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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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第5章 迫りくる力

「回復の必要はないようですねぇ」
 要塞突入直後。六韜は、一応明子の怪我の具合を確認したが、治療する必要はなさそうだった。
「怪我してないし。さーて、とろとろ歩いてなんかいらんないわ、急ぐわよ!」
「あぁー、待ってくださいー。うにゃー。ホント最近鉄火場ばっかりで気が休まる隙がないのですよ。ぷぅ」
 ぶうぶう言いながら、速度を上げた明子に六韜はついていく。

「ここから先は、何が起きるかわかりませんし、回復している余裕もないかもしれませんから」
 は、負傷した牙竜や、仲間達を歴戦の回復術で治療し、最後にSPタブレットを飲ませ、SPルージュを唇に塗った状態で額にキスをした。
「これは、早く治るお呪いです♪」
「サンキュ、急がないとな」
 牙竜は立ち上がり、進路を見据える。
 要塞上部、砲台付近から侵入したメンバーは、補佐担当者と、治療や通信を行っているメンバーを残し、目的地に向けて出発していた。
「すまねぇな」
「これからが本番だしね」
 ラルクは、ヘルの命のうねりで回復をした。
「この後すぐに働いて貰う事になるだろうから、今は少しでも休んで温存しておいてくれ」
 呼雪も、突破に全力を尽くした刀真に、そう声をかけて、携帯電話でアレナの傍にいるタリアにごく簡単に突入の報告をした後、皆の後に続いて駆けだす。
 ……無論、誰も簡単に目的の場所にたどり着けるとは思っていなかった。
 だが、事態は想定外の方向へと進みだす――。

 バン

 突如、下方からせり上がってきた分厚い金属の板が、牙竜や呼雪達の行く手を阻んだ。
 それから、要塞内に警報が響く。

「危ない!」
 金属板がせり上がる直前、ルシンダは横を走り護衛をしてくれていたオリヴィアを後ろに突き飛ばした。
 直後に、背後に分厚い金属板。オリヴィアがいた辺りからは、鉄格子が凄まじい勢いで落ちてきて、メンバー達を分断した。
「ようこそ、アルカンシェルへ」
 その男の声は壁のスピーカーから響いてきた。
 床や壁には、魔法陣のような模様が浮き上がっていく。
「進める者は先に行け!」
 優子が指示を出し、不安な思いを抱えながらも鉄格子より先に進んでいた者達が走り出す。
「皆さん……っ」
 ただ一人、ルシンダだけが鉄格子の外に残っていた。
 金属板と鉄格子に阻まれた者たちは、狭い檻の中に入れられた状態だった。
「必要な娘だけ、来てくれればいいよ。後は要らない」
 スピーカーからそんな声が響いた直後に、床から光の蔦が飛び出して、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)達を、床の中に引きずり込んだ。
「弱そうなこの娘は人質にもらっていくね。君達が私に近づくたびに、彼女の身体の一部を貰うよ」
 鉄格子の外の左右のドアが開き、工具を持った機晶ロボットが3体現れる。
「や……は、放して……!」
 抵抗するルシンダを殴って気絶させると、機晶ロボット達はどこかに彼女を連れて行ってしまう。
 警報が要塞内に響き渡り、赤いランプが点滅する。

『主砲発射準備。エネルギーチャージ5%。総員配置につけ』

○     ○     ○


「泣くな、泣くな! 大丈夫だから。ヒラニプラにつけば、そこから安全な場所に避難できるしな!」
 緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)は、ヒラニプラ行きの列車の中で、泣いている子供を励ましていた。
(本当は列車に頼らず、2人を抱えて避難してしまいたいくらいですが……)
 空京に迫る脅威を知った緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、そんな思いを抱きながらも、人々を励まし、助けようとする霞憐を放ってはおけず、霞憐が護ろうとするもの、全部を守る覚悟を決めていく。
「瑠璃は霞憐を手伝ってあげて下さい、少しでも早く事を済ませれるようにですね」
「うん、頑張って手伝うの! いいこいいこなの!」
 紫桜 瑠璃(しざくら・るり)は、泣いている子供を撫でてあげて。
 お土産にと思って買ったキャンディの袋を開けて、子供達にわけてあげた。
 泣き声が少し、減っていく。
「んー、何だか腑に落ちない」
 避難するためにお土産を抱えて乗っていたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、首を傾げて考え込む。
「要塞は陽動、だったりして?」
 彼女がそんな事を言った途端。
 隣にいた男性の時計のアラームが音を立てた。

 ダダダダダダダダダ―― 

 突如、男はマシンガンを取り出して車内に乱射をした。
 悲鳴を上げて、人々は伏せていく。

「……いった……っ」
 マシンガンの弾は、ノーンの小さな体に深い傷を負わせていた。
「騒ぐな! 動いた奴、外と連絡を取ろうとした奴は撃ち殺す」
 言い、男は傷ついたノーンを掴みあげて首に腕を回す。
 彼女を人質にし、列車のドアに背を付けて、車内に銃口を向けていた。

 マシンガン乱射はその車両だけではなく、全ての車両で行われていた。
 運転室、車掌室にも何者かが押し入り、列車は空京島と本土を繋ぐ鉄橋でストップした。

○     ○     ○


「本土での最終防衛ラインで、ミサイルの迎撃に成功したようです。ですが、破片がこの辺りまで飛んでくる可能性があります」
 無線機で連絡を受けた小夜子は、アレナと共に警戒に当たっている仲間達にそう伝えた後も、警戒し続ける。
「一般の皆さんは驚くかもしれませんが……撃てますか?」
 小夜子がアレナに問う。
 アレナはこくりと首を縦に振ると、星剣ヴィータの弦を引き、光の矢を放った。
 上空で光はパッとはじけ飛び、要塞の方向へと飛んで行った。
「こちらの攻撃も、弾丸が街中に落ちたりしないよう注意を!」
 ティリアが破片を狙う仲間達に注意を促す。
「はい」
 返事をして、小夜子は対物ライフルを構えて、飛来する物を狙う。
「大きな破片を、空京に落とすわけにはいきません……!」
 ミサイルか、イコンの破片かは分からないが、星剣の光をも潜り抜けた金属に、スナイプ、シャープシューターの技能を駆使して、狙いを定めて大魔弾『コキュートス』を放つ。
 そして、破片を砂煙へと変える。

「最悪でも、皆が空京から避難する時間は稼がなきゃ……っ!」
 空を飛んでいたも、空京まで飛んできた破片を、魔法や技能で押し返していた。
「落とさせないんだからっ!」
 詩穂達も、飛行しながら真空波を叩き込んで、破片を打ち飛ばしている。
 そんな彼女達に報告が入る。
『要塞の進行方向は依然、空京だ。しかし、中距離ミサイルの発射口は別の方向に向いている』
 通信機から流れて来た言葉に、葵と詩穂は顔を合わせる。
『次の狙いは、どうやら……鉄橋だ』
 空京島と本土を繋ぐ唯一の橋だ。


 ――浮遊要塞アルカンシェル(前編) 終――