葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

リアクション公開中!

【創世の絆・序章】涅槃に来た、チャリで来た。

リアクション


第三章 軟体ゾウの奇妙な生態 1

 とまあ、そんなこんなでだいたいの顔合わせも済み、また、別ルートでたいむちゃんらとともにニルヴァーナに来ていた面々から、そちらの状況についてもゲルバッキーに報告が行われた。
「……と、このような状況になっている」
 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)のお手製……というか、召喚したフラワシに描かせたという紙芝居風のエピソード描画も、主に良雄たちには好評だった。

 そして。
「とりあえず、いくつか聞いておきたいことがあるんだけどいいかな?」
 ルカルカの言葉を皮切りに、一同からぽつりぽつりと質問が出始める。
 中には素っ頓狂な質問――例えば、「身も心も一つだった良雄と大帝……掛け算はどっちが左でどっちが右?」とか、「あのシェルターはニルヴァーナの種モミの塔の遺跡ではないのか?」とか、「違う場合はここに新規の種モミの塔を建設しても構わないか?」とか――もあったのだが、そういうイレギュラーを除くと、質問のほとんどは三つに集約された。
 すなわち、「ギフトとは何か?」「軟体生物とは何者か?」「ニルヴァーナ人はどうなってしまったのか?」の三つである。

 ちなみに、やたらと種モミ種モミとうるさかったのは、なぜか勘違いして紛れ込んできた種モミの塔の精 たねもみじいさん(たねもみのとうのせい・たねもみじいさん)だったのだが、そろそろ鬱陶しくなってきた辺りでパートナーの南 鮪(みなみ・まぐろ)によって強制的に黙らされたことを追記しておく。
「きょ、今日より明日なんじゃ〜!!」
「だったら俺の明日のために今日のお前が黙れ!!」
 前回に引き続き、どうにかゲルバッキーに恩を売っていろいろな技術を手にしたい鮪にしてみれば、ここで雰囲気を悪くして減点されるわけにはいかないのである。
 もっとも、減点されなかったとしても、はてしなく遠い道のりであることは言うまでもないのだが。

 それはさておき。
「君たちの聞きたいことはわかった。しかし、話すと長くなることも、今は話すべきではないこともある。そういった都合を考え、回答は最低限必要な内容のみにとどめさせてもらう」
 妙に真面目くさった様子でそう前置きすると、ゲルバッキーは語り始めた。
「まずニルヴァーナ人についてだが、現時点で話せることはそう多くない。おそらくシェルター内を見てもらった方がはるかにわかりやすいだろう」
 確かに、ゲルバッキーの言葉の信憑性には常に疑問符がつく以上、彼にわざわざ尋ねるよりも調べた方が早い、というのはあるかもしれない。
「ただ一つ、今回のシェルターに関して言うならば、生存者が残っている可能性はゼロだと断言してもいい」
 その言葉に、度会 鈴鹿(わたらい・すずか)は肩を落とした。
 また、彼女ほどではないにせよ、「もしかしたら生存者がいるかもしれない」と考えていた者は他にもいたらしく、あちこちから小さなため息が聞こえてきた。
 その様子を、ゲルバッキーは黙って見つめていたが、やがて、再び口を開いた。
「次に、ギフトに関してだが、これも実際に見てもらった方がはるかに早い」
 今度は、違った意味合いのため息があちこちから漏れる。
「話せる範囲の情報しか出さない」とは言われたが、これではほとんどゼロ回答ではないか、ということだ。
 そんな空気を読んだ――とは思えないが、最後に関してだけはゲルバッキーは多少饒舌になった。
「最後に、軟体生物の件だが。あれは見ての通りの軟体生物と思ってもらっていい。パラミタはもちろん、地上にもいるだろう」
「もしかしたらナノマシンではないか、と思っていたが……違うのか?」
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)がそう尋ねると、ゲルバッキーは首を横に振った。
「全く無関係だ」
 尋ねたのは呼雪だったが、「軟体生物=ナノマシン(=ニルヴァーナ人?)」という読みをしていた者は、実は意外と多かった。
「だが、だとしたら一体どういう生態系が……」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)の疑問に、ゲルバッキーは軽く首をかしげる。
「この辺りはあの手の生物が異常進化・異常繁殖しているのだ。もし気になるようなら、あの辺りの岩陰の石でも持ち上げてみるといい」
「では、そうさせてもらいましょう」
 ゲルバッキーの言葉に従って、樹月 刀真(きづき・とうま)が岩陰の石を一つ持ち上げ――。
「……なるほど、こういうことか」
 そう呟いてから、他の皆を手招きした。

 石の下にいたのは、小さな虫だった。
 いや、正確には「小さな虫のような姿をした軟体生物だった」と言うべきか。
「地球上の様々な動物に似た軟体生物がいると、そういうことか」
 鉄心が納得したように言うと、ゲルバッキーは一度頷いた。
「その認識で問題ない。危険と思われる種類は少ないし、体の比重の問題からか、飛ぶ種類は見かけたことがないが」