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羽田空港
「みんな、集まったか?」
空港の広いロビーで声を張るのは、山葉 涼司(やまは・りょうじ)。
今回の修学旅行は、必須科目ではないので希望者のみの参加だが、それでも100名以上が集まっている。
しかも、いわゆる「遠足前夜の小学生」状態の100名だ。
涼司の声が、どこまで届いているものか……。
さらに、西シャンバラの生徒ではなさそうな顔もちらほらあるのだが、そんなことは気にしない涼司だった。
「今から、各国に向かう飛行機にそれぞれ乗ることになる。ここから別行動だ。各自、責任を持って行動しろよ!」
2010年に国際化した羽田空港。
2020年現在、ヨーロッパ各国に向かう飛行機も就航している。
ここからドイツはフランクフルト空港、フランスはシャルル・ド・ゴール空港、イギリスはヒースロー空港、イタリアはレオナルド・ダ・ビンチ国際空港へと、それぞれ飛び立つ。
さらにそこから目的地別に班を作り、またある者は単独で、電車や各国の国内線を利用して別行動をすることになる。
ヨーロッパに二泊三日というのは、ぎりぎり一カ国、しかも目当ての一カ所を観光できる限界のスケジュールといえるだろう。
たとえばドイツのフランクフルトへは、約12時間のフライトを要する。
そこから、さらにそれぞれが見たい場所への移動もある。
移動にかなりの時間と体力が割かれてしまい、そのぶん観光時間が削られてしまうのは致し方ないことだ。
これが、シャンバラから日本、そしてヨーロッパへと往復する今回のプランの限界でもあった。
少しでも長く現地で楽しめるよう、日本を出発するのはお昼時である。
ヨーロッパと日本はおよそ8時間の時差があるため、この時間に出発すると、到着時にはちょうど朝。
到着後すぐに丸一日、観光を楽しめるのだ。
それぞれの国で旅を楽しんだ後、再びこの羽田空港で集合するまで、他国に向かう友人らとはしばしの別れである。
あちこちで「そっちの国のおみやげもよろしくね」などといった会話が交わされていた。
そんなわけで、八割方の生徒たちが、涼司の出発前の演説なんぞ、聞いていなかったのである。
涼司も、それを充分理解したうえで、声を張っていたのだけれど。
『羽田発、ヒースロー行き604便にご搭乗予定のお客様。まもなく、機内へのご案内を開始します』
いよいよ、彼らの乗る飛行機が飛び立つ時間が近付いた。
涼司は、誰も聞いちゃいない挨拶を、さっさと終えることにした。
「……ま、そんなわけだから、悔いが残らないようにしっかり楽しんでこいよ!」
こうして、西シャンバラ合同修学旅行が始まったのだった。
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