校長室
賑やかな秋の祭り
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夜、イルミンスールの頂上、一番高い所。 「……ここだと祭り全体を見渡せるね」 リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)は眼下に広がるオレンジ色の明かりに包まれた町と漏れ届く音楽に胸を躍らせ祭りを楽しんでいた。 その隣には 「……そうですね」 旦那様の博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が自分が着ていたローブをそっと妻に掛けた。秋になって少し涼しくなりリンネが風邪を引かぬようと。 「……博季ちゃんが風邪引いちゃうから」 リンネは掛けられたロープを脱いで博季に返そうとするが、 「手作りの暖かいカボチャのポタージュをどうぞ。パンプキンパイも作ってきましたから、食べながら花火を見ましょう。もうそろそろですよね」 博季はそんな隙を与えまいとホットな秋の料理をリンネの手に持たせた。 「博季ちゃん、これじゃ……」 ここでリンネは気付いた。手が塞がり博季の思惑通りロープが返却出来ないと。 「僕は大丈夫ですよ」 博季はそう言うなり 「こうしていれば温かいですから」 リンネに寄り添いほわりと笑んだ。言葉にはしていないが、最愛の妻といれば寒くないと言う惚気である。 それを感じ取ったリンネは 「もぅ」 何か誤魔化された気がするのと博季の惚気に呆れと恥ずかしさで頬を膨らませ視線を逸らした。 しかし、 「リンネさん、花火が始まりましたよ」 博季の花火を知らせる言葉に 「……ん……」 背けていた顔を前に向かせ 「本当だ。綺麗だねぇ」 空に次々と咲き輝く光の花に心を奪われた。 「そうですね。普段、僕らが通ってる学校なのに、こうしてると全然違う場所みたいですね」 博季は花火だけでなく眼下の景色も一緒に楽しんだ。 「うん。博季ちゃんが言うようにこの場所も眼下に広がる景色も全部知っていて見慣れているはずなのに今日はロマンチックで別の場所にいるみたいだよ」 リンネは目に映る幻想的な景色に溜息を洩らすが、いつまでも景色に心奪われているようなことはなく。 「……」 両手に持たされた料理を食べた。 「どうですか?」 博季はじぃと食べるのを見守る。 視線を感じたリンネは 「美味しいよ。体の芯から温かくなるよ。今日は秋の味覚でお祭りにぴったりだし……やっぱり、博季ちゃんの料理は美味しいね」 全てを平らげつつ感想を口にした。ほんの少し困ったように。 「それは食べる相手を考えて作っているからです。リンネさんに美味しく食べて貰えるようにと」 博季は空になった食器を片付けながら誰よりも自分の料理を食べて欲しい相手に向かって微笑んだ。 「それじゃ、リンネちゃんだけ一人食欲の秋じゃない。それは困るよ。太っちゃう、博季ちゃんの料理美味しいから」 リンネは可愛らしく怒った。 「僕はどんなリンネさんも好きですよ。そう言えば今まで沢山の花火を見たけど、秋の花火って珍しいですよね。これ、もっと色んなところでやってくれたらいいですよね」 怒ったリンネも可愛いと言わんばかりに微笑む博季とそんな旦那様に呆れながらも嬉しいリンネは笑顔を浮かべどちらともなく素敵な雰囲気にそっと肩を寄せ合い頭をくっつけ花火を楽しんだ。 「……(こうしてリンネさんと一緒にいられて僕は幸せだなぁ。素敵な風景もリンネさんと一緒に見るから素敵であって……リンネさんと出会えて本当によかった)」 博季は自分に向けるリンネの笑顔に二人でいられる幸せを噛み締めていた。胸中では言わずもがなで惚気ていた。 「……(博季ちゃんと一緒にお祭りに参加出来て良かったなぁ。ううん、博季ちゃんと出会えて良かった。博季ちゃんがいないとこんな素敵な風景を見てもきっと楽しくない)」 リンネも花火を楽しむよりは最愛の夫と同じ時間を共有している事に幸せを感じ、胸中で惚気ていた。 二人は花火が終わるまでずっと寄り添って花火鑑賞をしていた。端から見たら甘ったるいバカップルに見える事だろう。 花火終了後。 「……」 花火が終わったのにも関わらず、二人はまだぼんやりと寄り添い、しんと静まりかえった深い闇夜を見てじんわりと花火の余韻に浸っていた。 しばらくして 「……リンネさん、温かい飲み物はどうですか?」 博季はそっとホットな飲み物を差し出した。 「……ありがとう」 リンネは笑顔で受け取り、ごくりと飲み、喉を潤した。 「下はまだまだお祭り騒ぎが続いていますね」 博季が見下ろす眼下では花火が終了してもまだ祭り騒ぎに賑わっていた。 「そうだね。こっちもまだまだ楽しまないとね」 リンネはそう言うやいなや博季が作ってきた秋の味覚の料理を頬張った。 そうやってアシュリング夫妻は誰にも邪魔されずまったりと祭り気分を二人だけで味わったという。