葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

女王危篤──シャンバラの決断

リアクション公開中!

女王危篤──シャンバラの決断
女王危篤──シャンバラの決断 女王危篤──シャンバラの決断 女王危篤──シャンバラの決断

リアクション



アイリス

 旧シャンバラ宮殿。
 東シャンバラ総督アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)は、幾何学的に形状と輝きを変えていく天井を、見るともなしに見上げていた。
(これが古代シャンバラ風か……あまり馴染めるモノじゃないな)
 そこに、しゃちほこばって従龍騎士が入ってきた。宮殿に忍び寄ろうとしていた西側兵士を捕らえたが、高原 瀬蓮(たかはら・せれん)が代表を務める使節団がどうのこうのと話している、と伝えた。
「使節団? 瀬蓮に何かさせようと企んでいる奴がいるのか……?
 とりあえず、ここに連れてきなよ。僕がじきじきに話を聞いてやる」

 しばらくすると、従龍騎士たちがグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)を引っ立ててくる。武装解除されているが、もともとグレンたちは争いに来たわけではなく、半ば自主的に武器は外していた。
 グレンは、彼を傲然と見るアイリスに言った。
「見ての通り、俺達は西側の者だが……戦いに来た訳じゃない……
 アムリアナ女王を見舞う使節団の者として……アイリス・ブルーエアリアル……お前のアムリアナ女王を励ます言葉をもらいに来た……」
「帝国がシャンバラ人の見舞いを受け入れるとは思えないな。仮にそうだとしても、僕がシャンバラ女王に言葉をかける理由なんてないね」
「あの、そうではないんです」
 ソニアが割って入り、帝国から使者があった時点から使節団について説明する。
 改めてグレンは、アイリスに頼んだ。
「女王が無理なら…『ジークリンデ』に対しての言葉でも……それでも無理なら…『死に瀕している一つの命』を励ます言葉でもいい……
 エリュシオンの皇女という立場を気にしているのなら……お前のパートナー、瀬蓮にアドバイスとして伝えるのでも構わない……それなら周りからは皇女アイリスの言葉ではなく……使節団の東側生徒代表、高原瀬蓮の言葉として扱われるはずだ……」
「はず? 根拠のないカラ手形で僕をたぶらかそうって魂胆か。
 僕が発言した言葉は僕のものとして扱われる。
 君たちがシャンバラ女王を殺そうが生かそうが、僕の知った事じゃない。唯一、彼女に声をかけるなら、『無駄な抵抗なんかしてないで大帝の言うとおりにした方がいいよ』という事だけだ」
 アイリスはグレンの発言に、逆に心証を害したようだ。
 ソニアはなんとか彼女を説得しようと、懸命に頼む。
「瀬蓮さんは今、何をすればいいのか悩んでいるようなんです。
 貴女の女王を励ます御言葉を瀬蓮さんに伝えて頂けませんか?」
 パートナーの名を出され、アイリスの態度がわずかに変わる。
「セレンが? ……後であの子には電話しておこう」
 その言葉にソニアの表情がぱっと明るくなったが、アイリスはぴしゃりと言った。
「だけど、シャンバラ女王へのメッセージはなしだ。
 大帝と龍騎士団には、使節団が女王へのメッセージを使って何事か企んでいるようだから気をつけるように伝えておく。
 ……セレンを気にかけてくれた事には礼を言っておこう」
 アイリスはソニアの頭を軽くなでた。
 その後、グレンとソニアは来た時と同様に、従竜騎士に引ったてられて旧宮殿を出された。宮殿からだいぶ離れた所で、開放されて武器も返却された。
 従龍騎士の態度から、本心ではアイリスに不遜な態度をとったグレンは帰さずに首を落としたいくらいのようだ。しかしアイリスがソニアを評価した事から、特に危害を加える事もなく、無事の解放に至ったらしい。
 帝国人にとっては、アイリスの一言一句、一動作が非常に大きなものとなるのだ。


 アイリスは従龍騎士や龍騎士を下がらせると、携帯電話を取り出した。少し驚いた表情で、電話に出る。
「セレンかい? ちょうど良かった。僕も今まさに君に電話しようとしてたんだ」
 電話口からは、聞きなれた可愛らしい声が響く。アイリスのパートナー高原 瀬蓮(たかはら・せれん)だ。
「そうなんだ。えへへ、嬉しいな」
 瀬蓮は楽しそうに笑った。そのリラックスした様子に、アイリスはほっとする。
「心配していたんだ。君、帝国が保護するシャンバラ女王を見舞う使節団の代表にされたんだって?」
「うん! 今日は歩とお雑煮作って、団員の皆にあげたんだよ」
「お雑煮……?」
「あのね、お餅を入れて、そうそう、ダシも取って……」
 瀬蓮の話は要領を得ない。彼女の隣にいた七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が代わって説明する。
「あたしも一緒に帝国に行くの。他にもロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)さんや瀬蓮ちゃんと仲良しの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ちゃんも一緒だよ。皆で行くから大丈夫!」
 アイリスはほっと息をつく。
「そうか。だったら良かった。セレンの事、よろしく頼むよ」
「うん!」
「……あと、セレンが言ってたお雑煮ってどういうことだい?」
「使節団が西と東でちょっとギスギスしてたから、瀬蓮ちゃんたちと一緒にお雑煮を作って、団の皆に振舞ったんだ。他にも、皆で一緒にメッセージの取りまとめとかして、なるべく雰囲気がよくなるようにしてるから心配しないで」
 そこに瀬蓮が割り込む。
「アイリスもケガとかしちゃ駄目だよ!」
「僕なら負けないから大丈夫」
 おたがいに無茶をしないように念を押し合って、電話は終わった。