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【創世の絆】光へ続く点と線

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【創世の絆】光へ続く点と線

リアクション


撤退


『無事だったようだな』
ヒトガタを収納した容器を運び出す指示に当たるアクリトの姿を確認し、ジェイダスが通信を開いた。
「ああ、おかげさまでね、恩に着る」
そのときだった。突然一機の見慣れぬイコンが忽然と姿を現した。見たこともない異様な形状で、装甲のあちこちから禍々しいナラカの瘴気を漂わせている。
「なんだ、アレは?!」
おびえきった調査員たちが取り囲むヒトガタの収納コンテナに、異形のイコンはその腕を伸ばす。
「ヒトガタが狙いか!」
契約者たち全員が一斉に伸ばされたイコン腕に攻撃を放つが、一向に効果はない。
ジェイダスの機体が即座に動き、体当たりで敵機を弾き飛ばす。相当な勢いだったにもかかわらず、異形のイコンは30メートルほど横滑りしただけだった。即座に今度はジェイダス機に向かって攻撃を放つ。ジェイダスはこともなげにそれを避けたが、異形のイコンの攻撃が当たった地面は大きく抉れ、溶けた土砂が固まってもうもうと湯気を上げるセラミックの穴と化す。
「なんてパワーだ……だがあの力をヒトガタに使わないという事は……破壊したくないのだな」
アクリトは即座に判断し、イコンに乗らぬもの全員をヒトガタの周囲に集めた。レナトゥスがつと前に進み出た。香菜、ルシアも一緒だ。ジェイダスの力をそのみに宿すレナトゥスがひたとイコンを見つめる。異形のイコンは何かためらうようなそぶりを見せると、一気に垂直上昇し、上空の雲の中に姿を消した。
「今のうちに急ぎ避難を!」
ジェイダスはアクリトに言い、イコン部隊にも命令を発した。
『遺跡調査隊は無事帰還した! 全軍に告ぐ。総員撤退開始! 速やかに戦線を離れろ!』 
 
 遺跡の調査員と成果物収容のために待機していた機動要塞に、調査員たちがぞろぞろと乗り込んでゆく。ヒトガタを始めとする発見した資料が、同時に格納用のエリアに運び込まれてゆく。
「護衛はきっちりとこなしますので、安心してくださいなのですぅ」
その様をサオリ・ナガオ(さおり・ながお)は機動要塞の護衛イコン、ワロニエンでモニター越しに見ていた。言動には幼さが残るものの、指揮官としての才能を持つサオリ。周囲にも油断なく注意を払う。契約した傭兵機2機が、機動性を生かして機動要塞の周辺の警戒に当たり、データが送信されてくる。
「少し高度を上げて、広範囲を索敵してくださいませですぅ」
『了解』
ワロニエンは大型飛空艇にもとから備え付けられている主砲を撤去し、空いたスペースに、2門の高初速滑空砲とガトリング砲、ミサイルポッドを配置してある。
『海上に敵発見。射撃タイプのインテグラル・ナイトと思われます』
「ワロニエン、着水。ソナーで敵の位置を探知しますぅ」
ゆっくりと海面に降りたワロニエンが慎重に接近中のナイトの位置を特定する。敵の進行速度、海流と波の影響をs区座に計算し、ミサイル・ポッドから爆雷を投下し、対潜攻撃を行う。
「発射ですうっ!」
ワロニエンの前方500メートルほどの位置で、猛烈な水柱が立った。
「敵撃破確認ですの」
調査員らを乗せた機動要塞が全てのハッチを閉じ、ゆっくりと上昇、ニルヴァーナの拠点に向けて撤退を開始した。サオリは新たな命令を叫ぶ。
「機動要塞の哨戒再開ですぅ。絶対に機動要塞に敵を寄せ付けてはいけませんっ!」

 調査隊、救出部隊脱出の情報を受け、海上や海岸線で時間稼ぎをしていた部隊の撤退が開始された。補給機や機動要塞など戦闘力の低いイコンから順次撤退してゆくため、高機動である程度の戦力を有する機体は時間稼ぎのため後に残り、インテグラル・ナイトたちの注意を惹きつけるためにある程度残らねばならない。
 前回の決戦で使用した機体が使用できないため、桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)ともども愛機セラフィートで出撃していた。機動力の高さを生かし、海岸の白兵タイプを主に相手取り、ライフル、銃剣の攻撃を当てては退避という味方機の攻撃支援となる囮行動を中心としていた。葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)伊勢は、僚艦テレメーアや土佐、加賀などと並び、撤退する機動要塞などの盾となっていた。撤退による猛攻がやみ始め、敵が海岸線に揃いはじめる。伊勢を母艦とする笠置 生駒(かさぎ・いこま)は今までジェファルコン特務仕様で伊勢に接近する敵の迎撃に当たってきた。軍撤退時の後方支援にあたるため、パワーを温存してきたのである。ジェファルコンの通信担当、シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)がジェイダスの撤退命令を受け、生駒に声をかけた。
「なんやえらいわ、全軍撤退するらしいで〜」
「了解。いよいよワタシたちの本番ね」
手薄になった海岸線から、射撃タイプのナイトが放つビームが目立ち始めた。
「応戦するであります。敵をけん制。艦砲射撃用意……撃てーーーーッ!!」
吹雪が叫び、僚艦ともども断続的に艦砲射撃で応戦を始めた。とにかく味方機の撤退の殿を守らねばならない。敵の居並ぶ中での撤退行動はいわば銃を持った敵に背を向けて走り去ろうとするようなものだ。大変な危険が伴う。
「伊勢に乗り込んだ人たちには貧乏籤を引かせたかも知れないであります」
「撤退時の後方警戒は大事なことだよ。これで後方から射撃されてメインの調査隊が壊滅したりしたら元も子もないわ」
伊勢のオペレータであるコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は忙しく撤退の様子をモニターし、逃げ遅れたものがいないかのチェックを行う合間に吹雪に言う。
「……そうでありますね……当艦は味方を護るため、最後まで残るであります!!」
コルセアは僚機全てに向けて退避を促す通信を行う。
「こちら伊勢。全軍撤退。長距離航行が難しい機体は、速やかに当艦に着艦してください。繰り返します……」
その合間にレーダーにも目を配り、周辺に急接近している敵がいないかなどのチェックも抜け目なく行う。
 吹雪のパートナー鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)は伊勢のドッグで従者の親衛隊員たちを整備兵代わりに使って、退避してきたイコンのトリアージを行い、破損の軽微なものや補給だけ必要な機体などのメンテナンスを行っていた。万が一にも後方からしつこく追ってくるインテグラルがいれば、イコン部隊はまた迎撃のために出撃する可能性がある。生駒のパートナーの一人、外見はどう見てもやや大型のチンパンジーであるジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)もその手伝いを行っていた。下は賢者だったというだけあり、手際もなかなかいい。ロボットのような外見の機晶姫二十二号と、どう見てもチンパンジーのジョージがてきぱきと整備を行うさまはどこかシュールですらあるが。
「こちらの機体は応急修理では間に合いません。Aエリアに格納してください」
二十二号が無表情に言い、にわか整備員たちが指示のあったイコンを運び去ってゆく。
「こちらのは応急措置でで大丈夫そうじゃぞ」
ジョージが身軽さを生かし、イコンの上によじ登って点検している。
「ではこちらに」
今降りてきたイコンのパイロットは驚きの表情で彼らを見ていた。ジョージが忙しく動き回る合間にパイロットをいなす。
「人を外見で判断するでないぞ。そういった判断が今までの人類史においてどのような事態を引き起こしてきたか。 知らぬわけではあるまい?」
「そ、そうですね、はい」
若いパイロットは己の偏見を恥じ、顔を赤らめて立ち去った。
「ま、若い者はあんあのものじゃろ」
ジョージはふっと笑い、作業に戻った。

 伊勢を中心とした艦隊が艦砲射撃を行いながらじりじりと撤退してゆく。それを見ていた生駒が言う。
「さーてと、そろそろ射程圏外に全艦が達するわね。そろそろ行くよ、覚悟はいい?」
「ラストを飾るわけやね。いつでもええで」
射撃型ナイトの射線や到達距離などのデータを取っていたシーニーが応じる。そこに煉のセラフィートからの通信が入った。
「各機へ通達。海岸線上から即刻待避してくれ。当機はこれからヴィサルガで進軍してくる敵を一気に叩く!」
「あら偶然ね。ワタシのジェファルコンもこれから覚醒で一気に叩くつもりよ」
「オーケー、こちらの力、見せ付けてやろう」
「ちょい待った、俺の機も参加させてもらうぜ。そちらが掃討終わって撤退開始と同時に切り札を使う」
横から入ってきた声は、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だ。
「わかった、巻き添えを食わないよう気をつけてくれ」
「問題ない。それまでは後方支援を行う」
「了解」
生駒のジェファルコンが覚醒の輝きを帯びる。海岸に居並ぶ敵のやや後方を狙って覚醒による強力な遠距離攻撃を行う。そのパワーは凄まじく、着弾した場にいたナイトは跡形もなく吹っ飛び、砂地には大穴があく。煉がにやっと笑う。
「なかなかやるな。さて行くか」
エヴァが白い歯を見せ、ヴィサルガ・プラナヴァハを使い、セラフィートの全能力を開放する。
「任せときな。リミッター解除、デュランダルも全能力開放に合わせて最大出力での使用可能。
 その他丸々オールオッケー!
 限界を超えた力、見せつけてやれセラフィート!」
エヴァが叫んだ。ヴィサルガの力で向上した機動性とパワーでデュランダルを振り回し左右へなぎ払い、まさに一騎当千のごとき大立ち回りである。よく切れる鎌でなぎ払われる草のように、インテグラルが切り倒されてゆく。
「全部撃破できなくても十分な損害と警戒心くらいは与えられたはずだ。
 もし海の方へ出てきても待避している味方の追撃で十分に撃破可能だろう」
煉が言った。
 2機のイコンで大打撃を受けたナイトたち。その後方に控えていた一群が更なる攻撃を警戒してか固まって迎撃の体制を取る。
「友軍の後退を確認、こちらも後退するわよ!!」
生駒の合図と共にジェファルコンと煉のセラフィートがパワーの残るうちに大きくターンし、伊勢のほうへと向かう。伊勢からは2機の援護のためのイコン2機が飛来し、ガードするように両脇を固める。後方から支援攻撃を行っていた恭也が呟いた。
「さてと、俺のほうはここからだ。ったく台所の黒い悪魔の如くワラワラと。
 おまけに白兵型と射撃型の2タイプがあるとか面倒臭ぇやつらだぜ」
退避する2機を尻目に、即座に敵陣に移動を開始、射撃を行いながら敵陣へまっすぐに突っ込んでゆく。その間に恭也はイコンの自爆装置でビッグバンブラストが戦艦内部で爆発するようにセットする。
(流石に突っ込んでから自爆したら俺も死ぬからな。
 これなら多少の迎撃にも耐えられるし、俺が脱出するまでの時間もある)
 総員退艦すんでるよな?! これより当機はインテグラル・ナイトの群に突撃する!」
通信機に向かって叫ぶと、キャノピーを開き、聖輪ジャガーノート、機晶アクセラレーターで速度強化した小型飛空艇ヘリファルテで脱出し、一気に伊勢のほうへと離脱する。伊勢のデッキに着艦するかしないかのタイミングで、海岸線から凄まじい爆発音と衝撃波が伝わってきた。恭也が大きくデッキで伸びをした。
「戦艦にはな、こういう使い方もあるんだよ!」