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リアクション
■ 目指せ! 蒼空学園 ■
その日のことを、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は幾度も思い返した。
パラミタと契約者のことを教えてくれ、
「……知りたいなら、あなたも契約者になりなさい」
そう言った女性のことを。
真実を知りたいのなら、自分の足で進まなくてはならない。そう美羽に思わせてくれたあの人のことを。
あれから美羽はパラミタのこと、契約者のことを調べて回った。
調べれば調べるほど、パラミタという場所は美羽の憧れとなり、その中でも日本と関わりが深い蒼空学園に通いたいという想いも強くなっていった。だが、地球人がパラミタに入る為には契約者となる必要がある。
この契約というものは、決まるときには何てこともなくぱたぱたと成ってしまうものなのに、いざ求めようとすると難しいものでもあった。
パラミタの種族なら誰とでも契約できるという訳にはいかず、そこには相性と互いの事情が関わってくる。
「みんな、どうやってパートナーとか見付けてるのかな……」
道を歩いていたらパラミタの種族に出くわす、とか、そんな淡い期待を持って出歩いてもみたけれど、そうそう都合の良い出会いなど転がってはいなかった。
そんな時。
蒼空学園で見学会が開催されるという話を美羽は聞きつけた。
地球におけるパラミタへの理解を深める為、蒼空学園の校長である御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が見学希望者を募っているらしい。
契約者でない地球人が空京以外のパラミタに入ろうとすると、全力で拒絶される。けれど小型結界装置を身につけていれば、そこから発生する結界によって、その感知から逃れることが出来た。
その小型結界装置を貸し出すことによって、契約者でない生徒に蒼空学園を見学してもらおうというのだ。
「へぇ、いい校長先生なんだー」
即座に申し込みを決めながら、名前しか知らない蒼空学園の校長に美羽は好感を持った。
パラミタに行きたいという思いを運も後押ししてくれたのか、美羽は見事見学会の参加権を当てた。
初めて足を踏み入れるパラミタは、美羽の興味を惹くものばかり。
すれ違う人も地球では見かけない種族の特性を持っていたりで、楽しくて仕方がない……のかと思いきや、美羽の心は晴れなかった。
(どうしたら契約者になって、ここに渡れるんだろう……)
すれ違う人を見るたび、もしかして誰かが自分のパートナーになってくれないかと期待してしまう。
けれど誰もそんな申し出をしてくれる人はいない。
蒼空学園に到着してからも、美羽ははしゃぐ他の見学者からぽつりと離れ、どうしたらパートナーを見付けられるかと必死に考え続けていた。
「ではこれから蒼空学園内部の見学を始めます。蒼空学園の生徒さんの邪魔をしないよう、勝手な振る舞いは謹んで下さいね」
ガイドのお姉さんが、見学者を引率して歩き出す。
美羽もそれに続いて、想像以上に近代的な蒼空学園に足を踏み入れ……ようとして、ふと立ち止まった。
誰かに呼ばれたような気がして、周囲をきょろきょろ見回してみるが、それらしい人はいない。
気のせいかと思ったが、足は前に進んでくれなかった。
それどころか、気付けば美羽はくるりときびすを返し、校舎の裏へと歩き出していた。
「こんなとこ来ちゃって良かったのかな……」
美羽は不安そうに呟いた。
来て良いのか悪いのかと言えば、いけないのだとは解っている。見学会なのに、自分1人が勝手に行動して良いのかどうかなんて、考えるまでもない。
けれど美羽は誘われるように裏山に、そしてそこにある遺跡へとやってきてしまった。
どのくらい前の遺跡なのだろう。
誰もいない遺跡はちょっと不気味だったけれど、それでも中に入らないといけないような気がした。
「…………行っちゃえ」
ここまで来たんだから、と随分古そうなその内部を美羽が歩き出した……その瞬間。
「きゃっ!」
足下の床が崩れ、美羽は悲鳴を挙げた。
うまく地下に着地できたのは、美羽の運動神経の賜物か。
「参ったな、もう……」
どこも怪我をしていないのを確かめると、美羽は服に付いた床の破片を払い落とした。
どうやら遺跡の地下に落ちてしまったらしい。
どこか地上に上がれるところは……と見回した目が、少女の石像に留まった。
胸の前で手を合わせ、そっと目を閉じた少女を彫った石像だ。
昔風の衣装の襞まで精巧で、今にも動き出しそうに見える。
「なんか可愛いな、この石像」
上手く彫れてるなと感心しながら、美羽は何気なく石像に触れた。
つるりとした磨かれた石の感触……けれどそれは、すぐに布の感触に取って代わる。
「え?」
びっくりして手を引くと、その動きにひっかかった布がゆらりと戻った。
布だけではない。
さっきまで確かに石だった頬には血色が戻り、茶の髪がさらりと流れる。
そして石像だった少女はゆっくりと目を開き……美羽の姿を認めて微笑んだ。
それが美羽とベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の出会いだった。
5000年もの間封印されていたベアトリーチェは、美羽が触れることによって解放された。
まるでそうなることが決められていたように。
人と石としてでなく、人と人として触れ合ったその時に、2人の間には契約が結ばれた。
2人が生きている限り永遠に続く絆の約束、パートナー契約が。
「私の剣を捧げるのが、美羽さんで良かったです」
互いに事情を説明し合った後、ベアトリーチェは嬉しそうに胸に手を当てた。
「私もベアトリーチェと契約が結べて嬉しいよ。けど……これからどうしよう?」
「どうしようと言われましても……」
目覚めたばかりのベアトリーチェにも、どうしたら良いのかは解らない。
2人はしばらく顔を見合わせていたが、とりあえずは遺跡から出て、蒼空学園に戻ることにした。
契約者が通う学校で聞けば、今後の方針も決められるかも知れない。
「ああ、小鳥遊さん、どこに行ってたんですか!」
学園に戻ると、ガイドが血相を変えて走ってきた。
「ごめんなさい、ちょっとあの……裏山の遺跡まで」
「は?」
ガイドの眉がつり上がる。
「で……そこで契約しちゃったから、もうこれいりません」
小型結界装置を外して渡す美羽に、ガイドは怒ることも忘れてぽかんと口を開けた……。
その後、ガイドに伴われた美羽とベアトリーチェは、見学会の途中で抜けたことに対するお詫びと、契約者となった後のことを相談する為に、蒼空学園の校長室を訪れた。
「失礼します……あっ!」
ガイドに続いて校長室に入った美羽は、部屋の一番奥に立つ女性の姿に驚いた。
そこにいたのは美羽がパラミタを目指す理由となったあの女性だったから。
「あら、あなたは確か……」
環菜も美羽を見覚えていたのだろう。本当に来たのね、とその口元が笑った。
「うん、来たよ。それに契約者にもなったの、といってもついさっきのことなんだけど」
契約者として環菜の前に立てるのは、嬉しくも誇らしい。それは美羽が自分で進もうと決意して行動した結果のことだから。
「そう。これでスタートラインにはついたということね」
環菜の言葉に、美羽はここからが始まりなのだと改めて感じた。
これまではパラミタに来ることが目標だった。これからはパラミタですることが目標になる。
「でも、これからどうしたらいいのかな? 学校とかに入るの?」
「そうね。契約してパラミタに来た地球人は、基本的に学校に所属することになっているわ」
「それってこの学園でもいいんだよね?」
目を輝かせる美羽に、環菜はそうねと答えた後、ただし、と付け加える。
「当然、転入試験に合格したら、の話よ」
「し、試験〜?」
勉強なんてしたことのない美羽は情けない声をあげた。美羽にとっては契約よりも難しそうだ。
「美羽さん、頑張って一緒に勉強しましょうね。私も解るところは教えますから」
見かねたベアトリーチェが、美羽を励ましてくれる。
「う、うん。これから一緒に頑張ろうね、ベアトリーチェ!」
2人は揃って蒼空学園入学を果たすことを、誓い合うのだった――。
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