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終りゆく世界を、あなたと共に

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2.終りゆく世界を、あなたと共に

「まあ、大家さんの都合で出ていかなきゃならないってことだから、家賃ためての夜逃げじゃない分ましってもんさ。これまでお世話になった分、きれいにして返さなきゃねぇ」
 高崎 トメ(たかさき・とめ)はそう言った。
「オンナのたしなみとしてはね。無様なみっともないさまを後に残してはいけないわけよ。これでも何人もの男を手玉にとった小梅さんなんだから。あとは綺麗にして、いきたいわよね」
 高崎 シメ(たかさき・しめ)は、そう言った。
 だから、高崎 朋美(たかさき・ともみ)ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)は大掃除を始めた。
「まあ、おばあちゃんたちの言うことだから、間違いはないだろうって思うよ」
 終末を前にしての、大掃除。
 正直、実感は全然ない。
「終る時が、人間むつかしいんだよ」っておばあちゃんたちは言うけれど、自分はまだ死んだことが無いからピンと来ないのかもしれない。
 まだ、身近な人の死だってそんなに経験したことがないのに。
 そんな思いを抱きながらも、朋美は素直に片付けを続ける。
 トメとシメはきびきびした動きで片付け物をこなし、掃除を進めていた。
 あれだけ堂々としているのは、やはり一度死んでいるからこそなのだろうか。

「最終日が決まってるのはいいねぇ。あたしなんか、死んだときはすごく突然だったから、いろんなことがやりっぱなしでみんなに迷惑かけたはずなのよね。子供たちにも……あの人にも」
 片付けが終わったトメとシメは、次はどこからか大八車を見つけ、そこに荷物を詰め込んでいた。
「おばあちゃんたち、何をやってるの?」
 そんな2人に朋美が声をかける。
 大八車に乗った荷物は、まるで引っ越し道具。
「何って……この世界があかんなんだら、また次の世界を見つけて住まないとねぇ」
 平然とした顔で、トメは答えた。
 世界が終わるということは、この世界から立ち退きを命じられた――それが、トメたちの認識だった。
 ならば、また、新しい世界を見つけて住めばいい。
 それが見つかるまで放浪すればいい。
 それが、かつて駆け落ちをして、その後も色々あった猛者であるトメたちの結論。
「まあ、まずはきちんと掃除と身辺整理をすることだよ」
「身辺整理……あ」
 トメとシメの言葉に、朋美は何を思いついたのかはっと顔をあげる。
 あった。
 朋美にも、やらなければいけないことが。
 それは、これまでずっと先送りにしてきたことだった。
 あまりにも、「それ」が日常過ぎて、疑うこともなかったこと。
「シマック」
 朋美が向かった先にいたのはシマックだった。
 シマックは黙々と重い荷物を大八車に積み上げていた。
 世界の終りについて、トメやシメとは違った――ごくごく現実的な認識を持っていたシマックは、それでも彼女たちに逆らうことなく片付けと荷造りを手伝っていた。
(まあ、こんな終わり方も悪くないかな……)
 そう思っていた矢先に、朋美に声をかけられた。
「何……」
 シマックが返事をしようとした矢先に、朋美はシマックに告げる。
 世界が終わる、その前に。
「ずっと大好きだったよ。新しい世界ででも、ボクの隣にいてくれる?」