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【創世の絆】超巨大イレイザーを討伐せよ!

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【創世の絆】超巨大イレイザーを討伐せよ!

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ライフ・ライン2

 基地全体のメンバーに、電源を落とす、あるいは最悪破壊する旨が伝わり、代理となる供給源を確保しておくようにと告げられた。中継基地内が、にわかに慌ただしい様相を示し始めた。巨大イレイザーが衝突後、なすすべもなく息を潜めて様子を見ていたのだが、ここで各部門で主要電源停止による機能低下対策という、すべきことが具体的な形となって浮上してきたためだ。
 電源管理部門の責任者のところから、発電設備が地下にあると聞いた甚五郎、裕輝らは、同じく電源停止を考えて駆けつけてきたシャウラらと合流した。同行しようかという技術者を危険があるかもしれないと押しとどめ、7人は基地の外れにある地下設備に向かう階段へと急いだ。しかしそこはとんでもないことになっていた。
 地下通路の突き当りが発電施設なのだが、地下をはしって来た巨大な触手が、そこへ至る短い廊下の両側の壁と施設の扉を破壊して発電設備に潜りこむ、というより覆い尽くしていた。
「これは……電源を停止させる場所に行くのすら無理ですね……」
ユーシスが誰にともなくつぶやく。
「触手が幾重にも電源関係の施設に巻きついてしまっているんだな……」
甚五郎が言って、うーんと唸った。ホリイが触手のそばに歩いていって、つついてみる。
「んー、何の反応もありませんですねえ」
「危ないぞ」
草薙が慌てて引き戻すが、触手は微動だにしなかった。
「今これは、エネルギーの吸い取りだけに専念しているのですね。
おそらく体が巨大すぎ、迎撃までパワーがまだ回らないのではないでしょうか」
ブリジットが言った。
「こうなったらもう、中継基地の無事などは二の三の次や。この施設ごと爆破しかないやろな」
裕輝が淡々と言う。
「最悪の事態は、あの巨大イレイザーの復活や。
 ここで手をこまねいておっても、いずれここの施設は全て停止する。
 それやったらもう、中継基地のエネルギー、これを絶つしかないやろ。
 幸い電源が死んだ場合の対策はしてもらっている。せやからそれほどの大事にはならんですむやろ。
 上手くいけばイレイザーの強化・回復等の手段を絶てるかもしれんしな」
「止むを得んな……」
シャウラが頷いた。
「致し方あるまい」
甚五郎も頷いた。
「他に良い方法を考えている余裕はないしな」
「しかし、どのように行く?」
甚五郎が訊ねる。
「ユーシスはんが、機晶爆弾持っておるんやったな? 甚五郎はんたちがまずジャマな触手を除ける。
 再生するとの話やが、すぐではないらしいから、そのスキに機晶爆弾を仕掛けてもらおう。
 オレは接近戦向きやから今の時点でできることがない。
 せやけど身軽やからな。爆破のスイッチを入れて最後にここを出る」
「基地外部に居られる方に、本体の触手なども攻撃してもらってはどうでしょう?
 あちこちに注意を払わねばならないという状況であれば、こちらでの作業も幾分かは安全ではありませんか?」
ブリジットが言った。
「ええね。ほなそうしましょか」
裕輝が力強く頷いた。

 電源破壊の陽動依頼を受けた東 朱鷺(あずま・とき)は、にいっと笑った。すでに雲雀らがファイアーストームなどで触手に攻撃を加え始めているのが見える。
「頭が無くなってもとりあえず動ける? あるいはあれが中枢指揮系統の器官ではなかった?
 どちらにしよ。面白い生物ですね。ちょうどいい。検証させて頂きましょうか。
 目的があれば、やる気も起きようというものです」
雲雀らは飛び回り、すでに触手の根元に向けて攻撃を開始している。
「まあ、実験は後にして、今はあの触手をつぶすわけですね」
朱鷺はそう言って、優雅な動作で五行の弓を構えた。黄金の闘気を身にまとい、金色に変化した髪が重力に逆らってゆらゆらと流れる。そのさまは金の炎が燃えているかのようだ。
「では、始めましょうか」
おっとりとした物言いとは裏腹な、機敏な動作で次々と矢を放つ。何本かが連続して突き刺さった触手が、緩慢にうごめく。それへ向けてさらに矢を打ち込むと、そのエネルギーで触手の一本が根元から萎れた植物の茎のように折れ曲がり、引きむしられる。朱鷺らの攻撃を受け、巨大イレイザーはやむなく新たな触手を生み出さねばならなくなっていた。エネルギー供給を絶たれる訳にはいかない。のたうつ触手の何本かが、朱鷺や雲雀を襲うが、その動きはそう早いものではない。軽々と攻撃隊は触手を避けて、更なる攻撃を加える。巨大イレイザーが今感じているのは苛立ちだろう。といって別の何かで迎撃するほどのパワーは現在ない。
 時を同じくして地下施設内ではホリイのオートガードに守護され、甚五郎が設備に巻きつく触手に巨大な両手剣で煉獄斬で切り付け、草薙がサンダーブラストを、ブリジットがライトニングウェポンを見舞っていた。

(団長のお役に立ちたい。身を削って頑張ってるヘクトルを補佐することで、間接的にでも何かできるはず)
ぼんやりと物思いにふけっていた董 蓮華(ただす・れんげ)は、スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)に突かれて我に返った。
「はい蓮華ストップ。団長の為にも頑張るんだろ?」
「そうでしたっ……」
「電源設備を破壊して、エネルギー供給を絶つそうだ。そのためにイレイザーの注意を分散させてくれとさ」
スティンガーが受けた連絡事項を、蓮華に伝える。
「陽動作戦……ね。……イレイザーを外部から後ろへ引きずって引き離せないかな?」
「ん? どういうことだ?」
蓮華は熱心に手順を説明した。そしてヘクトルに連絡を取り、提案を試しても良いとの許可をもらった。イレイザーの後方に大型金属杭が4本、地中深く打ち込まれる。橋梁建設用のザイルを引けば締まる形に結び、イレイザーの左右の前足一本ずつに潜らせた。その端は、軍用の大型トラック2台に結び付けられている。また、あらかじめスティンガーが、イレイザーのひざ関節の裏側から一点集中でライフルを目いっぱい打ち込んでいた。
「神経やら腱やらあるかはわからないけど、これで少しは踏ん張る力も減るんじゃないか?」
蓮華とスティンガーはそれぞれのトラックに分乗し、出力を最大にしてイレイザーの足を引く。だが、イレイザーは微動だにしなかった。ぎりぎりとザイルが張り詰め、きっちり固定してある杭がたわむ。トラックのエンジン音が悲鳴のような音を立て始め、焼け付く寸前のモーターから異臭が立ち上り始めた。
「これ以上は危険だ。……仕方ないな。これは失敗だ」
スティンガーはトラックを停止させた。
「複数の杭を定滑車の固定軸に張力を分散させて、イレイザーを効果的に後ろへ引く……うまくいくかと思ったんだけど」
蓮華が唇を噛んだ。
「まあ、ヤツの気を多少は散らせたんだし、いいんじゃないか?」
スティンガーはそう言って、がくりと落ちた蓮華の肩を叩いた。

 地下設備では連携攻撃を受け、隙間なく埋め尽くされていた触手の向こうに発電設備が垣間見えるようになってきた。すかさずユーシスとシャウラが駆け寄って、効果的な位置に機晶爆弾を仕掛けた。
「総員退避!!!」
裕輝が叫んで、自分以外に外に出るよう促す。爆発が影響する位置にいる全員が安全な位置に避難できたかを確認し、2分程度の時限式の起爆スイッチを入れ、脱兎のごとく走り出した。短い廊下を滑るように走り、階段を軽々と駆け上がる。表に飛び出し、できるだけ施設から離れる。あと30秒……10秒……5秒……。なんとか危険域を脱した瞬間、地下への入り口の建物が凄まじい爆音とともに吹っ飛んだ。微かな地響きが足下から伝わってくる。階段があった場所は、しばらく火柱を吹き上げていた。

「奴を栄養失調に出来たぜ。帰りを待ってるからな」
シャウラがなななに無線でそう伝えると、にやっと笑って通信を切った。彼女以外にはその意味するところは正確に伝わったが、当のなななは、
「イレイザーが栄養失調になったって……なに??」
と、困惑の極みにあったという。