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これが私の新春ライフ!

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これが私の新春ライフ!

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●二人の時間

 元旦、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と初詣に行き、ポートシャングリラでバーゲンに参戦したあと、餅をもらったり凧揚げをしたりして過ごした。それは怒濤の一日だった。特に、凧揚げが深夜になってしまったのは、いくらなんでも無謀だった気がする。
 打って変わって正月二日目、二人は一日中部屋に閉じこもり愛し合ってすごした。目覚めては相手を求め、しばしまどろんではまた、相手の肌に手を這わした。太陽も月も一度も目にしなかった。遮光カーテンを下ろした部屋で、セレンフィリティはセレアナをむさぼり、セレアナはセレンフィリティを渇望し続けた。
 そして今日は三日目。
 朝のまどろみの中、カーテンを引いて久方ぶりのお天道様を眺める。もう正午近いのだが、昨日の終わらぬ情事が激しすぎたせいか、セレンフィリティはシーツにくるまったままぼんやりしていた。はっきり申して、だるい。
 ところがそのとき彼女の視界に、昨年末気まぐれで買った映画雑誌が入った。
 セレンフィリティは身を起こすと、
「ねえ、起きて、起きてったら」
 ゆさゆさとセレアナの身を揺さぶった。一糸まとわぬセレアナは寝ぼけ眼で、「どうしたの……まだ欲しいの……?」と言い。顎を上げて目を閉じたのでセレンフィリティはとりあえずその唇を吸った。
 そして、
「映画いこ!」
 セレアナの細い体を抱き上げ、今度こそ起こすべく強く揺さぶったのだった。
 かくて二人は空京の映画館へ出かけた。セレンフィリティが手を引き、セレアナが引きずられるような格好で。
 何を観るのか、実はセレンフィリティは考えていない。
 多数の映画が同時にかかっているシネマコンプレックスに到着し、
(「コメディ映画でも見ようか……」)
 とポスターに目をとめた。それは、愉快なコメディアンが刑事に扮し、なんだか頑張る痛快コメディアクションシリーズの五作目か六作目だ。全米大ヒットだったのは二作目までだが、実は三作目も結構好きなセレンフィリティである。
 ところが、
「あれがいい」
 と、セレアナが指をさしたのは、映画黄金期の名画のリバイバルだった。
 有名な作品とはいえ、セレンフィリティはこれを観たことがない。
「え、どうしたの、急に?」
 そういえばセレアナは普段、あまり映画に興味を示さないのである。セレンフィリティにつきあって観るには観るが、その程度で、積極的に映画を観たがったことなどついぞなかった。その彼女が今日に限って、「これが観たい」と、もう一度はっきりと言った。
「悲恋物か……意外ね」
 セレンフィリティが立ち尽くしていると、すぐ近くで少年二人が泡を飛ばしていた。
「……え、本気でそんなラブロマンスが観たいのか!?」
「本気も本気だ。だから、これ、絶対良いんだって! オレ、昔一度観ただけだけど、いまでも人生のベストファイブに入るくらいだもん」
「まあ、そこまで言うんなら……」
 と、蒼空学園の制服を着た二人は、学生割引料金で入っていったのだった。
 ふぅん、とセレンフィリティは思った。そして、ちょっと興味も湧いてきた。
「わかったわ、じゃ、そうしましょ」
 映画が始まった。半信半疑でスクリーンに向かっていたセレンフィリティだったのに、三十分もせぬうちに、モノクロームの映像の美しさと内容の良さに引き込まれてしまった。
 運命に翻弄され、永遠の別離を強いられる二人の物語だ。ありきたりといえばありきたりの話かもしれないが、その物語には心を奪う説得力があった。
(「あ、やだ……涙が……」)
 つい、セレンフィリティは涙ぐんでしまう。そっと隣のセレアナを見ると、
「くすん……」
 と、本気で泣いてるではないか。そんな彼女があまりに美しく、愛おしくて、とうとうセレンフィリティはもらい泣きしてしまった。映画の中の恋人たちと自分たちとを重ね合わせたらさらに泣けるではないか。最後は二人ともハンカチがぐしゃぐしゃになってしまった。
 そして、映画は終わった。
 近くのカフェでセレンフィリティとセレアナは休憩した。といっても会話を楽しむでもなく、しばらく無言で向かい合い、座っているのだった。やっと離せるようになったのは、座って十分ほど経ってからのことだった。
 最初は映画の感想を言い合ったりしていたが、なんとなくセレンフィリティはしんみりしてきた。また涙が出そうになる。
「……あの映画の二人のようになれたらいいよね……でも、どちらかが先に死に別れるのだけは嫌よ、死が二人を分かつんじゃなくて、死んでもずっと一緒だから」
 ようやくセレンフィリティが言えたのは、この言葉だった。
 するとセレアナは歌うように、
「愛する……それはお互いに見つめ合うことではなく」
 劇中の台詞を語ったのである。セレンフィリティは応じ、
「……一緒に同じ方向を見つめること」
 最後のフレーズを唱和した。忘れ得ぬフレーズだった。けだし名台詞と思う。
 ふふ、とセレアナは微笑した。
「……私たち、どこを見てるのかしら?」
「どこかしらね」
 セレンフィリティも微笑を返した。
 劇中の二人と違って、セレンフィリティにはセレアナが、セレアナにはセレンフィリティがいる。その現実が嬉しかった。やがてセレアナは席を立つ。
「せっかくだし、あと一本くらい、映画見て帰ろうか」
「いいですね。今度は何にします? 『風雲少林拳』?」
「ウソッ!? あんなの観たいの!? えー、でも今日はセレアナの勘に従うべきかなぁ……?」
「いいえ」するとセレアナは、くすくすと笑ったのである。「今度のは、冗談です」