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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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 頑なな父
 
 
 
 日本の正月風景と言えば、家でのんびりと家族と正月番組を見て過ごしたり、家族旅行に出かけたりする家庭も多いだろう。けれど、そんな和やかな風景は朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)の実家ではあり得ない。
 神社である千歳の実家は正月は一年で一番忙しい時期の一つで、地球にいる頃は千歳もバイト巫女に交ざって手伝うのが普通だった。正直、正月をゆっくり過ごしたいと思うならパラミタにいた方が良い。
 だが、千歳にはどうしても実家に戻らねばならない事情があった。
 母の朝倉 千里からのメールによると、父は千歳が勝手に蒼空学園を退学したことに激怒しているらしい。
 東西で戦争になりそうになって、母に戻ってきなさいと言われたのを無視してしまったこともあり、両親を随分心配させることになってしまった。
 今考えると恐ろしいことをしたものだと思う。
 ヴァイシャリーはイルマ・レスト(いるま・れすと)の故郷であり、百合園女学院には従姉妹もいた。その為に千歳は東側で参戦したのだが、そうしながら蒼空学園に籍を置いておくことは千歳の信義に反する。だから千歳は百合園女学院への転校を決断したのだ。
 そのことを後悔はしていないけれど……。
 帰省した実家は例年通りに忙しく、なかなか父親と話す時間が取れない。やっと時間を作り出しても、父親は宮司としての指示以外、まともに千歳と話をしてはくれなかった。
 これでは理由も説明できない。ついため息のひとつもつきたくなる。
「悪いな。家庭内の問題にイルマまで巻き込んでしまった」
 そんな千歳の様子にイルマは、やっぱりこういうことかと納得していた。
 帰省に同行しようとしたら、正月は神社の手伝いをさせられるから来ない方が良い、と千歳に止められた。けれど今までさんざん、福神社等で神社の手伝いにかり出されていたイルマは、そんな言葉を理由とは認めず、こっそりと千歳の後を追って地球にやってきたのだった。
 イルマに言わせれば、千歳は嘘をつくのが下手、というより才能が無い。そんな千歳がイルマを騙すことなど出来ようはずもない。
「そもそも、私の我が侭で蒼空学園を退学することになってしまったのですし……その所為で千歳と父親との関係を悪くしてしまったとしたら、私の責任です」
 なのに千歳を1人で地球にやることなど出来ない、とイルマは着いてきて正解だったとほっとしたのだけれど。さりとて、こういう時どうすれば良いのか、両親のないイルマには解らない。傍にいることは出来るけれど、悩んでいる様子の千歳に助言の1つも出来ないことが心苦しい。
「いっそ責めるなら、千歳ではなく私を責めていただきたいですわ」
「いや、転校のことはイルマだけでなく、私も納得して決めたことだから」
 責められるべきはイルマだけではない、と千歳は言った。
 ここまで父親との関係がこじれるとは予想していなかったけれど、自分で選んだことの結果だから仕方がない。
 けれど、せめて母親には心配させてしまったことを謝罪して、今は百合園女学院でうまくやっているという報告だけでもしておこう。
 そう考えた千歳は千里のところに出向いた。
 
 
 千歳から状況を聞いた千里は、
「お父様はお会いにならないでしょう」
 と答えた後、続ける。
「ですが、本当はそれほど怒っていませんから心配することはありません」
「そうなのか?」
「ええ。千歳さんが頑固なのはあなたの血筋ですと言ったら……膨れてました」
 その時のことを思い出したのか、笑みをこぼす母に千歳は胸を押さえる。
「お母様はよくお父様にそんな恐ろしいこと言えるな……」
「あら、恐ろしいなんてことありませんよ。お父様は千歳さんに相談されなかったことを拗ねてるだけなのです」
「拗ね……けれど、結果的にお父様にもお母様にも心配をかけてしまったのは確かだから」
「それは……私ももちろん親ですから心配はしましたが、今元気な姿が見られて、それで十分です」
 それ以上の気遣いは不要だと、千歳は穏やかに微笑んだ。
「転校自体は、中学までは千歳さんも百合園に通っていたのですし、私の母校でもありますから」
 ただ、娘に頼られたかった、という気持ちと、何故急に転校したのだろうという心配が相まって、父親は頑なになってしまっているのだと千里は言った。
 それを解決できるのは時間だけ、だとも。
「暖かくなったらまた来なさい。その頃には機嫌も治っているでしょうから」
「分かった。次来る時はお父様とも話ができるといいな……」
 硬化した父の気持ちが自然に解ける頃、また実家に帰ってこようと千歳は心に決めるのだった。