校長室
賑やかな秋の祭り
リアクション公開中!
夜、とある喫茶店。 「お祭りがあると聞いて来たらシンリちゃんから聞いた話の通りの子がいたら気になって声をかけて迷惑をかけてごめんなさいね」 「いいや、丁度良かったよ。調薬会への加入の件、決めたからシンリさんに後で伝えようと思っていた所だから」 調薬探求会のオリヴィエとジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)が夏の最後にした話の続き、ジブリールの決断について話していた。 「早速だけど、両調薬会一長一短で悩んだけど、オレ、探求会へ厄介になる事にしたよ。確かに友愛会も魅力的だし、ベルクさん達の心配も解るけどね」 ジブリールは暗殺技術を生かす技術にするべく助けの一つとして厄介になる調薬会を選ぶために以前話を聞きいて今その決断について口にした。 「オレ自身非合法な世界で生きてきて知識も非合法から得た物だから……今更合法非合法が理由で断る選択肢は持ち合わせてないんだ。だからシンリさんの言うとおり其れ位でないとオレが欲しい知識は得られないと思うし、これでも物事の良し悪しの判断は出来る自信はあるから大丈夫だよ」 ジブリールは決めた理由を言葉にしていく。 「自分の意思を持っているならどんな時でも大丈夫よ。技術も大事だけどあなたの言うように何をしたいのか何になりたいのかを明確に持っておく事が一番大事よ。そうでなければ得た物は役に立たないもの。といっても技術云々は調薬しない私が言うには説得力ないかもしれないけれど」 オリヴィエはしっかりしているジブリールに感心しながら言った。 「確かに何事も何かしようと思う所から始まるよね。オレもなりたい自分があるからこうして色々模索している訳だしね。それはともかく探求会は癖のある人が多そうだね……それはそれで面白そうだけど」 ジブリールは悪戯な顔で言った。 「そうねぇ、調薬せずに人の実験見学が趣味の人や感覚で調薬する人、悪い事しちゃう人や色々ね。個性があるから面白いのだけど……とりあえず話はシンリちゃんに伝えておくから心配しないで」 オリヴィエは自分の事を含み楽しそうに笑いながら新たな会員に喜んだ。 話が一段落した所で 「ありがとう。それじゃ、また」 ジブリールは立ち上がり外で自分を待つ仲間の所に行った。 「えぇ、お祭り楽しんでね」 呑気なオリヴィエは微笑みながら新たな会員を見送った。 一方。 「……マスター、ジブリールさんが選んだ道、しっかりと応援しましょう!」 「あぁ、選んだのが探求会で心配はあるが、応援しない訳にはいかないからな」 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)とベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は店の外でジブリールの話が終わるのを待っていた。話の席にいないのは部外者だからだ。これまで関わった経験から調薬探求会に黒亜の事や記憶素材化レシピなど多少問題があるため気に掛かる事はあるが。 しばらくして店のドアが開き、 「フレンディスさん、ベルクさん、お待たせ。何とか話してシンリさんに伝えて貰えるように頼んだよ」 無事に話がついた報告と同時に 「ところでこれって双子開催のお祭りなんだよね? それならオレも協力してきてもいいかな。オレも羽根を伸ばして……はちょっと変だけど双子と騒ぎたいかな」 ジブリールは子供らしい無邪気さを見せた。 「……それは……」 ベルクが何か注意事を発するよりも先に 「大丈夫だよ。ちゃんとオレはやりすぎないように加減するしそれとなく二人を止めるからさ……というかまずは二人を捜さないとだけど」 ジブリールは先回りしてニヤリと含み笑い。二人がデート出来るよう気遣い心はあるが夢の中で双子と共に悪戯したのが余程楽しかったのか双子の手伝いと称し悪戯に混ざる気満々である。元々意味深台詞が多い辺り悪戯好きの一面はあったのだが。 「……まぁ、お前はあいつらと違って度を超す真似はしねぇと解っているが……(あの二人がいるという時点で目を離すのは厭な予感しかしねぇんだよな)」 しっかり者で聡明なジブリールには信頼はあるもののベルクはさすがに双子と一緒という時点で嫌な予感しか湧かないため歯切れが悪い。 そんな時 「マスター、ロズさんと双子さん達ですよ!」 噂をすれば何とやらフレンディスが話題に上がった双子達を発見し、指し示した。 示された方向を見た途端、 「……あー、あれはやべぇな。ロズの奴、大丈夫か」 ベルクは嫌な予感とロズへの同情が深まった。 なぜなら 「マスター、あれはもしや平行世界の双子さんではありませんか。こちらに来ていたのですね。もしや、お祭りを盛り上げようと参加されたのでしょうか」 平行世界の女の子版の双子がいたからだ。しかも未だ度の過ぎた悪戯を理解していない上に双子を尊敬するフレンディスは良い解釈をして脳天気に浮かれていた。 「……フレイ(……絶対にフレイには菓子を食わせねぇようにしねぇと、双子の数が増えてこの阻止が一番難易度高ぇ気がする……というかこれ確実に苦労優先だな)」 苦労人ベルクは盛り上げではなく迷惑拡散だと言おうとして言葉を飲み込み、確実に疲れる祭りになると諦め覚悟をするのだった。 ともかく三人は双子達の元に行く事にした。 「ロズ」 ベルクが親しげに声をかけながら近寄った。その後ろからフレンディス達も続いた。 「あぁ、来ていたのか」 気付いたロズは足を止め、これまで何かと気に掛けてくれたベルク達を快く迎えた。 「一体どうして平行世界の双子までいるんだ。大方こっちの双子の仕業だろうが」 ベルクがこそっとロズに訊ねた。何となく理由は想像出来るが。 「……あぁ、その通りだ。二人が自分達だと分からないように細工してそれに騙されて希望者が二人だとは分からず分かったのは呼び寄せた後だった」 ロズは厄介が増えた訳を簡単に説明した。 「そりゃ、また災難だな」 ベルクは苦笑気味に言った。 「まさにその通りだ。朝二人が昼になると四人になって目を離した隙にあちこちに行ってはやらかして……それも二手になって騒ぎを起こす事もあって」 ロズは溜息気味に双子四人組に目を向けた。 それを耳にして 「騒ぎってひでぇな」 「祭りを盛り上げようとしただけなのに」 こちらの双子。 「そうだよ。折角だからこっちの祭りを楽しみつつ盛り上げようと思っただけなのに」 「確かにこっちの双子に会いたかったけど」 向こうの双子。 四人がわぁわぁ騒ぐ。 そこへ 「へぇ、二人が平行世界の双子かぁ。ベルクさん達に話は聞いた事はあるけど、本当に顔そっくりで女の子なんだね。確か……ヒスナとキスナだっけ?」 ジブリールが珍しげに初対面の女双子を頭から足の爪先までじぃと見た。話とは上映会の事だ。 「そうだよ」 「よく知ってるね」 女双子はにこにこと笑った。 「そりゃ、知ってるよ。それより、オレも祭り盛り上げに入れて欲しいなぁ」 ジブリールは予定通りもう一つの目的を果たそうとする。 真っ先に返事をしたのは 「おう、いいぜ」 「また騒ごうぜ」 双子だった。夢の中で共に騒いだ仲であり、これまでも自分達のする事に割と好印象を持ってくれていた事からあっさり仲間に入れた。 「二人がいいなら私達もいいよ」 「うん、ワタシも賛成するよ」 双子がオーケーを出したのを見て女双子は賛成した。 「……やっぱ、こうなるか」 ベルクは自分が懸念した通りの展開に溜息を吐いて諦め受け入れる。 さらに隣を見るとますますその溜息は深くなる。 何せ 「マスター、双子さん達はこの度のお祭りの主催だけでなく自ら盛り上げようとして立派ですね。それだけでなくジブリールさんも楽しそうで……やはり双子さんは偉人さんなのです!」 いつも通りの安定の脳天気忍者のフレンディスはジブリールに子供らしい無邪気な言動が増えた事で素敵なお友達が出来たと考えジブリールが悪戯に参加するのを止める様子は全く無い。 「……はぁ(この調子じゃ戦力にならねぇな。むしろ冗長させる原因になる危険が……)」 ベルクはちらりとフレンディスを見てから 「……ロズ、双子が増えて大変な所に悪戯要員を増やしちまって悪ぃな。俺達はジブリールの保護者だから連中の悪戯監視に付き合ってもいいか?」 ロズの苦労軽減が出来ればと手伝いを申し出た。すっかり親馬鹿苦労人で保護者が板に付いている。 「あぁ、そうしてくれると助かる。二手に別れると面倒だからそれも気を付けてくれ」 ロズはあっさりと申し出を受け入れた。 「あぁ、気をつけよう。んな事になったらあっちこっちで惨事だからな(例え、ジブリールがいるとはいえ)」 ベルクはしっかりとうなずいた。 ベルクとロズの話し中に 「それじゃ、お近付きの印にお菓子でもどうだ?」 「美味しいぞ」 双子が無警戒のフレンディスにお菓子を差し出していた。これまでの事からフレンディスがお菓子を受け取ってくれると知っているので。 案の定 「私にくれるのですか」 フレンディスは好奇心からあっさりと受け取ってしまった。 「どのようなお菓子か楽しみです」 フレンディスが包みを開け 「……これは美味しそうですね」 姿を現した生クリームたっぷりの一切れのロールケーキを一口食べ、もう一口と口を近付けようとした時 「……フレイ、それ以上食べるな」 気付いたベルクが『行動予測』で慌ててお菓子を取り上げ最初の阻止行動。しかしすでに一口食べているため少々手遅れに。 「マスター、どうしたのですか? もしかしてマスターも食べたくて……」 お菓子を取られたフレンディスは自分が救われた事に気付かず、ベルクが食べたくて我慢出来なかったのだと勘違い。 「いや、そうじゃねぇよ。それより体は大丈夫か(……ったく、フレイは本当に無警戒だ)」 ベルクは疲れ気味に否定し、異変が無いか確認を入れた。 「……異変……あぁ、そう言えば、体がうずうずして参りました」 聞かれて体から湧き上がる妙なものを感じたフレンディスは突然忍刀・雲煙過眼を抜き、振り回し始めた。 「踊りたくなる効果抜群だな。剣舞という奴だな」 「何かすごいけどさ、これって剣舞というよりは素振りじゃ」 双子はフレンディスの隙のない動きに一瞬見惚れていた。 そこで 「おい、あの効果はいつ解けるんだ?」 ベルクがキツイ調子で問いただすと 「一口しか食べてないから数分くらいだと思うぜ」 ヒスミが軽く言い放ち、肩をすくめた。 その言葉通り数分後、フレンディスは元に戻った。 「大丈夫か、フレイ」 ベルクは真っ先に恋人の身を案じた。 「はい、大丈夫です。美味しいお菓子とお祭りの熱気に当てられたみたいです」 フレンディスは物凄く良い顔で答えた。お菓子のせいだとは一切気付いていない模様。 「いやいや、それは菓子のせいだ(一口でこれで済んだなら全部食べたら今日一日踊ってたかもしれねぇな)」 ベルクはツッコミを入れた。内心では菓子を食べ切った先に待っていただろう惨事を想像しぞっとしていた。 しかし 「お菓子のですか。凄いです!」 フレンディスは手を叩いて感心するばかり。 「……」 ベルクはこれ以上かける言葉無く黙るしかなく 「……」 ロズは申し訳無さそうな顔でベルクを見た。 「……大丈夫だ」 ベルクはロズが何を言いたいのか分かったのか平気だと答えた。何やかんやでこういう事態は慣れていたりする。取り上げた菓子はこっそりと処分した。 一方。 「じゃ、行こう!」 「折角だからあげるお菓子を選んで良いよ!」 女双子がジブリールを急かし、キスナは菓子選びを任せようと持っているお菓子を披露。 「色々あるね。どんなお菓子があるのか軽く説明して欲しいな」 ジブリールはあれこれと菓子を手に取っては興味深そうに見つつ説明を求めた。 「誰にも言うなよ」 ヒスミは声を落として教える前の念入れをすると 「言わないよ。絶対に」 ジブリールはいやに真面目な顔で約束を誓う。 すると大丈夫と判断したのか 「教えてやるよ」 「よーく聞けよ」 双子は一度だけの説明を小さな声で始めた。 ジブリールは熱心に聞いていた。 全てを話し終えてから 「という事でここ一体を賑やかにしたいと思う」 「で、折角だからどれでもいいから選べ」 声の大きさを後ろの保護者達に気付かれぬよう落としてジブリールにこそっとお菓子を見せた。 「へぇ、色々あるんだね。それじゃ、この小さな箱にするよ」 ジブリールは四人が持つお菓子からあれこれと物色した結果可愛らしい小さな箱をチョイス。 「小さいのでいいのか? 大きい方がいいぞ」 「この派手な奴も面白いぞ」 双子がそれぞれ箱を手に勧めるが 「小さいので良いよ。いきなり大きいのや派手な物を使うのは勿体ないからさ(大きいのや派手な物だと暴走したりすると止めるのが大変だからね)」 ジブリールは家族に迷惑かけたくないという思いから程良く自制し双子を上手く制御する。この辺が双子よりも大人である。 「大きい方が派手で面白いのに」 「まぁ、それでいいなら別にいいけど」 双子は少しつまらなさそうに言うが無理意地はしなかった。 ここで 「おい、待て、その菓子をどうするつもりだ」 ベルクのストップが入った。 「ここにいる人にサプライズするんだ。ベルクさん、大丈夫だから」 ジブリールは悪戯な笑みを口元に浮かべてやめる様子は見せない。 「……いやいや、大丈夫ってお菓子持ってる時点で大丈夫じゃねぇよ」 どのような菓子なのか知らないだけでなくベルクとしては双子の菓子を持っている時点で赤信号なのだ。 「双子さんと仲良くなったみたいで嬉しいです。ジブリールさんが選んだお菓子が何か気になります。是非、見せて下さい。先程のお菓子のように美味しい物でしたらいいのですが」 フレンディスはほわんと笑顔でベルクの懸念通り冗長する事を口走った。 「ちょっ、フレイ、期待するな……って、あいつら」 ベルクが届かぬツッコミを入れるも妙な動きをする二人に気付き、そちらに注意を向かせた。 一方。 「……こそこそとまた」 ロズがジブリールの悪戯に便乗しようとする双子を発見し、それぞれの手にある箱を取り上げた。 「ちょっ、離せよ」 「もっと盛り上げようとしただけだろ」 双子はロズをにらみ、文句を垂れるが 「……主催する祭りを台無しにするな」 ロズは厳しい調子で渡す様子は見せない。端から見たら兄弟のやり取りに見えるだろう。 コンボのフィニッシュは 「おい、別行動は禁止だ」 別行動をしようとする女双子を止めるベルクの鋭い声だった。 「そんなんじゃないよ。別行動して悪戯なんてしないよ」 「この世界のお祭りをヒスナとゆっくりと楽しもうとしただけで」 引き止められた女双子はくるりとスカートを翻しベルクの方に向き直り厳しい言い訳を並べる。 「……悪いが、言い訳は通じねぇぞ(世界や性別違っても同じだな)」 こちらの双子を知るベルクは世界が違っても同じ性質の二人の行動を見抜き呆れた。 「……むぅ」 女双子は楽しみを奪われぷぅと頬を膨らませ不満顔でベルクをにらんだ。 その時、 「!!」 頭上から茶色い何かが降って来て双子達の相手をしていた保護者は一様に空を仰ぎ、正体を確かめる。 その正体は 「マスター、見て下さい! 甘い花が降って来ますよ!」 花の形に細工されたチョコレートだった。 フレンディスは降って来る甘い物に目を輝かせ手に取ると何の躊躇いもなくぺろりと食べて 「……とても甘くて美味しいです」 ぱぁと笑顔で満足の顔になった。 「チョコの花だからね。小さい箱だから10分で終わっちゃうけど、面白いよね。みんなびっくりしてるし」 ジブリールは楽しんでいるフレンディスを見た後、突然のチョコの花に驚く通行人を見て悪戯な笑みを浮かべ満足していた。 「そりゃ、チョコの花が降ったらな(これが大きい奴や派手な奴になったら惨事だったな……何とかロズのおかげで防げたか)」 ベルクは悪戯をしたのがジブリールで良かったとひとまず安堵していた。 一通り通行人の反応を楽しんだ後、 「それじゃ、次行こう!」 ジブリールは双子達を急かした。 「おう」 「どんどん、お菓子を配って行こうぜ」 双子は俄然やる気である。もうすでに次のお菓子をスタンバイしている。 「次はあっちの通りに行こうよ」 「人が沢山いた方が楽しいよ」 女双子は人通りが良さそうな場所を示したりと祭り最後まで楽しむ気満々である。 「ジブリールさんが楽しそうで何よりです」 フレンディスは年相応に振る舞うジブリールの様子に喜んでいた。 「……無事に祭りが終わればいいが」 「……あぁ、そうだな。俺も何とか手を貸す」 本日一番の苦労人であるロズとベルクは気苦労地獄の始まりに深い溜息を吐き出した。 この後、あちこちで五人組は悪戯をしては騒ぎを起こし苦労人二人は止めようとかけずり回った。フレンディスは楽しそうに見守り五人を冗長させた。 もちろんジブリールは楽しむ中にも自制心で人に迷惑を掛けないように気を付けていてやり過ぎて人に迷惑をかけると逃げずに 「……迷惑を掛けてごめん」 と素直に謝ったという。 とにもかくにも賑やかな祭りとなったという。