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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 パパは寂しいお年頃
 
 
 
「ただいまっ!」
 埼玉のお茶の町に建つ一軒家の玄関を入りながら、久世 沙幸(くぜ・さゆき)は元気良く挨拶した。
「沙幸ちゃん、お帰り」
 両腕を広げ、ハグしようと待ちかまえている父、久世弘司……のことはとりあえず放っておいて、すたすたと横を通り過ぎる。
 そもそも、沙幸が実家に帰らずにパラミタで新年を迎えようか、なんて思っていたのもこの父親の存在あってのことなのだから。
 結局、母の美味しいご飯が恋しくて里帰りを決めたのだけれど、最初から父親を甘やかしてしまったら後が大変そうだ。
 ちらっと見ると父親は涙目状態だったけれど、気にしないことにして自室に荷物を置きに行った。
 
 部屋はパラミタに旅立った時と何一つ変わっていない。
 埃も積もっていないから、誰かが掃除してくれているのだろう。
(綺麗にしてくれてるのはお母さんかな……それともお父さん?)
 まぁとりあえず部屋着に着替えようと、沙幸は勢い良く服を脱いで下着姿になった。
 と、いきなり部屋のドアが開く。
「沙幸ちゃん、お餅を焼こうと思うんだが、いくつ食べる?」
「お父さんっ、部屋に入るときはノックしてからって何時も言ってるでしょ! もう、えっちなんだからっ!」
 近くにあった枕を取って、思いっきり父親に投げつける。
「お餅なんて自分で焼くからいいんだもん! それより早くドア閉めてよっ」
 ほんとにもう、と沙幸は腰に手を当てて弘司を睨んだ。
 
 
 着替えて下りて行くと、食卓にはもう沙幸の好物が並べられていた。
「わぁ、美味しそう。お母さんのごはん食べるの久しぶりだから楽しみ」
「沙幸ちゃん、お帰りなさい。たくさん作ったから、どんどん食べてちょうだいね」
 母の久世美幸は笑顔で娘を迎え、料理を勧める。
「うんっ。いただきますっ」
 沙幸が手を合わせると、弘司も大急ぎでやってきて食卓についた。
 久しぶりの家族顔を合わせての食事だ。
「それで、パラミタはどうなんだ? 危険な目に遭ったりしていないだろうな?」
 過保護な弘司は沙幸がパラミタに行きたいと言い出した時、猛反対した。沙幸の意思を尊重した美幸が後押しした為、ようやくパラミタ行きを認めはしたのだが、やはり心配なのだろう。沙幸に尋ねる声にもそれがありありと表れている。
「心配いらないってば。あのね、空京にもこっちと同じように神社があるんだよ。そこに布紅さまっていう可愛い神様がいらっしゃってね、私、そこで巫女さんのお手伝いをしてるんだよっ」
 福神社での出来事、クロネコ通りでみんなでクロネコさん捜しをしていたはずなのに、いつの間にかおもしろグッズに夢中になってしまったりで、結局誰も見つけられなかったこと、等々、両親に自分はちゃんと向こうでも暮らせてるんだというのを、沙幸は面白可笑しく話した。
「ごはんはどうしてるの?」
「それは……ほら、学食とかあるし、向こうにもコンビニだってあるんだもん。だから大丈夫……」
 そう言いかけて母の顔を見、じゃないよね、と沙幸は付け加える。
「沙幸ちゃんには料理を教えてこなかったものね……」
 やっぱりそうだったかと美幸は沙幸を眺めた。
「帰省してきたんだから、この機会に料理を教え込んでおかないと」
「えーっ。のんびり出来ると思ったのに」
「こっちの料理をパラミタで作ってあげたら、パートナーさんも喜ぶと思うわよ。ねぇ、弘司さん?」
 美幸は同意を求めて弘司を見たけれど。
「……沙幸ちゃんの手料理……」
 弘司はすっかり娘の手料理のドリームに浸り中。
「料理できるようになっても、お父さんには作ってあげないもん!」
 ばっさりとその夢を払いのけると、沙幸は再び母の手料理に箸をのばした。
 
 食事が終わってからも父母との話は弾み、気づくといい時間になっていた。
「沙幸ちゃん、そろそろお風呂に入って休んだら? 今日は疲れたでしょう」
「うん、そうさせてもらうねっ」
 美幸の言葉を受けて沙幸が席を立つと、そそくさと弘司も立ち上がる。
「……お父さん? どこに行くつもり?」
「いやあ、最近ずっと沙幸とお風呂に入っていないなあと……」
「絶対にお風呂に入ってきたらダメなんだからねっ! もし入ってきたら、お父さんと口聞いてあげないんだからっ!」
 しゅん、としおれる父親に宣言しつつ、沙幸はふと思う。
 もしかして自分の恋愛対象が女性になったのは、この娘大好きな父親の影響もあるんじゃないか……と。