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【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

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【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

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第四章 駆け抜けろ! 狼(?)の巣 3

「おい、シャフト跡ってこれじゃないのか!?」
 シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)がそう叫んだのは、まさにそのタイミングだった。
 彼の目の前には、周囲とは少し違った様子の繭状施設があり、その中は床が抜けたようになっている。
 おそらく、昔はここにエレベーターの「かご」があり、下のフロアへ行く人々を運んでいたのだろう。
「一応、このロープは無事そうですから、これを使って降りるしかなさそうですね」
 地上の普通の建物の一階分なら飛び降りても支障はないかもしれないが、この施設の一階分はさすがに少々高い。
 とはいえ、ロープを伝って下りるとなると、その間は無防備になってしまう。
 紫翠は少しそう考えてから、やがてこう言った。
「戦闘は苦手なんですが……ここは私が露払いをしましょう。皆さんは先に進んでください」
「いいのか?」
 白砂 司(しらすな・つかさ)の問いかけに、紫翠はにこりと笑った。
「はい。もともと、治療班の拠点として、地下一階を押さえようと思っていましたから」
「そうか。よし、行こう」
「はい。それじゃ行きましょう」
 まずは、下の安全確認のために司が。
 次にゲルバッキーを抱え上げたサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)、そして良雄が、それからその他のメンバーが続々とその後に続く。
 もちろん、その間も散発的な軟体狼の来襲は続いていた。
「ちっ、次から次へと……だいたい、オレは炎の術の方が得意なんだ」
 そう愚痴りながらもシェイドが氷術で軟体狼を凍らせ、素早さと柔軟性が失われたところを紫翠が銃で撃ち抜く、もしくは撃ち砕く。
 そうしてうまく間合いを詰められないように戦っていたが、さすがに軟体狼もバカではない。
 二人がどちらも後方支援タイプであることに気づいたのか、たびたび近くの繭を壁に使っての不意打ちを仕掛けてきた。
「!?」
 しかし、そうして反攻に転じようとする軟体狼の牙たちの行く手を、巨大な氷の盾が塞いだ。
「二人ともなかなか強いけどよ、盾役がもう一人いた方が安定するんじゃねーか?」
 そう笑いながら、盾の主――皐月が冷気を帯びた槍で軟体狼を貫く。
 彼の言葉通り、盾役の皐月が入ったことで接近戦への備えも万全となり。
 残りの面々が地下二階へ降りるまで守り抜くのは、もはや雑作もないことであった。

「っと、これで全員かねぇ」
 一息つく皐月に、紫翠がにこりと微笑みかける。
「そのようですね。ありがとうございます、助かりました」
 その紫翠の腕に引っ掻かれたような傷があるのに気づいて、シェイドが呆れたような顔で治療をはじめた。
「見せてみろ」
「おや? いつの間にこんな傷が……」
 きょとんとする紫翠に、シェイドが一つため息をつく。
「重傷ってほどじゃねえけど、普通は痛みとかで気づくだろ」
「そうですね。言われてみると、痛いような気もしてきました」
「……いや、そういうもんじゃねえから」
 そんな様子に苦笑しながら皐月は紫翠たちにこう尋ねた
「で、お前たちはこれからどうすんだ? 俺は夜空と一緒にここのクリアリングを続けようかと思うが」
 どれだけの精鋭部隊であっても、いつ何時どのような不測の事態が起こるかわからない。
 それを考えれば、万一の際の退路の確保は最重要事項の一つでもある。
「では、私たちは北都さんたちに合流して、『この階層の』掃除を終わらせてしまいましょう。休憩地点として確保もしたいですし、一応探索もしてみたいですから」
「まあ、文献とかが有れば何かわかるかもしれん。このフロアはひどく荒れ果てているし、望み薄だがな」
 そう答えて、二人はその場を離れ、北都たちと合流した。

 その後、このフロアに残った十人の活躍により、軟体狼をほぼ全て駆逐することには成功したのだが。
 シェイドの言葉通り、この階層を探索しても得られたものはほとんどないに等しかった。
 強いて言うなら、「このシェルターには高度な機晶技術が用いられていたと思われる」ことと、「今はそのどれ一つとして機能していないらしい」ということくらいであるが――まあ、このくらいのことは、おそらく他のフロアの探索でもすぐわかることだろう。