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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【1】奇異荒唐……5


 武晴廟本殿。
 ずっと奥まで建物は続いているが、ほとんど光も差し込まず、中はよくわからない。
 しかし脚を踏み入れた瞬間、殺気看破、ディテクトエビル、禁猟区、あらゆる害意を察知する能力が一斉に反応した。
 とん、とん、と何かが弾む音がこちらに向かってきている。
「来るぞ」
 パイロンは言うや道袍の袖を払った。中から飛び出した符が壁に貼り付き、カッと光を放つ。
 照らし出されたのは、屍人キョンシーの一群。真っ白な顔と目の下の隈が特徴的だ。
 埋葬用の黒服と帽子を纏った出で立ち。腕をまっすぐこちらに突き出し、ピョンピョンと跳ねながら近付いてくる。
「悪霊退散、急急如律令!」
 パイロンは勢いよく袖口を払い、無数の護符を弾丸のように飛ばす。
 護符が敵に貼り付くや、素早く印を切った。
「散っ!!」
 次の瞬間、キョンシーの身体から黒い霧のようなものが噴き出し、抜け殻となったそれは床に倒れていった。
「それが噂の道術か……」
 柊真司は戦闘態勢をとったかと思うと……次の瞬間、その姿を消した。
 雷術で体内の電気信号を操作、超人的な反応速度でパイロンに接近するキョンシーの前に立ちはだかる。
 比較的単調なキョンシーの動きは行動予測しやすい。
「死人は死人らしく、じっとしていろ」
 突き出される鋭い爪を銃舞でいなし、大口径回転式拳銃『呪魂道』の一発を顔面に発射する。
「なに……!?」
 衝撃に吹き飛ばされはしたが、キョンシーは頭の四分の一ほどが欠けただけで、またむくりと起き上がる。
「頑強だとは聞いていたが、これほどか……!」
 続いて、リーラ・タイルヒュンアレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が飛び出す。
 神速で加速したリーラは敵を攪乱、軽身功で跳躍すると背後に回り込み、如意棒を振りかぶる。
 ところが、振り下ろされた一撃をキョンシーは回避した。
 彼らは呼吸で獲物を把握する……つまり、彼らに死角は存在しないのだ。
「し、しまっ……」
 反撃に晒されるリーラ……だがその刹那、閃光がキョンシーの腕を貫いた。
「おいおい、いきなり油断してんじゃねぇぜ」
 風祭隼人は軽口を叩きながら、魔導銃の光線で敵を迎撃する。
「あ、ありがとう……」
「なに、気にすんな。しかし、俺の銃じゃ足止めも微妙だな」
 光線が何発命中したところで大して効いてるようには思えない。
 とその時、アレーティアの悲鳴が上がった。
「なあああああ! わらわのイーグリットアサルト・アークが!!」
 彼女は人形使いならぬイコプラ使い。
 4体の戦闘用イコプラで攻撃を仕掛けていたのだが、思うようにダメージを与えられず、1体が破壊されてしまった。
「おのれぇ……フルスクラッチなんだぞ! どれだけ手間がかかって……なああああ!!」
 シールドを展開していたイコプラが踏みつけられ、腕がポロリと取れてしまった。
「ブルースロート・フェイクがああああ!!」
 その絶叫は、まるでコレクションをお母さんに捨てられてしまったマニアのようだった。
 あわてて残る2体、ナハトとアーベントを引っ込める。
「ゆ、ゆるさんぞ! わらわの大事な宝物をっ!!」
 涙目のアレーティアは腕に装着したブレスレット型の本体『魔道演算機「アレーティア」』を向ける。
 武器の聖化を帯びた糸をブレスレットから発射し、目の前のキョンシーをバラバラに切り刻む。
「あの頑丈な奴らを一撃かよ……、すごいな、それ」
「わ、わらわもちょっぴりビックリじゃ」
「光だ……」
 ふと漏れたパイロンの言葉に、隼人とアレーティアは振り返る。
奴らは光を嫌う闇の住人、通常攻撃では傷つけるのは難しいが、光を帯びた攻撃ならば通用する……
「そ、そういうことは早く言って欲しいぜ……」