、ラクシュミがサプライズで現れたニルヴァーナ人たちに感涙して抱きついたり、嗚咽で聞こえなくなったスピーチを涼司やハーリーがフォローしたりしつつ、なんとかテープカットも無事に終わった。

「みんな、ありがとう! これからもニルヴァーナを、この地を盛り上げて行ってください」

 その後は各作品を見て回る彼らについていく。

「おおおっこの絵は中々上手いな」
 そんなときに響く無駄に偉そうな声。セレスティアーナ一行もちょうどここに到着したようだ。理沙はセレスに手を振る。ぜひここに来て欲しい、と彼女を呼んでいたのだ。
 今セレスが見ているのは2人組みの女性が描かれた絵。さゆみが出展したものだ。どうやら自分と恋人を描いたものらしい。かなり忠実に、それでいて幻想的にも見える美しい作品になっている。
「とても丁寧にかかれてますわね。仲むつまじい様子が想像できますわ」
「わぁっみんなとてもすごいねー」
 美羽が目を輝かせ、恋人のコハクを振り返る。コハクは妻の楽しむ様子に微笑みつつ頷く。
「ほんとだね。すごく、幸せそう」
 そして絵の2人に負けじとしっかりと手を繋ぎ、照れたように顔を見合わせて笑う。
「羨ましいですわね。ドブーツ様、あんな風にしてくださいませんもの」
「ライラ……本当にして欲しいならしてやろうか?」
「あらあら。今回は遠慮させていただきますわ」
 ふいと顔をそらしたライラにドブーツがやれやれ「恥かしいなら最初から言わなければいいものを」と呟いているのを見たセレスティアは納得したように頷いた。2人の本当の力関係がそこに見えた。
「ふふ、ライラさんって可愛らしい方ですのね」
「ま、まあセレスティア様。ありがとうございますわ。ふふふ」
 なんとか返事をしたライラの耳は、いつもより少し赤かった。
(だって、本当に羨ましかったのですもの)
 見ている者に羨望を抱かせてしまう、そんな幸福に満ちた作品だった。


 そこから少し離れたところでは、ジヴォートが一つの作品の前で足を止めていた。
 水晶彫りの龍が花をくわえて座っている。手のひらサイズの作品だ。そこの説明には、洞窟のことが書かれていた。天音がブルーズからもらった水晶で作った作品である。
「へぇ、洞窟で水晶が見つかったのか」
「水晶の花畑ですか。とても美しいのでしょうね」
 隣で見ていたランがうっとりすると、ジヴォートはう〜んと首をひねる。
「俺としては、花畑よりこっちの龍の方が格好良くて好きだけどなぁ。この龍かっけーな。鱗までこまかく表現してるし……どうやって彫ったんだこれ」
「ふふふ、とても素敵な作品ですものね」
 どうやらジヴォートも、ランの顔を正面から見なければ普通に会話はできるようになったらしい。
「ふむ。水晶ですか。……新しい事業を起こす機会かもしれませんな」
 父親のイキモはというと、どうやら商売のことで頭がいっぱい……なようで
「しかし見事な細工。そしてこの説明文に水晶のことを載せることといい……一体どのような方が作られたのか。ぜひ会ってお話したいものですな」
 良ければ私も作品を依頼したい、などと呟きながらよほど気に入ったらしく。しばらくその作品を親子揃って眺めていた。
「やっぱ父さんも思うか。ここの曲がったところのフォルムがすげーよな」
「うむ。それに目の辺りの細工が素晴らしい」
 ランは話にこそついていけなかったものの、仲のよい親子の会話を温かく見守っていた。


「……むむむっ? この素焼きのは見たことがあるぞ」
 セレスティアーナはぽかんと口をあけながら作品を順々に見て回っていたが、一つの作品で首をかしげた。素焼きの像は、一人の男の形をしていた。まるで今にも動き出しそうなほどに精巧な作品を、じ〜っと見つめるセレスティアーナ。
 製作者は呼雪だ。絵画になるとアレな彼も、こういう立体作品なら大丈夫らしい。なにが大丈夫なのか、は深くは語るまい。
「どうかしましたか……って、その作品は」
 ハーリーがそんなセレスへと挨拶もかねて近寄ろうとした時、あーっとセレスが叫ぶ。
 そう。その作品の男とは、ハーリーだったのだ。
 納得したセレスは満足げだが、モデルとなった本人はどこか照れくさそうだった。理沙の目がきらんと輝く。
「どうどう? 自分がモデルの作品ってのは」
「は? 別になんとも……おい。にやけるな、カメラ向けるな。今の絶対流すなよ」
「ソレは無理ですわ。生放送ですもの」
「くっ」
 思わぬ総責任者の人らしい顔を撮ることができ、理沙とセレスティアは顔を見合わせて微笑んだ。
 そしてもう一度マイクを向けると、ハーリーは観念したように感想を述べる。
「まあ……悪意はかんじねーし、悪い気はしねーよ」
「ふふーん、とっても嬉しいそうなので、みんなもドシドシこの人の作品送ってねー」
「おい、マジで止めろ。ってか、もう募集は終わって」
「ふふん。なら私のを描いてもいいのだぞ!」
 ない胸を張って言うセレスティアーナに、あらあらとライラが笑って右の方向を示す。
「そういえば、向こうでセレス様の銅像がありましたわ」
「本当か! よし、行くぞ」
「あ、ちょっと待って」
 ぱあっと顔を輝かせて突っ走っていったセレスティアーナと、彼女を追いかけていく面々を見送って、ハーリーはこれ以上失態をさらさずにすんだと安堵の息を吐いていた。
 が、それを見ていた知り合いにからかわれることになる。
 

『……ふぅ、ここが展示場か。小娘どもはどこに』
 約束どおり、手が空いた土星くんはセレスティアーナたちを追って展示場へと来ていた。
 そして目立つ一行を見かけて駆け寄っていく。セレスティアーナたちは、とある作品を見入っているようだった。
 土星くんも気になって覗く。
 そこに飾られていたのは、刀や包丁だった。実用美溢れるものから、装飾後これでもかと施された儀礼用。はたまた製作者の趣味を全部詰め込んだような意図が分かりづらいものまで、多数の刃物が絶妙の配置で並べてあった。
 説明を読んでみると、萬鍛冶屋『鱠斬』アガルタ支店の職人達が腕によりをかけて打ったものらしい。あまり刃物に触れたことない土星くんだったが、その美しさが良く分かった。
(なるほど。こういうのも作品っちゅーわけか。なんやようわからんのもあるけどな)
 土星くんが感心していると、セレスティアーナの楽しげな声がした。
「おっ、土星くんがいるのだ」
「ほんとね。そっくりだわ」
「たしかに上手ですが……どうして刃物と同じところに……ええっと、よければお試しください?」
 セレスティアが説明文を読む。作品は基本透明なケースに覆われて触れることは出来ないのだが、その土星くんの形をした作品のケースには穴が空いており、触れることができるようになっていた。
 そして傍にはプラスチックで作られた玩具の包丁(紐で台にくっつけられている)。土星くんがなんやあれ、と首をかしげたとき、セレスティアーナが玩具の包丁をその土星くんに突き刺した――いや、どうやら一部にスリットが入っていたらしい。

【ぎぃゃあああああ】
『ぎぃゃあああああ』
 響く二重音声。一つは本物の口から。一つは――その土星くん型砥ぎ器から。
 だが本物が傍にいることには、セレスティアーナは気づかなかったらしい。おお、ソックリな声だな、とご満悦に笑う。
 一方で、土星くんに気づいた理沙が「えいっ」ともう一度刃物を突き刺す。
 土星くんだって分かっている。それは玩具の包丁であり、自分に刺さっているわけでは無いと。しかし……精巧に出来た自分そっくりのものに刃物が突き刺さる様子というのは
『やめんかー!』
 土星くんの心からの叫びが響いた。

 うーん、愛されてるねー。

『どこがやー!』



『え、えらいめにあった』
 げっそりした土星くんに、ドリンクを渡すセレスティア。受け取って一気飲みする土星くん。ぷはーっと親父臭い飲み方だ。
「面白いのがたくさんなのだ」
『わしは全然おもろないけどな』
「えーそう? じゃあどんなのが好きなの?」
『つわれてもな。今まで芸術とか、そんなもん考えたことないわ。生きるのに必死やったからな……そういうお前さんはどうなんや』
 逆に問い返された理沙は、そうねーと少し視線を上にして考え込む。
「私は上手な作品と言うより一生懸命さが伝わるのが好き。
 テクニックかぜあればいいってものでもないっしょ。伝えたいものがある、その情熱を感じられる物がいいわよね」
 中々いいことを言っている理沙を、土星くんがじと目で見る。
『とか言うて、本当は自分が絵、上手やないだけちゃうか?』
「ぎくっ……ひ、否定はしないけど、でも情熱は大事でしょー」
「理沙。少し落ち着いて。土星くんも、機嫌直してくださいな」
『しゃあないな』
 ひとまず落ち着いたところで、セレスティアは一冊の本を取り出した。
「実はこういうものがあるんですよ。『出展作品目録』です。売店で購入できるのですが、今回は特別にお貸しいただきました」
「さすがに全部見るのは難しいものね。数日ごとに作品は入れ替わるし」
「ええ。全部紹介は出来ませんから……よければこの中から気になった作品を見に行きませんか?」
『んーと、今日の日付……ここらへんのか』
「……お! これいくぞ、これ」
 ページをめくっていき、セレスティアーナのお眼鏡にかなった作品があったらしい。一行はそこへ向かう。



「ペンタだー!」
「きゃー、かわいい」
「おっドラゴンもいるな! クジラでけー、乗れるかな?」
「乗れそうだな!」
「私はむしろスズメを手に乗せたいわね。こういう動物の作品は好きね」
「ブレーメンみたいだな。俺、あの絵本好きだったなぁ」
「……ブレ? なんだそれは」
 ペンギンアヴァターラやぷちどら・ホエール・スパロウアヴァターラなどのギフトたちをかたどった飴細工がそこにあった。大きいギフトが一番下。徐々に小さいギフトが上に連なっていくという、ブレーメンの音楽隊のような形をしている。音楽が聞こえてきそうな、楽しげな雰囲気だ。
 ハイテンションで取り囲む面々を温かく見守る保護者達はというと、
「あらあら……おいしそうですわね」
「食べるなよ?」
「食べませんわよ」
「あ、あの私飴玉持っていますので、ライラ様どうぞ」
「いえ、あの冗だ……ありがとうございます」
「いっつつ」
「ドブーツさん……」
「その哀れみの目をやめろ、セレスティア嬢」
 和やかに飴を舐めつつ(ドブーツは足を押さえて飛び跳ねて喜んでいた?)、愛らしい作品を眺めた。
 ギフトたちは契約者にとって道具でもあるが、ただの道具としてではない愛情をその作品から感じ取れた。
『うん、まあええんとちゃうか?』
「素直じゃないわねぇ」
 土星くんとしても、ニルヴァーナ人が残したギフトたちが愛されているのは、嬉しいことだったが、素直に口には出来ないようだった。
 そんな土星くんに呆れつつ、ほんわかした気分で一行は次の作品へと向かっていった。


 その作品は、たくさん送られた作品の中でも、あまりないモチーフを描いていた。
 薄暗い色合いが多く、しかしその中に突如派手な色合い、ネオンが映りこんでいる町並み。
 道が細く入り組み、ごちゃごちゃしたその特徴的な街は、全暗街。その街を背に数名の人が描かれていた。
「…………」
 展示場内を歩いていた美咲は、その絵の前から動けなかった。
 全暗街の一般的なイメージといえば、暗くて怪しく、そして怖い。
 色鉛筆で描かれた全暗街は、イメージの通りの暗い色合いが多い。そして不意に現れるネオンの光が怪しく輝いているが……怖い、という印象はなかった。
 描かれている人たちは無言でいると怖がられる顔のものばかりだということを、美咲は良く知っている。だけどとても純粋で優しい人たちだということを、美咲は良く知っている。
 巡屋の……自分達がそこに描かれていた。とても楽しそうな顔を浮かべて、暗い色合いなのになぜか優しさを感じる街の中に、自然と溶け込んでいる。
 いろいろな想いが美咲の胸に沸き起こり、目が熱くなった。

「あっなんか黒い絵があるぞ」
 が、熱が暴れる前に聞こえた声に思わず美咲は別の作品の陰に隠れた。そして耳を傾ける。
「優しい感じだな。まあ、全暗街でいろいろあったけど」
「あそこは楽しい街だな。うむ、あとで行くか」
 聞こえてくる全暗街についての印象は、まるで自分のことのように嬉しかった。

「隣の絵は……えーっと」
 セレスティアが隣に在った丸い絵を見て、感想に困った。
 丸い円。そこに生えた小さな手足。つぶらな目。円を覆うわっか。
 おそらく土星くんなのだろう。確信できないのは、それらの部品が、ある意味絶妙のバランスで配置されているため、土星くんに見えない。
 ……ピカソが土星くんを描いたらこうなるのだろうか。
「でも一生懸命さが伝わってくるわ。なんだか応援したくなるわね」
『そ、そやな……嫌われとるわけや、ないみたいやし』
 きっといつか、彼の絵を評価してくれる人が現れる……はず。
 


 芸術作品、ときいてどんなものを思い浮かべるだろうか。
 様々な答えがあるだろうが、人の裸を表現したもの、というのはその代表の一つだろう。……別にいやらしい意味ではなく。
 裸というものは芸術の基本ともいえる。だからそこに、ほぼ全裸の女性たちの像があってもおかしくはない。
 セレンフィリティセレアナにそっくりな女性たちが、白い布でわずかにその身を隠して飾られていた。
 その肌は滑らかで、少し上気していて、まるで本物のようだ。
 自らの身体を見せ付けるようにし、周囲の視線を浴びて酔っているようなセレンフィリティの艶やかさ。彼女ならばたしかにこのような表情を浮かべ、愉悦に浸るだろう。
 対してセレアナの方は、最後まで抵抗するかのように俯き、その肢体を隠そうとしているようだ。だがその羞恥に揺れる瞳や赤らめられた頬は、見るものに憂いを感じさせ、セレンフィリティとは違う色気を放っていた。
「む? あれはセレンフィリティとセレアナか! そっくりだな」
 そんな折にやってきた代王の言葉に、若干。本当に若干2人は動いたように見えた。
「本当だなー。すげー精巧だな。動き出しそうだ」
 さらに聞こえたジヴォートの声。ドブーツは、顔を赤らめてすすすっとその場から離れていった。ジヴォートはリアルの女性の肌は苦手だが、こういう芸術品だと思えば大丈夫らしい。

 ……まあ、本物(リアル)なのだが、本当に動けるのだが。

 ライブマネキン、というのも立派な作品。
 天然2人はまったく気づかいてない。子どものように楽しげに感想を述べ合っている。
 感想が聞こえるたびに2人の顔が悦びと羞恥に染まっているのだが、感想を言い合うのに熱中している子供たちはやっぱり気づかない。

「む、そういう手もあったか」
 代王の護衛として展示場を見学していた変熊 仮面(へんくま・かめん)(ちゃんとロイヤルガードの制服を身につけている。ほんとだ。嘘ではない)が、唸った。
「んん? よくわからんが、もうそろそろ別のところにいくぞ」
 セレスティアーナは変熊の言葉に首を傾げたが、まあいいかとそういった。変熊はうなづきを返しつつ、一つの像を指差した。

「あそこにある青年像。素晴らしい肉体美ではないか?」
 そこにあったのは全裸の青年の像だった。


――意味ありげに続く!