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シャンバラ独立記念紅白歌合戦

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シャンバラ独立記念紅白歌合戦
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リアクション

 
「さあ、次は紅組と白組、共に『大切な人へ捧げる歌』勝負です。
 まずは先攻、紅組。月代 由唯(つきしろ・ゆい)、『You are tender』、どうぞ!」

 エレンの紹介を受けて、由唯がステージに上がり、バックバンドが演奏するバラード調のメロディーに身体を預けていく。
 自身の紹介のされ方、白組の歌い手が誰なのか、気になる点はいくつかあったが、作詞作曲に協力してくれたパートナーのため、そして何より、心に想う『あの人』のため、由唯は心を込めた歌声を響かせていく。
 
 いつもは 形振りなんか 気にしないけど
 時々 優しく 接してくれる
 
 気が付いたら いつの間にか 惹かれていた
 
 女の子に 声かける あなたがいる
 それを 追いかける 私がいる
 
 素直になれなくて 本音を言えなくて
 今日も…… 不器用に接している
 
 あなたを想う度 胸が苦しくなる
 本当は何を 考えて 想ってるんだろう?
 一瞬だけでいいから もっと私を
 見て欲しいと願うのは ……欲張りかな……
 
 人外れた 暗い道を 歩んでいる
 それを 追いかける 私がいる
 
 ちゃんと触れてないと 消えてしまいそうで
 今日も…… 不器用に接している
 
 あなたを想う度 胸が苦しくなる
 どうしていつも そうやって 笑ってるんだろう?
 あなたの背負うもの せめて少しだけ
 私にも背負わせて! ……一緒にいさせて……

 
 曲の間、由唯がチラリと向けた舞台袖に、次の歌い手らしき男性の姿が映る。
 白地に金の縁取りがされたコートとスラックスが見えたが、肝心の顔はうかがい知ることが出来なかった。
 
 いつもは 形振りなんか 気にしないけど
 本当は 優しいこと 知ってるよ
 
 素直で無くていい 本音も無くていい
 今日も…… いつものあなたでいい

 
 歌い終えた由唯へ、観客の惜しみない拍手が届けられる。
 照明が落とされ、スポットライトがステージに出てきたクロセルの姿を照らす。
 
「審査員の皆様は、次の白組の歌い手が歌い終えてからの審査をお願いします。
 ……さあ、対する後攻、白組。エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)、『誓いの深淵』、どうぞ!」

 
 クロセルの紹介を受けてステージに現れたエッツェルを見、既に強烈な衝撃を受けていた由唯が、改めて衝撃を受ける。
 全ては、二人の関係をエレアの調査によって把握した、エレンとクロセルの即興の仕掛けだったのだ。
 
 歪んだ過去を彷徨い
 孤独と共に
 
 肌に刻んだ赤い鎖が
 ココロに問い続けていた運命を
 
 狂気の闇の中に この身を沈めて
 秘めた夢が 目覚めないように
 深淵を照らす 天使(あなた)の微笑み
 濡れた頬に重ねた傷跡
 
 強く熱い想いを
 あなたは放ち
 強く凛とした瞳預けて
 素直になれずとも その想いはまっすぐに
 
 あなたを汚す事は出来ずに
 離したこの手に縋る苛立ち
 
 嘆きの闇でひとり存在を告げた
 耳を塞ぐ無言の咎に
 深淵に響く 天使(あなた)の囁き
 触れた過去と今は眠りたい
 
 出会えた奇跡にこの祈りを
 
 狂気の闇の中で繋いだ望みが
 秘めた夢に降り注ぐなら
 今はその瞳だけで信じてみるから
 その未来に導かれよう
 
 静寂の闇の果て 天使(あなた)との誓い
 己の狂気と向き合う勇気を
 深淵を裂いた 天使(あなた)の歌声
 翼広げ私を包んだ

 
 歌い終えたエッツェルにも、観客の惜しみない拍手が届けられる。
「いかがでしたでしょうか? それでは審査員の皆様、審査をお願いします。
 ……なお、事実と異なる場合はお申し付けください、後で編集し直します」
「私の元にある情報はどれも確度の高いものですわ。詳しい情報源についてはもちろん申せません」

 クロセルとエレンのやり取りが交わされる中、審査員が二人の審査を始める。
 
「…………」
「おい、さっきから恋愛系の歌は点数低くしてるだろ。もてない男のひがみか?」
『公正な判断に務めるべきだ』
「まあ、こんなところじゃな」
「粋な計らいでありんすねぇ」
「うーん……知らずにこんなことされて、二人とも困ってないかな?」
 あれこれとやり取りがありつつ、審査の結果が発表される。
 
 紅組
 涼司:9
 鋭峰:6
 コリマ:8
 アーデルハイト:8
 ハイナ:8
 静香:8
 
 合計:47
 
 白組
 涼司:9
 鋭峰:7
 コリマ:8
 アーデルハイト:8
 ハイナ:8
 静香:7
 
 合計:47
 
「おーっと、決着はつかず、引き分けです!」
「まあ、差が付いたらそれはそれで問題ですね」

 
 二人に配慮したのか、点数は奇しくも一緒であった――。
 
 
「さあ、次の歌は宇佐川 抉子(うさがわ・えぐりこ)、『どっこい食器 はろースプーンの歌』……まあ、マズかったら編集し直せばいいでしょう。
 それでは、どうぞ!」

 エレンの紹介を受けて、抉子がステージに立つ。右手にねじくれたスプーン(ちゃんとマイク機能が内蔵されている特注品)を握り締め、
「歌いますっ!!」
 スプーンへの想いを込めた歌を熱唱する。
 
 父ちゃんも じぃちゃんも ばぁちゃんも
 コリマくんも マンドリルも

 ブートキャンプに行くのなら
 スプーンで食えっ! スプーン!!

 
 生み出される軽快な音楽と歌詞とのギャップに、コリマを除く全員の審査員がズッコけ、一部のマニアを除く大多数の観客が呆然とする。
 一人、抉子だけが周りの反応など全く気にせず、歌い続ける。
 
 もりもり美味しく食べられる〜
 「壮絶な…輝きっ…」
 
 この時の抉子の顔は、何と表現すればよいのだろう、まるで天にも昇る心地のようであった。
 
 スプーンは食器の宝なり
 
 歌い終わり、はふんっ! と誇らしげな表情を抉子が浮かべる。
(全ての人々にスプーンの素晴らしさが届きますようにっ! スプーン……はぁはぁ!)
 恍惚に浸る抉子とは対象的に、審査員席、および殆どの観客席には、冬の北風が吹き抜けていた。
 当然、点数も相応のものが予想されたが――。
 
 涼司:3
 鋭峰:3
 コリマ:30
 アーデルハイト:3
 ハイナ:3
 静香:3
 
 合計:45
 
「おいコリマ! あんだけ公正な判断に務めるとか言っときながら、思いっきり贔屓してんじゃねぇか!
 っつうか30点ってなんだよ! 機械バグらせてんじゃねぇ!」
『……………………』
「あくまで沈黙を貫くか。……吐かせるのは、困難を極めるであろうな」
「流石はファーストコントラクターといった所じゃな」
「大人気ないでありんすねぇ」
「えーっと……あ、あはは……」
 
 審査員のそんなやり取りを意にも介さず、歌い切って満足そうな表情の抉子が意気揚々とステージを後にする――。
 
 
「はー、輝お兄ちゃんもシエルお姉ちゃんも、とってもきれいだにゃー♪」
 控え室で、神崎 瑠奈(かんざき・るな)の仕立てた衣装を纏った神崎 輝(かんざき・ひかる)シエル・セアーズ(しえる・せあーず)が、鏡の前でくるり、と身を翻したりして、着心地などを確認していた。
「うん、問題なし! シエルの方は?」
 水色基調のセーラー服にミニスカートをなびかせ尋ねる輝に、シエルが頷いて答える。
「私の方も大丈夫! 頑張って歌うからね♪」
 その時、扉がコンコン、と叩かれる。瑠奈が応対に出ると、一行の前に『846プロ』社長である社が姿を見せる。
「君達の様子を見に来たで〜。見たところ、準備万端、って感じやな」
「あっ、社長! ……と、そちらの子は?」
 社の背中に隠れるようにしていたクロエが、好奇心やこの初めての事態を楽しむような面持ちで一行に自己紹介する。
「この子も紅白に出場してもらうんやで。先輩として、いいとこ見せたってな!」
「はい! ボクたち、846プロのアイドルとして恥じないステージにしたいと思います!」
「初めてなので分からないこととかありますけど、できれば846プロの宣伝もやれればと考えています」
「嬉しいこと言うてくれるな〜。俺も全力で応援しとるで! 君達の想いをこの大舞台でめいっぱい表現してきてや!」
 社の言葉に輝とシエルがはい、と頷いたところで、再び扉の外からノックの音が響き、スタッフがスタンバイの旨を告げる。
「それじゃ、行ってきます!」
「頑張ってな〜」
 部屋の外で輝とシエル、瑠奈を見送る社に、クロエが首をかしげつつ尋ねる。
「やしろおにぃちゃん、『しゃちょう』ってなあに?」
「そやなぁ、みんながやりたいことをやれるよう、輝けるよう、頑張る人のことやな」
「ふえー。やしろおにぃちゃん、すごいのね!」
「そやそや。846プロはまだまだ大きくなるんやで。……さ、クロエちゃんも準備しよか!」
「うん! わたしね、ここにくるまでにうた、かんがえてきたの! それうたってもいい?」
「おぉ、えらいで〜クロエちゃん。よっしゃ、早速話を通しとこ!」
 社が、クロエのステージプロデュースに奔走する中、輝とシエルのステージが始まろうとしていた――。
 
「846プロ所属のアイドルデュオユニット、『Sailing』。曲は『VOYAGE』、どうぞ!」
 エレンの紹介を受けて、瑠奈が舞台袖で見守る中、輝とシエルがステージに立つ。
 ピアノを伴奏に、スポットライトに照らされた二人の想いが出航する。
 
 青い空、白い雲の下 僕等の船は旅に出た
 新しい大切な何かを 手に入れるために
 この広い海の向こうには 何が待っているんだろう?
 
 実際旅に出てみると 期待だけでなく不安もあるよね
 本当に この航路で正しいのか?
 本当に 大切なモノを手に入れられるのか?
 それは 仕方のないことなんだけど
 
 でも そんなに心配しなくてもいいんじゃないかな
 大丈夫 ずっと進めば いつかどこかに辿りつけるから
 だから 諦めないで この海を皆で進んでいこう

 
(2020年、シャンバラという国の歴史が始まりました。
 期待、不安など……色々な想いがあるかもしれません。
 ですが……難しいことは考えず、とりあえず祝い、楽しむことにしましょう。
 ボクたちの船は出航したばかり。未来がどうなるかはわかりませんが……きっとうまくいくと信じています。
 明けない夜はないし、嵐ばかりの海もないのですから)
 
 輝のそんな想いが詰まった歌が終わり、観客から温かな拍手がもたらされる。
(……そうだね。不安はたくさんあるかもしれないけど……僕も頑張ろう)
 この歌に少しの勇気をもらった静香が、他の審査員が、採点の結果を発表する。
 
 涼司:9
 鋭峰:7
 コリマ:8
 アーデルハイト:8
 ハイナ:8
 静香:10
 
 合計:50