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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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第6章 変われるのはいつの日か

「歩さま・・・一昨年の雪祭り。ボクに言ってくれた言葉・・・覚えていらっしゃるでしょうか・・・?」
 真口 悠希(まぐち・ゆき)は遠慮がちに小さな声音で言い、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)に話しかける。
「うん・・・覚えてるよ」
 “他の人の方が好きって言われたら仕方ないけど・・・・・・そうなったら、あたしが慰めてあげるから!”
 彼女のその言葉が現実のものとなり、悠希の想いは桜井 静香(さくらい・しずか)に届くことはなかった。
「(悠希ちゃんフラれちゃったんだね。でも、恋愛ってことを考えるとこればかりはね)」
 彼女が男の子と知りながらも、憔悴しきった顔をする友達を歩は優しく抱きしめてあげた。
 まるで手のかかる子供のように、よしよしと金色の髪を撫でてやる。
「歩さま・・・あの。ボク・・・自分が選ばれなかったことはいいのです・・・けど。世界で一番好きな人の為になりたいって真剣に、本気で頑張ったつもりでした。でも・・・重荷になるばかりでためになれなかった。だから、きっと・・・ボクには何の価値もなくて、誰のためにもなれない人間で・・・。なので・・・もう皆や、歩さまの側にもいない方がいい、って・・・」
 泣くのを我慢していた悠希は、だんだんと目に涙を浮かべる。
 歩に寄りかかるように彼女の肩におでこをとんとつけ、ポロポロと涙を流してしまう。
「うーん、正直外から見てたら、悠希ちゃんは視界が狭くなりすぎてた部分はあると思う。恋は盲目っていうくらいだから仕方ないかもだけど、好意を向けられることは必ずしも嬉しいことじゃないし。こちらが好意を向けたからって必ず見返りが返ってくることなんてないんだよ」
 これから悠希にもっと成長してほしいな・・・と思いを込め、厳しくも優しい言葉を返す。
「でも・・・不思議なんです。歩さまとお話しているとボク、凄く温かい気持ちになれるんです・・・」
「あたしでよければいつでも話相手になるよ!」
「けど、慰めて頂いてばかりじゃダメですよね・・・」
 バッグからキレイに包装した箱を取り出して歩に渡す。
「―・・・あたしに?中身は何かな」
 丁寧に紙を取って箱を開けると、その中には手作りのチョコレートが入っている。
「えっと・・・お礼を兼ねて、チョコを作ってきたんです。けど・・・歩さまの好みのチョコを知らなくて、ミルクビターホワイト・・・って3つも作ってきちゃって」
「3つも作ってきてくれたの!?」
「本当・・・ボク、不器用ですよね。だから・・・重荷にならない程度で大丈夫ですが。ボク・・・歩さまのこと、もっと知っていきたいのです。ボクも・・・貴女の様な本当に人を励ましたり、力になることのできる人間になりたいって思うから・・・。甘えてばかりじゃいけないって思います。けど、今は・・・」
 相手の荷物にならず誰かの助けになりたい。
 それなのにまだ甘えるだけの側、そんな自分を情けなく感じて涙を零し、歩をぎゅっと抱き締める。
「愛で返してもらうだけが全てじゃないんだよ。それに、お荷物になるかどうかなんて、相手の顔を見たらきっと分かるよ?言葉に出さなくても、悠希ちゃんに感謝してくれている人だっているはずだからね」
「本当にそうでしょうか・・・」
「価値のない人間なんていないんだよ。もっと自分に自信を持ってよ」
 歩は悠希の頭を撫でて、泣き続ける彼女を元気づけようとする。
「―・・・ねぇ悠希ちゃん。気持ちで返せないけど、傍にいてほしい・・・。それだけじゃいけないかな?あたしは悠希ちゃんがどっかに行っちゃうなんていやだよ」
「傍に・・・ですか。えぇ・・・、確かにそうですよね・・・。ボク、歩さまや皆の傍にいたいです・・・」
 ずっと折れそうになっていた心に僅かな勇気が湧き、いつか歩も支え助けられる程に強くなりたい。
「よーし。このチョコ、今食べちゃおうかな。―・・・うんっ、どれも美味しいよ!ありがとうねっ」
「(ボクはまだ・・・歩さんたちの傍にいていいんですね・・・。嬉しいですっ。助けになれたらいいな・・・)」
 そして今度は自分がそうなれるように・・・と心の中で呟き、自分が作ったチョコを美味しいと言ってもらえたことを喜び、泣き顔を笑顔に変えて微笑んだ。