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リアクション
【4】悪鬼羅刹……2
夜の廃都。
こんな時間だと言うのに、弥涼 総司(いすず・そうじ)はキョンシーとの修行に駆り出されていた。
飛良坂 夜猫(ひらさか・よるねこ)の指導の元、彼女が連れて来たキョンシー達と拳を交える。
しかし、総司は大分不服そうだった。
「く、くそぉ……騙されたぜ……!」
「おぬしがやる気出るよう女のキョンシーばかり見繕ってやったのに……なにが不満だと言うんじゃ」
「モンスターの乳なら見ようが揉もうが問題無ぇ……そう思ってた時期が私にもありました」
ブスくれた顔で言うと、キョンシーの胸に突きを打ち込む。
普通むにゅむにゅした感触を期待するところだが、頑丈なキョンシーゆえ手応えは面白くもなんともない。
「固いんだよっ!!」
「まったく……我が侭なヤツじゃ。ほれ、これでどうじゃ、サービスしてやる」
女キョンシーに高速接近した夜猫は、ヴァルキリーの脚刀で纏った衣服をビリビリに引き裂く。
適度に露出された青白い肌に、総司のテンションが上がり……下がり、そして上がったかに見せかけ下がった。
「ちょっとコーフンしたが、にゃんにゃんバトルが出来ないんなら意味がねぇ!」
そう言って、逃亡した。
「うう、オレはもっと柔らかい女と触れ合いたいんだーっ!!」
「やれやれ、じゃわい……」
あわてて追いかける夜猫だったが、彼はあっという間に女体欠乏症となり正気を失った。
まぁ元々正気だったのかどうか怪しい部分もあるが、その辺のことはあんまり気にしないように。
「生の女……URYYYYY!」
探索隊の野営地を発見すると、一点の無駄のない動きでメルヴィアのテントを突き止めた。
テントとテントの隙間に忍び込むや、目ざとく布の穴を見つけ中を覗く。
「む……この女は!?」
門外不出ののぞき手帳をパラパラとめくった。
「オレランクA、教導団のメルヴィア大尉じゃないか。なかなかオレ好みのいいおっぱいを持ってるんだよなぁ……」
しかし、どうも彼の知ってる大尉のイメージと違う。
彼女はイチゴ模様のピンクのパジャマに、大きなくまのぬいぐるみを抱きしめていた。
「あのねあのね、今日は皆と一緒に怖いお化けのいるところに行ったの。メル、お化けとか苦手なのにぃ。どうしてこんな任務振られるのかなぁ。もうやだよぉ。ううん、ちゃんとやったよ。お仕事だもん、頑張らなくちゃ」
その光景を目の当たりにし、総司の頬を冷たい汗が流れた。
「大尉殿がぬいぐるみさんとお喋りしておられる……!」
見てはいけないものを見てしまった……と思ったその時、隣のテントから誰かが出て来た。
「はぁー、おトイレおトイレ……ん?」
仮面の紳士クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)はピタリと固まった。
「……だ、誰なんですっ!?」
「しいて言えば、夢追い人……かな」
総司は覗き穴から一瞬たりとも目を離さず答えた。
お茶の間のヒーローを自称する人間として許しがたき犯罪行為の現行犯である。
「鏖殺寺院の暗殺者に警戒して、大尉の護衛を申し出てみれば、とんだ変質者が網にかかりました……!」
「誤解しないでくれ。オレは決して怪しいものではない」
「股間にテントを張ってテントを覗く人間が不審者じゃないとおっしゃる……!?」
「男なら穴があったら覗くのは自然の摂理。何一つ、この世の理に反してはいない」
何故、この男は悪びれると言うことを知らないのか。
クロセルも随分たくましい性格だと自負しているが、この男はなんか大事なものが壊れてる……そんな気がした。
「ものは試しだ。覗いてみろ。世界の理とひとつになれる瞬間を味わおう」
「……そもそも社会の理に反してますっ!!」
「どわあああああ!!」
渾身のロケットパンチが変質者を直撃。
そのまま総司は隙間をゴロゴロと転がり、そんでもって隊員たちが囲んでいた焚き火に突っ込んだ。
「ほぎゃあああああ!!」
「またひとつ、正義を行ってしまいました……!」
クロセルはピカっと白い歯を光らせ、画面の向こうの良い子達に親指をおっ立てる。
「良い子の皆、危ないからあのオニーサンの真似をしたらダメですよッ!」
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しかし!
その頃、もうひとつの危険がメルヴィアに迫っていた。
外は護衛隊員に警戒されている。この警戒網を突破して彼女に接触するのは不可能に近い。
では、どうやって女史のテントに潜入するか。答えは簡単だ。最初っからいればいい。
「!?」
ふと、運び込まれたトランクがひとりでに開いた。
中に収納されていたのは、身体を奇麗に折り畳んだクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)お兄さん。
「な、なんだ貴様は!?」
彼女ははっと自分の格好に気付き、あわてて毛布でパジャマを隠す。
「ああ、とうとうやってしまいました、お兄さん。すこし大胆な気持ちになれる異国の夜。ドSな美女を前にジッとしていられる男はいません。許される行為じゃないのは知っています。大丈夫、覚悟はでき……ひゃああああん!!」
望み通りの鞭が、しとどに打ち付けられた。
「私のプライベートタイムに忍び込むとは……。貴様、ただじゃすまさんぞ」
しかし、そのドスの効いた言い回しに、クドはビクンビクンと身体を振るわせた。
「ハァハァ……どう許さないって言うんですか。その鞭でどう攻め立てるつもり……はっ! まさかメルヴィアたん、鞭なんて優しいものではなく……斬糸でお兄さんをいたぶるつもりなのでは? 仕方がありません。はい、どうぞ」
なんら躊躇することなくグイグイ尻を突き出した。こういうのも誘い受けと言うのだろうか……。
「さぁ上官に不敬なお兄さんに指導を。お尻の割れ目にそって、斬糸をシュッて。シュッてやってください」
「…………」
しかし、メルヴィアは豚を見るような目で見下ろすばかりで、何一つ、彼の望むことはしてくれなかった。
「じ、じらし……!? ああ、この放置された自分の惨めさを思うだけで、アナスタシアへ行けそうです!」
また、ビクンビクンと痙攣したあと、クドはトランクからコーヒーポッドを出した。
カップに注がれた熱々のコーヒー、そして右手に握るはストロー。
「ハァハァ、メルヴィアたんほどの天才ならもう何をするのかわかりますよね。ええ、このコーヒーをストローで一気に吸います。これはお気に入りのおしおきでしてね。ささ、そこに座って、お兄さんののたうち回る姿を見てて下さい」
と、口を付けた瞬間、メルヴィアが言った。
「おい、何をしている」
「え……?」
「コーヒーを飲むのはそっちの口じゃないだろ」
その言葉の持つ美しさに、クドは感動のあまり泣いた。
どことは言わないが、とある穴スタシアにストローを差し、ゆっくりとコーヒーを流し込む。
「大尉殿! ありがとうございます! いただきまっつぇぁああああああ! あっありがっツゥうおおおおおお! えああああぁぁぁっ! おぅっほっ! とてもおいっツェッしぇエエええええああああぁぁぁぁああ!!」
すっかりコーヒーをごちそうになった彼は、その後、テントから放り出された。