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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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第3章 おにーちゃんと一緒のバレンタインデート

「アリア、どこから行きたい?」
 アリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)が行きたいところ優先しようと、七尾 正光(ななお・まさみつ)は園内を見回して眺めている彼女に聞く。
「えっとねー・・・、コーヒーカップに乗りたい!行こう、おにーちゃん♪」
 彼に抱きつくように腕組をしてバレンタインのデートをする。
 ニコニコと嬉しそうなアリアの姿に、彼も思わず笑顔になってしまう。
 20分くらい待ち、ゲートの中へ入る。
「あのピンクのお花がいいっ」
 色鮮やかなガーベラのコーヒーカップを指差したアリアが彼の片腕を引っ張る。
「テーブルがふかふかだね♪」
 その花の真ん中に咲いている小さな花が、テーブルカバーに再現されている。
 イ長調のドイツ舞曲が流れてきたのと同時に、カップもゆっくりと回転し始める。
 子供が庭で走り回るような楽しげなサウンドにつられ、アリアは足でタンタンとステップを踏む。
「ぁあっ、おにーちゃんっ」
「―・・・どうしたんだアリア?」
 突然大きな声を上げる彼女に驚きながらも、年上の彼氏として平静を保ち、何かあったのかというふうに言葉を返す。
「さっきから私ばっかりで、おにーちゃんはぜーんぜんカップ回してないよ?」
 1人で回してるだけじゃつまらないという態度で、アリアは不満そうに頬を膨らませる。
「一緒に回そうよーっ!」
「うん、そうだな。一緒に回そうか」
 アリアに気をつかって回させてあげていたが、2人でカップを回したいようだった。
 テーブルに手をかけ、2人でくるくると回転させる。
 軽やかなリズムのピアノ曲を聴きつつ、彼女の無邪気な表情を眺めて微笑んだ。
「足元に気をつけてな」
 数分間後、曲と共にカップが止まり、躓いて転ばないようにアリアの手を握ってカップから降ろしてあげた。
 夕食を済ませて、次の場所に行こうとマップを見て探す。
「確かこの辺りのはずなんだけど・・・。その階段の下みたいだな」
 ゴンドラに乗ろうと木造の階段を下りていく。
「アリア、俺の手に掴まれ」
「うん!」
 正光に手を引いてもらい、風に揺らされているゴンドラへ乗る。
「ここから植物園の建物とか見えるんだね?花の上にいるミツバチ、可愛いね♪」
「もう少し暗くなったら灯りがつくんだろうな」
「クリスマスイブの時は、雪や氷で出来たアトラクションがあったよね?」
「触れても溶けないんだよな」
「そうだったね。なんだか不思議な感じだったよ」
 ひんやりと冷たい氷雪のメリーゴーランドに乗った時のことを思い出す。
「あの時は私、ユニコーンに乗ったんだよね?」
「2人で乗ったんだったよな」
「乗りづらかったから、おにーちゃんが乗せてくれたっけ。その後、馬から降ろしてくれたりね」
「落ちたりしたら危ないからな」
「えへへ、おにーちゃんって優しいね♪」
 ニコッと笑い彼に寄りかかる。
「せっかく遊びにきたのに、怪我したら楽しくなくなるじゃないか」
「でも、危なくなったら助けてくれるもん」
「だからって急に走ったりとか、危ない真似はしないでくれよ」
「はぁ〜い、分かってるよ」
 黒色の髪を撫でてもらいながら正光を見上げ、元気な笑顔で返事をする。
「1週回ったみたいだな。そろそろ下りようか」
 ゴンドラが下り場につき、アリアの手を引いて降ろしてやる。
「ねぇ、あのおっきい観覧車にも乗ってみたい!」
「まだ少し時間があるから、行ってみるか」
「わぁ〜、かなり混んでるね」
「恋人同士で来ている客が多いみたいだし、特に夜はかなり並ぶみたいだな」
 いったい何人待ちなのかと正光が行列を見る。
 2時間半くらい経ち、やっと乗ることが出来た。
「どんどん上がってくねっ」
 アリアは窓に両手をつけて外の景色を眺める。
「遊園地が飴で出来てるように見えるよ。食べたら甘いのかな?」
「残念だけど本物の飴じゃないから食べられないな」
「そっかー・・・。ねぇ、おにーちゃん」
「何だ、アリア」
「今日、チョコいくつもらったの?」
「―・・・誰からももらってないな」
「じゃあ・・・私がプレゼントしてあげる♪」
 特製の手作りチョコを正光に手渡す。
「実はね、もう1つあるんだよ」
「へぇ、何だろう」
「えへへっ、目を閉じてくれたらあげる」
「ん、こうか?―・・・っ!?」
 目を閉じるとアリアから頬にキスのプレゼントをもらい、一瞬だけ顔を真っ赤に染めた。
「アリア、こっちに来てくれないか。なんだか冷えてきたからさ」
 隣に来るように誘い包み込むように彼女を抱き締める。
「おにーちゃん、暖かいね」
 抱き寄せられたアリアは彼に寄り添うように寄りかかる。
 観覧車は30分くらいで下に着き、ゆっくりと下りた。
「ねぇねぇ、さっきあげたチョコ。今食べてみて?」
 今すぐ食べてもらった感想を聞きたい彼女は、彼の片腕に抱きついて言う。
「美味しいよ、ありがとうな」
「えへへ〜、どういたしまして♪」
 正光に頭を撫でられて嬉しそうに彼を見上げ、無邪気な笑顔で微笑んだ。