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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【5】暗雲低迷……1


 明けて翌日。
 早朝、先見隊よりブラッディ・ディバインに関する報告が入った。
 一時、消息を絶っていた九龍たちの足どりが掴めたと言うのだ。
 野営地からそう遠くない場所で目撃された彼らは武晴廟方面に移動しているとの知らせだった。
「……今から移動を始めれば、奴らを待ち伏せることが可能だな」
「ヴァラーウォンドの方は如何しましょう。隊を戦闘と探索の2部隊に分けることも可能ですが」
「いや、全軍をあげて討伐に向かう。もっとも避けねばならんのは、不浄妃と九龍に挟撃されることだ。まず一方を全力で潰す。相手はたった9人。手練れの暗殺者だか知らんが、我らの敵ではない」
 1時間後、正式に不浄妃の追跡中断が通達され、ブラッディ・ディバイン討伐が発令された。
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 廃都の大路を行く九龍一派はふと足を止めた。
 ただ風が吹き抜ける音だけが聞こえる。それ以外は何もない。
 しかし、九龍は勢いよく振り返り、大路を囲む建物の屋根に目を向けた。
「……九龍だな。貴様には逮捕命令が出ている。大人しく身柄を渡せとは言わん。せいぜい抵抗して見るんだな」
 メルヴィアは獲物を狙う獣の目で見下ろした。屋根の上には、前線部隊に志願した精鋭隊員たちが並ぶ。
 更に、この場所の半径500メートル圏内に残る探索隊員が配置。鼠一匹逃さない包囲網が完成していた。
「確保しろ」
 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は発令されるや待ってましたとばかりに飛び出した。
 ライド・オブ・ヴァルキリーで底上げされた強化光翼は飛空艇の4倍の速度。
「散ッ!」
 凄まじい速度で突っ込む彼女に、九龍たちは散開。そのまま九龍と供回りを分断する。
「よーし、よくやったで、リーズ」
 焔の魔術士七枷 陣(ななかせ・じん)は屋根の上から供回りたちを見下ろした。
 ピピピピとハイドシーカーが敵の戦闘力を測定する。
「ほぉ総合EXP30万に40万……。金魚のフンとは言え流石鏖殺寺院の凶手やな、中々の強さだ。因みに……オレの総合EXPは約62万、歌菜ちゃんにいたっては約80万や。勿論フルパワーでお前らをツブしたるからご心配なく」
「何しろ力があり余っているんです。ちょっとやりすぎてしまうかも、ですね」
 遠野 歌菜(とおの・かな)はふふふと笑った。
 とその時突然ハイドシーカーが爆発を起こした。
「ど、どうしたの、陣さん?」
「な……なんや、ハイドシーカーが故障しとるみたいや」
 機械を屋根に叩きつける陣の傍を、旋回して戻ったリーズが通り抜けた。
 龍骨の剣を構え、切りもみしながら斬りかかる。
「いっくよーっ!」
「…………!」
 供回りの黒道士は腕で一撃を受けた。
 しかし、彼女はすぐに離脱。速攻で体勢を直し、すれ違い様に幾度も斬りつける。
「とどめぇーっ!!」
 死角に回り込むと、速度を刃にのせブラインドナイブスを繰り出す。
 ところが、黒道士はひらりとそれをかわし、必殺の蹴りを反撃に叩き込んだ。
「きゃあああ!!」
 コントロールを失い、彼女は建物の二階部分に突っ込んだ。
 トドメとばかりに黒道士は跳躍。拳法の型を構える彼……だが、その鼻先を銃弾がかすめる。
「おまえの相手は自分がするであります」
 金住 健勝(かなずみ・けんしょう)中尉は碧血のカーマインを連発。黒道士に陽動射撃を仕掛ける。
 敵が誘いに乗ってくるのを確認し、レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)に目配せ。
 彼女は素早く建物の二階に上がり、傷付いたリーズを助け起こした。
「痛いよぅ……」
「大丈夫です、傷は大したことありません」
 涙目の彼女を慰め、命のうねりで傷を癒す。
「ほぼ壊滅状態と聞いていましたが、まだ鏖殺寺院も強力な戦力を残しているんですね……」
「でも、なんかヘンだよぉ」
「ヘン?」
「あいつ、死角から攻撃したのに避けた。ううん、今までの攻撃もそう。素手で攻撃を受けてるのに、すごく硬いの」
「それって、まさか……」
 レジーナは屋根の上で戦う健勝を見た。
 気が付けば、更に2人に囲まれ追い込まれている。
「陽動し過ぎたであります……」
 たらりと汗を流しつつ、迫る道士の肩や膝を撃ち抜く。
 けれども防御をするそぶりすらなく受け、彼らはそれでも平然としている。
「ど、どういう身体をしてるでありますか!?」
「健勝さん、ここは俺が……!」
 健勝の真横を一陣の風が吹き抜けた……刹那、目の前のひとりが宙を舞った。
 風の正体は、光学迷彩を使う教導団中尉大岡 永谷(おおおか・とと)
 ヴァーチャースピアの連撃を黒道士に放つ。だが、敵はひらりひらりとこちらの攻撃を見切る。
「……そうか、そう言うことか」
 永谷は迷彩を解除。そして、槍を払って道士の外套を引き裂いた。
 その下からあらわれたのは、額に護符を貼った紛れもないキョンシー。
「どおりでこっちの攻撃が読まれるわけだ」
「し、屍人と戦っていたでありますか」
「だがこれで、対応策は判明したな」
 2人は頷くや、健勝は光条兵器の銃、永谷は火術で攻撃を仕掛けた。
 炎が護符を焼くと使役の術が解け、身体が硬直したままの状態に戻った。
 そして、光弾が一体を蜂の巣にする。とそこへ、隣の屋根から援護射撃が飛んで来た。
「ターゲット……マルチロック。行きますっ!」
 小尾田 真奈(おびた・まな)は『ハウンドドッグR』で残る2体をまとめて吹き飛ばす。
 爆風が屋根瓦を空に散らす中、1体がバラバラになって屋根から転がり落ちた。
「……もう1体は?」
 ピピピピと彼女のハイドシーカーが反応。
 銃をくるくると回しホルダーに戻し『トンファーブレード・1st』を構えた。
 次の瞬間、煙の中から飛び出してしたキョンシーに一閃。
 突き出された爪を刃でいなしつつ、自らの身体を回転、一回りして両断する。
 頭半分を失った敵はそのまま屋根から滑り落ちた。
 敵、供回りのキョンシー、残り5体。
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「……なるほど、敵はキョンシーかいな。死体とお友達やなんて暗い奴やなぁ」
 陣は肩をすくめた。
「ま、そう言うことなら、ピッタリの歓迎を用意したるわ」
 カッと目を見開き、眼下のキョンシーをファイアストームで薙ぎ払う。
 そのうち3体はからくも炎から逃れたが、残りの2体は飲み込まれた。
「うーん、惜しい。まぁええわ。出番やで、歌菜ちゃん!」
「了解、陣さん!」
 二槍の飛竜の槍を手に、歌菜は火炎立ち上る戦場に参じる。
 まず、見つけたのは直撃を受けたであろうキョンシーだった。右半身が炭化し、護符もなくなっている。
「それでもまだ牙を剥くのは流石不死者と言うところか」
 歌菜の夫、月崎 羽純(つきざき・はすみ)はそう言うと彼女にパワーブレスをかけた。
 怪力の籠手の力を槍に伝え、歌菜はシーリングランスを繰り出す。
「はあああっ!!」
 一撃必殺。既に崩壊しつつあった敵はバラバラになった。
「あ、シーリングランスあんまり意味なかった……」
「ううむ、そもそもキョンシーはスキル使えるのかって話だが……むっ!?」
 羽純は振り返り、二対の槍を交差させるとキョンシーの不意打ちを防御した。
「殺気が見え見えだ」
 敵は半分炎に包まれてはいるものの、護符はまだ燃えておらず、機敏な動作で技を放ってくる。
 掌打二連撃からの浴びせ蹴り。しかし、オートガードとオートバリアで守りを固めた彼の防御は鉄壁である。
「あんまり調子に乗るな、よっと」
 槍で足元を薙ぎ体勢を崩す。
「歌菜!」
「任せてっ!」
 くるくると両手の槍を回し、大回転薙ぎ払い。バラバラに散らかされた敵は地面に転がった。
「あと3体か。さて、どこに逃げやがった……?」
 陣がそう言ったその時、突然、奥の建物が崩壊した。
 なんだろう、と考えるより先に、歌菜たちに向かって叫んでいた。
「逃げるんや!」
 彼女たちがその場から退いた瞬間、目の前にあった建物が吹き飛んだ。
 巻き上がる塵の中、こちらにゆっくり向かってくる人影がある。
 闘気を全身から放つこの男の名は三道六黒。血に飢えたヘルハウンドを伴い陣たちの前にあらわれた。
「ちっ、何しに来やがった……!」
「知れたこと、わしが求めるは戦場よ!」
「はっ! だから鏖殺寺院と手ぇ組んだってわけかい!」
「誰と組もうがわしの勝手。譲れぬものがあると言うなら、求めるものに値するだけの力を見せよ」
「ヴァラーウォンドは渡さねぇ!」
「わしは目の前の戦闘に興ずるだけだ。その先の最強を得るために。さぁ舞台は整えてやった。では始めようぞ」
 クライ・ハボックの雄叫びが大気を揺るがす。
 六黒は一気に距離を詰め、陣の頭上から大剣を降り下ろした。
「うおおおっ!!」
 間一髪、回避したが、ギカントガントレットで強化されたその一撃は大地ごと陣を吹き飛ばした。
「陣さん! 今、私が!」
「させねぇ!」
 地面から突然飛び出した砂鯱が彼女を突き飛ばした。
「ハッハッハッ! ざまぁねぇな!」
 鯱に股がる羽皇冴王は狂ったように笑った。
「この悪党が……!」
 睨み付ける羽純に、彼はギラギラした視線を返す。
「弱い奴が悪ぃンだよ! てめェらが俺らを悪と呼びてぇなら、御託並べる前に俺らを殺してみせろや!」
 冴王はそう言って、スイッチを押す。
 途端、ところどころに設置された機晶爆弾が爆発。付近に配置された探索隊をパニックに陥れた。
「今のは痛かった……」
「ああ?」
 歌菜はむくり起き上がった。
 着込んだ魔鎧『六式』のおかげか、ダメージはほぼない。
「ちょっぴり痛かったです! 倍返しさせてもらいます!」
「せやな……」
 ふと、陣も瓦礫の下から立ち上がった。
「もろうたもんはしっかり返さんとなぁ!」
 両手から蒼紫の業火を放ち、立ちはだかる2人を睨み付ける。
「おもしれぇ! かかってこいや!」
「よかろう。その力、わしに見せてみろ」