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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【2】奇奇怪怪……1


「まさかこの目で武晴廟を見れる日がくるとはな……」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は興奮した様子で廟内を見回した。
 文献でしか触れられなかったコンロンの遺跡に来れたのは、考古学好きの彼にとってまたとない幸運だった。
 魔鎧アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)は、そんな主をどこか微笑ましく見守っている。
「俺にはよく価値がわからぬが、この遺跡は大層由緒のあるものなのでしょうな?」
 銀装飾の黒いロングコートに変化した彼は、グラキエスの胸元から何気なく訊いてみた。
「残念ながら由緒はよくわかってない。廃都なってから文献も失われ、調査を行うことが出来ずにあったらしい」
「ほう。見事な遺跡なのにもったいないことだ」
「ああ、まったくだ。しかしだからこそ、ここには一度来てみたかった」
 この探索がニルヴァーナに至る第一歩になる。ゆくゆくは月の門や、ニルヴァーナの目撃者になれるかもしれない。
 そう思うと、彼の胸は自然と期待で膨らんだ。
「グラキエス様、嬉しそうなのは結構ですが、ここには先ほどのような妙なものもおります」
 悪魔エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)はうやうやしく言った。
 執事のような物腰の彼は、霊廟の中を銃型HCで記録しながら付き添っている。
「今、貴方の魔力は物理的な力を上回っています。制御が乱れやすくなっていますので、魔力を使用する際はご注意を」
「ああ、わかっている」
「無論、私に手助けを求めて下さればいつでも喜んでお助けします」
「必要があれば、な」
「……横から失礼して申し訳ないが、こちらにも手を貸してはもらえまいか?」
 ふと、人形師レオン・カシミール(れおん・かしみーる)が言った。
 付近の修行者から地図を手に入れたものの、どうにも内容と違う点があるらしく頭を捻っていた。
「……どうもこの地図は粗悪品のようだ」
「修行者ですと建造物の配置に頓着されない方も多いのでしょう。彼らの目的は戦闘を行うことでしょうし」
「迂闊だった。すまないが、そちらで記録してるものと照合させてくれないか?」
「構いませんが……おや、この地図によると中央が拝殿になっているのですね
「ああ、瓦礫で塞がれていたところか。ここも調査せねばならんが、今日中に瓦礫の撤去が出来るか微妙だな……」
「いいえ、グズグズしてられません!」
 ため息を吐くレオンの横で、弟子の人形師茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は拳を振り上げた。
「鏖殺寺院が動いているのに悠長なことは言ってられません! この1年の彼らの悪逆非道をお忘れですかっ!」
 特に機晶姫に対する非道には温厚な彼女も怒り心頭だった。
 その寺院が最強の光条兵器ブライドオブシリーズを狙っているとなれば放っておくことはできない。
「寺院の非道な行為を止めるため! これ以上、寺院によって不幸になる人々や機晶姫をなくすため!」
 そして、隊員たちにビシィと指を突き付ける。
「寺院よりも『先』にヴァラーウォンドの入手を目指しましょう!」
「お、おおぉ〜〜〜?」
 彼女の凄まじい気迫に押され、なんとなくパラパラと拍手が起こった。
「……五月蝿い大尉と別れたと思えば、こっちの隊にも五月蝿い人間はいるようだ」
 パイロンはその奇妙なノリを横目に見つつ、ちょっと長めのため息を吐いた。
 とは言え、彼女はどちらかと言うとアツイ人間であって、絡むと怪我するタイプの人間ではない。
 本当に厄介なのはこちら、茅野 菫(ちの・すみれ)である。
「はっはー! キョンシーの奴ら、もう追ってこなくなったわ! あたしの存在に恐れをなしたのねっ!!」
 華麗な花が刺繍された黒いチャイナドレス姿で、虚空に向かってビシバシ突きや蹴りを入れている。
 パイロンが露骨にイヤそうな顔で見ているのに気付き、菫はババーンとカンフーチックな決めポーズをとった。
「あんたがパイロンね。あたしは茅野菫。ティンティ……と呼んっ。ちょっと、痛いじゃない」
「ちょっと菫、そんなこと言ってはだめよ?」
 神速のインパルスで突っ込んだのは、相棒のパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)である。
「されはさておき……ヨッ、あたしはパビェーダ・フィブラーリ、よろしくね」
 こちらは同じく花の刺繍がなされた白いチャイナドレス。
 それから、ババーンと2人して決めポーズを決めた。
 一見、普通に挨拶したパビェーダなのだが、菫はなんだかニヤニヤ笑っている。
 何故、彼女がニヤニヤしているのか、キョンシーブームを体験した人なら理解出来るかもしれない。
 体験してない人はキョンシーで一番有名な映画をググってくれ。主題歌がはとぽっぽのほうじゃないよ。
「あんたを一流の道士と見込んで訊きたいんだけど、キョンシーって吸血鬼にも反応するのかしら?」
「それは吸血鬼は呼吸するのかどうかと言うことか?」
「その通り! もし反応しないんなら、キョンシー相手に有利に戦えると思うんだけど……どう?」
「……それなら、おまえの相棒に訊いたほうが早いんじゃないのか?」
 言われてみれば、パビェーダは立派な吸血鬼だった。
パビェーダ、息してる?
してるわよっ!
 とかくアンデッドと誤解されがちだが、パラミタの吸血鬼は少なくとも生き物なのである。
 しかしながら、彼女の着眼点は素晴らしい。この世界には条件付きで呼吸をしない種族もいるのだ。
 鎧形態の魔鎧、非憑依状態の奈落人、本体と分身が一体化している魔導書の三種だ。
 とは言え、魔鎧は誰かが装着しているだろうし、奈落人も通常は生身の身体に憑依しなくちゃならない。
 あとは魔導書だが、このタイプはそもそも絶対数が少ない。

 着眼点は本当に素晴らしいのだが……この作戦の実用化すこしむずかしそうだ。