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リアクション
大蛇の巣1
サンタクロースの『方向感覚』にくわえ、銃型HCで慎重にマッピングしつつ進んできた十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は、ヘビ型ギフトと巨大イレイザーの核の位置情報を受信し、はやる気持ちを抑えるために深呼吸をした。先日の戦いで巨大イレイザーにトドメを刺し損ねたのは自分の力不足もあった。また完全再生されたらえらいことになる。その前に何としてでも、イレイザーを倒さなくてはいけない。さらにはこの複雑な迷宮に蛇に似たギフトがいるという情報もある。ギフトの強力さは今までの戦いでも実証済みのこと。ここに棲むという蛇型ギフトの力を借りれば、巨大イレイザーを倒せるのではないか? イレイザーの影響で凶暴化しているという話も聞いたが……力づくでも正気にして力を借りればいいさ。そんなことを考えながら宵一は歩いていた。
彼を心配して、ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)とリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)は行動を共にすることにしたのであった。立ち止まって自分を落ち着かせようとする宵一から少し離れ、2人は宵一に聞こえないよう、小声で話し合った。クローバーは先の通路の様子を探らせるべく、斥候を派遣してからヨルディアに言った。
「何だか、リーダーが無茶をしていまふので、僕も頑張りまふ。
ヘビは……きっと、この暑さでふからね、イライラして怒って暴れているんでふ」
「浦安三鬼君がボロボロにされたくらいですから、蛇に似たギフトも単純に機嫌が悪くて暴れているだけではないと思いますわ」
「そうでふか……そうなると簡単には説得できないかもしれませんでふね……」
「万が一戦わなくてはいけない場合、蛇さんは変温動物、という事は冷気には弱いはずですから吹雪を使うつもりです」
「それはいいアイデアでふ。頭を冷やせば、きっとわかりあってくれまふ。
ギフトさんが落ち着いたならば、僕の特技『誘惑』でギフトさんを誘惑しまふ。
これで機嫌を治してくれれば、リーダーに安心して力を貸してくれるはずでふ♪」
「……だと、いいのですけれど」
ヨルディアはため息をついた。その肩を大丈夫、というようにポンと叩くと、クローバーは戻ってきた斥候から、先の様子を聞き出しに行った。
遠野 歌菜(とおの・かな)と月崎 羽純(つきざき・はすみ)は、イレイザーの背中の遺跡からイレイザーの体の中に入り込み、空飛ぶ箒で移動しつつ、ギフトが鎮座する部屋の少し手前までやってきていた。
「怖くないと言ったら嘘になるけど……中継基地を守らなきゃ」
歌菜がつぶやくように言い、羽純はそんな歌菜の、不安げだが決意を秘めた横顔を見た。口には出さないものの絶対に彼女を守ると、羽純は改めて思う。
「ギフトとは、出来れば戦いたくない……。
イレイザーの影響で凶暴化しているなら、イレイザーを倒せば大人しくなる筈でしょう? 会話は難しいかな?」
「サポートはしてやる。やってみたら良いさ。だが……いざという時は容赦はできないぞ?」
「……うん。わかってる。……ありがとう」
羽純はそれには答えず、黙って正面を見つめたままだった。歌菜がくすっと笑ったような気がした。耳がほてるのを感じる。余計きまりが悪い。
トレジャーセンスの反応と、ギフト同士の共鳴もありうると考えた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、装備のアヴァターラたちの様子をも注意深く見守っていた。セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)、清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)も一緒だ。HCで注意深くマッピングの確認をしていたセルフィーナが、そっと呼びかけた。
「詩穂様、小暮様が無事保護されたそうです。……それと、核と、ギフトの場所も判明いたしました」
「おお、無事だったのか、それはよかったのぉ」
外見はどう見てもその筋のコワイ人といった青白磁が、破顔一笑する。見た目はともかく、非常に情に細やかで優しい男なのだ。
「良かった! 位置情報はどうなっているのかな?」
詩穂がHCを参照する。
「……この様子だと……凶暴な蛇型ギフトを突破しないと、迷宮の奥にある核には進めないのね。
核破壊に向う人たちのために道を作らないと……ギフトのいるところへまず向かいましょう」
ヘビというのはかなりはしこい生き物だ。ローグの素早さはそういった対応に必要に違いない。詩穂はそう考えたのだった。
ヘビ型ギフトがいる部屋にまずたどり着いたのは詩穂らのほか、宵一、歌菜たちの一行、それに布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)とそのパートナー、エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)だった。蛇のキライな人間にとって、その部屋は悪夢の顕現といっていいだろう。この部屋に扉はなく、通路から離れた壁際の一段高くなった場所に、コブラとニシキヘビを足して2で割ったようなメカニックな大蛇が鎮座している。その瞳は紅く燃え、全身から白い光を放っていた。そしてその部屋中に、ヘビ型のアヴァターラが床一面に多数ううごめいていた。
エレノアがすかさずディフェンスシフトを張った。魔法攻撃もありうると考えたセルフィーナが、護国の聖域に加え、アイスプロテクト、対電フィールド、ファイアプロテクトを全員に施す。先陣を切ってヨルディアが襲い掛かってくるヘビ型アヴァターラに向かって『熾天使の比翼』を使い、凄まじい吹雪を吹き付けた。だが読みと違い、地球の生命体ではないため、物理的に氷や雪に覆われ、多少動きが鈍ったものの寒さによる体の変化はないようだ。
「ギフトにはギフトでふ!!」
叫んでクローバーがクロス・ザ・エーリヴァーガルで攻撃する。ヘビの群れから、威嚇と怒りのシュウシュウという音が湧き上がってくる。横のカベから10数体が体のばねを使い、一斉に飛び掛ってくる。
「これでも食らいなさいっ!」
その群れに向かいって佳奈子がサンダーブラストの雷撃を放ち、叩き落した。感電し、硬直したヘビの体から薄く煙が上がる。
イレイザーの核とやらも簡単には壊せないはず。そっちは他の連中に任せよう。そう考えてパートナーたちにアヴァターラとの先頭を任せ、宵一はギフトに近い方へと移動した。。そんな宵一に、おずおずと歌菜が声をかけてきた。
「まずは駄目元で呼び掛けてみようと思うんです。このギフトを救出して、脱出できればそのほうが良いですし……」
「ああ、俺も同じことを考えていた」
詩穂が彼らを見てにこっと笑った。
「やってみたらいいと思うわ。ダメだった場合ののサポートはします」
「そうそう、援護は任せて」
佳奈子が請合った。歌菜と宵一は頷いた。歌菜の背後にはさりげなく羽純がついた。
「お願い! そこを通して! 私は貴方達とは戦いたくない!」
歌菜の呼びかけに、ギフトは目を紅く燃やし、言葉ではなくヘビそのものの威嚇の声で応じた。数体のヘビのアヴァターラが歌菜に向かって一斉に襲い掛かる。羽純が準備していたナビゲーターを使って素早く彼女とヘビたちの間に割って入り、真空波を放つ。佳奈子がファイアストームで援護する。
「落ちつけ! あんたもギフトならば、巨大イレイザー退治に協力してくれ! あんたの力が必要なんだ!」
宵一が呼びかけるが、ギフトは一顧だにせず、さらなるヘビ型アヴァターラを呼び出しただけだった。
「……仕方がありませんね。戦うしか……」
歌菜がつぶやいて、アヴァターラ、ギフトもろともブリザードを見舞う。
「こうなったら、核を破壊して貰うまで、こちらでギフトとヘビ型アヴァターラの相手をしよう」
羽純の言葉に詩穂も頷いた。
「そうね、こちらで戦っている隙に、この奥の核のある部屋に行ってもらいましょう。
きっと戦闘に勝てば、ドラゴンギフトのように認めて貰えると思うし」
エレノアと佳奈子はすかさずサポートに回ると宣言した。
「ギフトも相当厄介だと思うの。アヴァターラたちのことは佳奈子と私に任せて!」
「そうそう! なるべく、戦力を温存して、みんなで協力してやっつけちゃいましょう!」
佳奈子とエレノアは魔法と剣戟でアヴァターラたちを軽く攻撃し、ギフトからさりげなく距離をとるためにわざと一度引いた。
「素早そうじゃのう。 相手にとって不足なし! 蛇は細長い身体じゃけん、攻撃を当てるのも一苦労。
素早い相手には回避されずに確実に攻撃を当てることじゃ」
青白磁はホークアイ、ゴッドスピードで身体能力を高めた。迷彩防護服が揺らめき、青白磁の姿は背景と同化した。
「迷宮の守護者だけあって戦闘には応じてくれるみたいですね。
昔から蛇は叡智の象徴と言われていますし、力を認めてくれれば、ニルヴァーナ探索の心強い味方となると思います」
セルフィーナが言った。詩穂はホークアイを使用し、素早いヘビの動きに対応できるよう動体視力を強化した。その上で先制攻撃による爆炎波を一度だけギフトに見舞う。ギフトの回避方法を見極めて行動予測の判断材料とするためだ。
「もしかすると、特定の科のヘビが持つようなピット器官を持っているかもしれません。
隠れ身を使っていてもその場合は位置がわかってしまうでしょうから、気をつけて」
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