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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 屋根から見る星空
 
 
 
 中国は河北省の滄州市にある農村。
 大晦日、故郷であるその村に琳 鳳明(りん・ほうめい)セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)は共に帰った。
 小さな村であるが故に、鳳明はこの村で唯一の契約者であり、パラミタに渡った者である。そのこともあって、鳳明が帰省する、との報はあっという間に村中を駆けめぐり、親交のあった村民が総出で出迎えてくれた。
「お帰り、鳳明」
 村民の一番前で、琳 鳳炎がいつもの仏頂面で鳳明を迎える。
 82歳の鳳炎は髭も短く刈った髪も真っ白だ。厳しくも優しい彼は、村はずれの林に捨てられていた鳳明を拾い、妻と共に育ててくれた養父であり、拳法の師でもあった。鳳明にだけでなく、農閑期には村民に拳法を教えており、皆からは親しみをこめて『偏屈者の琳じいさん』と呼ばれている。
「おじいちゃん、ちょっと老けた? ……あ痛っ」
 しばらくぶりに見る養父につい言ってしまった鳳明の頭に、ごつんと鳳炎の拳が食らわされる。
「帰ってきて早々の挨拶がそれか」
「あ、いや、おじいちゃん相変わらず元気そうだったから」
 えへへ、と笑うと鳳明は迎えてくれた村民へと向き直った。
「あんまり人が多くてびっくりしたよ。お正月でもないのに皆総出で迎えに来てくれたの?」
 中国では正月といえば旧正月の春節を指し、賑やかに新年を祝う。
 まだ春節には早いのに、その祝いにも負けぬほどの賑やかさで迎えられるとは思わなかった。
 よく帰ってきたなと言ってくれる皆へと、鳳明は何はともあれ、と敬礼する。
「琳鳳明、セラさんと一緒にパラミタから2年ぶりに帰ってきました!」
 
 
 鳳明とセラフィーナは、そのまま宴会騒ぎへと巻き込まれた。
 村ではちょっとした英雄の鳳明とセラフィーナを、村民たちはこぞって歓待してくれた。
 それはとても嬉しいことだったのだけれど……。
 
 
 その夜遅く。
 やっと宴会が終わって床に入ってからも寝付けず、鳳明は屋根の上に登って星を眺めた。
 寒空に輝く星は、どの季節よりも綺麗に見える。
 そうして空を見上げているうちに、気づくと隣には鳳炎が座っていた。その鳳炎に語るともなく、鳳明は独白する。
「村の皆は私のことを褒めてくれたけど、本当は私なんてそんなに出来た人間じゃないのにね」
 契約者になって、身体も強くなって、皆を守る力が自分にはあるのだと思っていた。
 確かに、守れたこともあった。
「でも……もしかしたら、それで思い上がってたのかな。私が守るって決めたら、どんな状況にも打ち勝って守り通せるんだって」
 けれど、そんな訳なかった。
「教導団から離れてまで、守ろうとしたんだよ。けどその最期は、戦場の端っこでの暗殺だった。あっけないよね、終わりなんて。その後も、私の手の届かないところで戦って、いなくなって……」
 失いたくない。心からそう思っていたのに。
「ねぇ、おじいちゃん。私はどうしたらいいんだろ。どうしたらもっと強くなって、大切な皆を守れるんだろう? どうしたら……」
 鳳明の独白を、鳳炎は黙って聞いていた。
 そしてしばらくしてから、漸く口を開く。
「強い弱い以前に、未熟者であるお前が他人を守るなどおこがましい。セラフィーナから聞いたぞ。お前、対人では試合ですら拳を使わんらしいな。そんな基礎の伴わん槍のみで戦おう等と、思い上がりも甚だしい。分不相応を成すならば、持てる全てを使え!」
 厳しく叱咤した鳳炎は、まぁしかし、とそこで口調をややゆるめた。
「お前は近しい者の死から目を逸らさず、そして忘れず、それと向き合っている。それだけでも大したものよ」
「……おじいちゃん」
「鳳明。お前は悩んでも立ち止まってもいい。しかしその結果から逃げるな。時間をかけてもすべて受け止めて、次の一歩を踏み出せ」
 それがどんなに辛くとも、と言った後、鳳炎は口元をほころばせた。
「……ふむ、日の出か。ちと喋りすぎたわい」
 白みはじめた空を、鳳明と鳳炎は並んで眺めた。
 2021年の始まりを告げる初日は最初は頼りなく、けれど見る間に明るさを増し、世界を光で満たしてゆく。
 新たな年の始まり。
 それは、鳳明の新たな一歩の始まりでもあった。