リアクション
○ ○ ○ 「そっか、宮殿には契約者が残ってるんだね。駅からは駅員も含めて全員避難した?」 「ヒャッハー! 駅にはもうパンツ一つ残ってないぜ」 白百合団員のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の問いに、鮪はそう答えた。 「それじゃ、このグループが最後の避難者達だね。南さん、情報もありがとね。お疲れ!」 「ヒャッハー! お礼はパ……」 「でもパンツはあげないんだよ!」 鮪がパンツを要求するより早くレキは拒否した。 「請求書は事件が終わってから送るぜ〜、代わりのパンツつきでな、ヒャッハー!」 そんなことを言いつつ、鮪は情報分析と送受信に務める。 宮殿屋上や、要塞内で命を賭している小夜子や円との真剣な連絡でも、必ず『後でパンツくれ』の一言はつけていた。 「請求書が大量に必要そうだぜ、ヒャッハー」 鮪はアクセスデータを軽く確認して言いながら、去っていく。 宮殿の会議に参加していた者や、自分が取りまとめたデータにアクセスした者についても密かに記録している。 ……こちらは礼のパンツ目的というわけではなく。 「またよろしくね!」 レキは鮪と別れた後、最後のグループを誘導している風見 瑠奈へと駆け寄る。 「最後のグループの避難誘導が終わったら、避難所の警備に……白百合団員動けないかな?」 レキは瑠奈にそう問いかけた。 列車が襲われた時。 犯人達は避難民の中に紛れ込んでいた。 ならば、避難所にいる人の中にも、敵が潜んでいる可能性はある。 タイミング的に、列車襲撃者と要塞を動かした者は繋がっているとみて間違いないだろう。 理子を殺害すれば、パートナーロストで女王のアイシャに影響が出る。 (もし、空京を滅ぼしたいのなら、彼女を殺すという選択もあったはずなのに、していないのは他に目的があるからかも……?) そんな不安を抱いていた。 「私も協力しますぅ」 瑠奈と共に、避難誘導に当たっていた白百合団班長のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がそう言った。 「暴力を振るう人や、盗みをする人もいるようですぅ……悲しいことですぅ」 精神状態が正常ではなくなって、そんな行動に出てしまう人もいるけれど。 チャンスと考え、悪事を働いている人もいるようだ。 「うん、よろしくね……。悲しいけれど、気を付けないとね」 レキの言葉に、メイベルは首を縦に振る。 「避難してもらって、ご飯を食べてゆっくりしても……。それでも落ち着かずに悪いことをしようとする人がいたら、その人はシャンバラの民、じゃないかもしれないね」 国家の繁栄を願ってはいなくて。何か別の考えの下で動いている組織の一員なんだろうなと、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は悲しげに微笑んだ。 「何が目的なのでしょう……。ですが、わたくし達は、わたくし達の目に映っている範囲の人達に対してのみ、今は全力を尽くしましょう」 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)はそう言って、その場に集まる白百合団員達と頷き合う。 気になることは沢山ある。 だけれど、集中しなければ目の前の人達さえも守れないから。 「ここは車両通行止めになっていますぅ。でも、左右に注意して進んでくださいー」 「あと、上下もね。小さな子蹴飛ばしたりしないようにね!」 メイベル、セシリアは前を歩く人々に声をかけて、転びそうになる人に手を差し伸べて、避難所へと誘導をしていく。 「空京の人々と、そして自分達のことも守りましょうね」 フィリッパもそう言い、メイベル達を見守りながら誘導に協力していく。 「では、避難所についてからも、白百合団で皆さんをお守りしましょ」 瑠奈は軽く笑みを浮かべて、レキにそう言った。 「はいっ。それと、地球はこのこと知ってるのかな?」 「ええ、天沼矛が狙われていることは、伝わっているはず、海京の方々もシェルター等に避難していると話を聞いているわ。でもそれ以上は、パニックを招かない為に、伏せてあるみたい」 「そっか、被害を受けるかもしれない人達に伝わっているのなら、今はそれで十分だよね」 瑠奈との会話を終えた後。 レキは彼女と共に、駅から避難してきた最後のグループを避難所へと誘導していく。 殺気看破でレキは、警戒をしておく。 正直、一番怖いのは……契約者による一般人襲撃。 自分達と同じように避難活動を行っている者や、駐留軍の中から、一般人に刃を向ける者がいたのなら。 誰を信じたらいいのか。 どこに逃げたらいいのか。 もう、誰もわからない。大パニックになるだろう。 (それを狙う人が現れませんように) 現れたとしても、絶対に止めなければとレキは強く思う。 「落ち着いて避難するのじゃ」 声をかけているミア・マハ(みあ・まは)は小柄な魔女だ。 だから埋もれてしまっている子供達の気持ちがわかる。 小さな子は、踏まれてしまったら命を落としてしまうことさえあるだろう。 「こっちは行き止まりじゃ。列を乱さずに歩いた方が、早く到着するぞ」 路地に入り込もうとする男性を止めて、両手で人々の中に押し返す。 「けど、こっちの道、ガラクタが多くて、なかなか進めねぇんだよ」 持ち運べずに捨てていった物が、道端に沢山落ちているのだ。 どかして通る余裕はなかった。 「よし、一気にゴミをどかすぞ。皆、離れておれ!」 ミアがそう言い、白百合団員達が人々をその場所から離れさせる。 誰もいないことを確認後に、ミアはブリザードで一気にゴミを行き止まりになっている路地へと飛ばした。 「地面が凍らないように注意はしたが、念のため足下には注意するのじゃ!」 そう言いながら、ミアは避難誘導を続けていく。 「風見先輩、私も協力します……!」 「研修に来た皆さんはご無事ですか!?」 ヴァイシャリーから駆け付けた白百合団員の神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)と、ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)も、瑠奈の元に向かってきた。 「皆無事よ。避難活動や、避難者のケアに努めてるわ」 「私も、風見先輩と、百合園の仲間達と共に、皆さんを守らせてください」 有栖は切々と言う。 ロイヤルガードでもあるために、少し迷った有栖だけれど、自分よりも力のない一般の百合園生もが、人々を護っていると聞き、白百合団員として、ロイヤルガードとして、一人でも多くの人を守るために、自分が出来ることを考えた時。 脅威に立ち向かうよりも、今苦しんでいる人々を、仲間達を守りながら仲間達と共に癒すことではないかと、それが団行動としての協調であり、白百合団の心ではないかと、思ったのだ。 「助かるわ。貧血を起こした女性がいるの。一緒に運んでくれる?」 「はい……! いえ、私達に任せてください」 言って、有栖はミルフィと共に、貧血を起こした女性の元に駆け寄って、瑠奈から預かった担架に乗せて運んでいく。 「少し楽になるかもしれませんから」 そう言って、有栖は命のうねりで女性を癒した。 「ありがとうございます。すみません……すみません……」 女性は目を閉じたまま、しきりに謝っていた。 「大丈夫ですわよ。わたくしたちが、安全なところまで責任をもって運びますわ」 ミルフィも優しく女性に声をかけた。 ……その時。 「軍から連絡が入ったわ! 撃ち漏らしたミサイルが来るッ……」 瑠奈が大声を上げる。 続いて、ドーンという大きな音が鳴り響いた。 空京島の直前で、軍が撃ち落としたらしい。 大きな破片が空京島へも飛んできてしまう。 「誰一人だって、傷つけさせないよ!」 即座に、動いたのは迎撃の為に飛んでいた葵だった。 「全力全開! 撃ち落とす!!」 禁じられた言葉で魔力を上げた状態で、アシッドミストを破片に向けて放つ。 爆薬が残っていても、信管ごと腐食させてしまえば、爆発はきっと起こらない。 「大丈夫、撃って!」 そして、葵は地上にいる白百合団のメンバーに任せ、離れた。 「ミルフィ……っ」 「わかりました。この方はわたくしがお守りします」 有栖の気持ちは解っている。 ミルフィは女性を抱きしめて守る。 「私だって、護られてばかりじゃない! ……皆さんを、護りたい……!!」 北の道へと走り、守るべき人を背にして。 有栖は、空に向かってファイアストームを放った。 渦巻く炎が、ミサイルの破片を取り込んで燃やしていく。 「お嬢様……」 ミルフィは危険に身を投じる有栖ことに、不安を感じていた。 だけれど、有栖の成長はミルフィの望み。 もう迷いはしない。 有栖の意思に従い、如何なる時も傍に居ることを。 護っていくことを――。 紅蓮の爆風で髪を揺らす、彼女の背を見ながら心に誓う。 破片の灰は人々が集まる場所より北に降り注いだ。 「大丈夫です。私達がお護りしますから。急ぎましょう……!」 有栖は再び、担架の片側を持って、人々に声を掛けながら避難所に急いだ。 契約者が管理しており、怪我人の受け入れもしているとのことで、涼介が設営した避難所は大変なにぎわいとなっていた。 「お友達いっぱいいるアルね。賑やかアルね〜」 チムチム・リー(ちむちむ・りー)は、部屋の一角に子供達を集めて、遊んであげようとしていた。 だけれど、不安で泣いている子や、怯えている子が多くて、遊ぼうとする子は少なかった。 避難所に入ってきたばかりの女性が、ヒステリックに何かをまくし立てている。 「落ち着いてくださいアル。子供達にも伝播してしまうアルよ」 女性は不安で不安で仕方ないらしく、本当にここにいれば、大丈夫なのか、絶対安全だと言い切れるのかと、聞いてくる。 大丈夫、頑張れば、絶対に助かる――とはチムチムには言えなかった。言えない状況だった。 「うーん……」 情報受信を担当しているアリアクルスイドが眉をひそめる。 (正確な情報を話したいけれど、びっくりして発狂したり、心臓止まっちゃう人もいそうだよ) 繰り返し行われているミサイル攻撃は、迎撃に成功しているものの、破片全てを防ぐことは出来ていない。既に街に被害は出ているとのことだった。 「これ見てこれ〜。今日の炊き出しこれかなぁ」 契約者であるチムチムには、周りにはそれと分からないように情報を見せる。 チムチムはこくりと頷いて、ヒステリックになっている女性に優しく話していく。 「命を賭けて頑張ってる人達にチムチムからは何も言えないアルよ。だってもう皆は頑張ってるアル」 契約者は確かに力があるけれど、神様じゃないし、出来ないこともある。そして、それはここにいる皆も、解っていること。 「不安だからどこかに吐き出さずに居られない気持ちは判るけど、これ以上追い打ちを掛けないで欲しいアル」 幼子をあやしながら、チムチムは女性にお願いをした。 「ボク達にできることは少ないけれど、頼ってきてくれた人達は絶対守るよ。頑張るからね!」 そんなアリアクルスイドの言葉に、女性は恥ずかしげな顔で「ごめんなさい」と言った。 女性はとても辛そうな顔をしていた。 だけれど、子供に頑張って笑みを見せて、それからせめて自分の姿を子供達に見せないようにと、背を向けた。 「治療しますよ」 カムイ・マギ(かむい・まぎ)は、ナーシング、ヒールの能力で、背を向けている女性や、人々を癒していく。 小さな怪我でも、自分だけではなく、怪我を目にした者の心に不安感を呼んでしまうから。 不安そうにしている老人の手を握って、目をみて語りかけて。 魔法と、言葉で、皆を治療していく。 「そちらの方も早くこっちへ……!」 カムイは酷い怪我……というか、虐めにあったかのように、髪がぐちゃぐちゃ、服が破けたり、ボタンがはじけ飛んだりしている男性を目にして驚く。 「いや、いいんだ。治しても、またすぐこうなる」 答えたのはデューイだった。 「なんか、一言というか、二言というか、それ以上の失言をしてしまったようで。女性達に可愛がってもらった結果、なんだそうです」 ミレイユがそんな風に説明をする。 治療をするのなら、彼を殴った女性の拳の治療を優先しなければならないそうな。 「なにか事情があるんですね……」 カムイは眉を顰めながらも、彼の治療はしないでおく。 そのボロボロになっている男性とはルーク・カーマイン(るーく・かーまいん)。 失言しまくりで、女性陣の袋叩きに……ストレス解消の道具になっていた。 「さあ、元綺麗なお嬢さん達、美しき日々を思い出し、暇つぶしにダンスなんて如何ですか?」 素敵なおば様達の鋭い目が、にこにこ微笑むルークに集中する。次のラウンドはもうすぐだ。 |
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